第19話 完成
「……だから、マルスミア殿下は良い方でも、王家として決まっている、しかも弟の婚約を破棄は出来ないのよね」
リーニャは正妃と側室間の争いや、貴族の婚約についての意味や決まりなどをトアに説明した。
「うわぁ、本当に貴族様って難しいね……そもそも、奥さんが一人じゃないからそういう争いが起きるんじゃない?」
「まぁ、そうなんだけれどね。こればかりは、ずっと続いてきた貴族の歴史があるから変わらないと思う。でも、貴族の中には一夫一妻の所もあるから、全ての貴族がそうってわけでもないのよ」
「はぁ~、なんかもうお城ごとドカンとやりたくなってくるなー」
「だ、だめよ!」
「あはは、冗談だよ~マルスミア王子もいるし。でも、その王家の婚約を破棄できるくらいの力が必要ってことだよね。まだよくは分からないし嫌いだけれど、権力とか地位っていうのが必要なんでしょ? あとお金もかな??」
「そうね、王家以上の権力があって、且つ王家の瑕疵があれば可能だと思うわ。瑕疵については、リアさんが明らかに虐げられているのだからそれで十分かも。あと、トアとリアさんが暮らしていく為のお金も必要ね。少しずつ貯めていくしかないけれど……その治癒の魔道具に他の人が治癒魔法の存在に気づかないように隠蔽するような魔法って掛けられるかしら?」
「魔法陣や魔力の痕跡を見えなくするってことだよね? 透明化の魔法の応用でできると思う」
「そ、そう」
「透明化」というかなり気になる言葉が出てきたが、リーニャはとりあえず頭から振り払い話を先に進める。
「じゃあ、そうやって隠蔽した魔道具を売ってお金を貯めるのがいいかもしれないわ。但し、今のままでは効果が高すぎるから、もっともっと効果を薄くしましょう。そうね、例えば持っていると喉の痛みが少し緩和するとか、視力が少し良くなるとか、よく眠れるとか、それくらいにするの。それなら、薬の効能と同じくらいだから大丈夫だと思うわ。薬と違う所は、特に効能を限定したものでないから、特定の病気や怪我に限定することなく効果を発揮することね。お守りみたいに持っておくようなイメージかしら? 本当は貴族に高値で売れたらいいのだけれど、それだとトアが特定されて、囲おうしたり邪魔をしてくる貴族が出るといけないから、しばらくは庶民向けに売って口コミで広がるようにしたいわね。幸い材料費はあまりかからなさそうだし。誰か信頼できる商人を通して売って実績を作っていければいいのだけれど……」
「リーニャ……すごい! そんなに考えられるなんて、本当にすごいよ、リーニャは!」
「えっ、そんなことないわよ」
「魔道具はね、リアを助ける為のお金稼ぎでもあるんだけど、平民の暮らしを良くしたいっていうのもあって……平民の生活は怪我することも多いから……」
そう話しながらトアは、魔獣によって怪我をした時のアンドールの姿を思い出していた。
「そうね、有事の際も貴族の方が優先されるのよね……うん、なんとか販路を確保しましょう!」
肝心の商人については決まらないままだったが、とりあえず商品化に向けて魔道具の作成に取り掛かることにしたのだった。
数日して、試作品第一号ができたトアはリーニャとも話し、町の治療院で年中募集しているボランティアに参加して、そこでこっそり試作品を試すことにした。
そして数日後、トアが治療院に行った日の夜、試作品の効果についてトアから報告を受けたリーニャの顔は、みるみる青ざめた。
「ぇえっ! 骨折が数秒で治ったの?!」
「うん、ちょっと早かったよね?」
「ちょっとじゃないわ! 大丈夫だった? 気づかれなかった??」
「うん、多分大丈夫……なんかその人、治す前から私のことを女神様とか呼んでたし、治しても変わらなかったから、そんなに気づいてないんじゃないかなぁ?」
それを聞いたリーニャは「そっちの問題もあったんだわ……」と気づいたが、もう遅かった。トアの美しさは別格で、更に成長したら、もう町中の男性が寄ってきそうだと、リーニャは心配になる。トア自身が一番それに疎いのだから危ない事この上ない。
町の治療院ではそれから数日「女神が降臨した」と口コミが広がり、擦り傷程度の者まで押し掛ける事態となるのだった。
実はその他にも、調整前の試作品で意識不明の重体者が、突然ムクリと起き上って、周囲から「お化けー!」と絶叫がこだましたこともあったのだが、先ほどのリーニャの反応を見たトアは「これ以上驚かせちゃダメよね」と、その情報をこっそり心に封印したのだった。
なにはともあれ、それから数日でやっと試作品の調整も終わり、二人はほっとしていた。
「良かったぁ、思ったより早く試作品が調整できて!」
「本当にね……」
(このままだとトア目当ての患者で治療院がパンクする所だったわね)
そんなことを心の中で思いながら、リーニャは苦笑する。患者にはお守りだと言って試作品を手に握らせて実験を繰り返したが、最終的には子供でも握れるほどの小さな木製の小箱に落ち着いた。効果を抑える為にも木箱の中の魔法陣は小さい物で良かったことも箱を縮小できた要因だった。材料費も更に節約になるし、これならお守りとして庶民に普及させることも可能だろう。トアは少ししか治癒魔法を込めていないということだったが、一つの箱で風邪や切り傷程度なら、六百回使用しても効果は切れていなかった。
というわけで、魔道具の方は完成したものの、信頼できる商人の選定は難航していた。リーニャは貴族であるため、家の付き合いのある商人はそもそも高級品を取り扱うし、庶民向けの店ではない。どうしようかと思案していた二人だったが、思わぬことでその問題も解決することとなるのだった。




