第16話 友達
そのままゆっくりふわっと着地し、バツの悪そうな顔をしたトアは、無言のロジャーに直ちに連行されて行った。生徒達の間では、何か飛行に関するような魔道具が学校に存在していて、それをトアが勝手に持ち出してたのではないかという憶測が飛び交った。
とりあえずただごとじゃないと思ってトアを連行してきたロジャーは、人気のない裏庭まで来ると、混乱しながらもトアを問いただす。
「トア、とりあえず最初に言うと、先生は肝が冷えたぞ!!」
「ごめんなさい? でも、何がダメでしたか?」
「それは……まず高い所に登ったら危ないだろう? それから……というかあれは何の魔法だ?」
「…………風魔法……デス」
「本当か? 風魔法の使い手は沢山いるが、それで飛べる者となると数えるほどしかいないぞ? それも数秒浮ける程度だと聞く。それにあの時、風は吹いていたようには感じなかったんだが?」
「先生さっすがー……じゃなかった……いえ、勘違いデス。風魔法デス」
「はぁ~、いいか、トア。先生が火魔法を使うなと言ったのは目立つからだ」
「あっ、うん、目立つのはダメなのは分かるよ!」
「そうか……ソレハヨカッタ。今後は目立つことは全部ダメだ。まずはきちんと魔法の基礎を勉強すること。何が目立つか自分で分からなかったら、先生に聞きなさい。とりあえず今日の魔法は誰かに聞かれたら、魔道具だと言うしかないな」
ロジャーは内心で、そんな魔道具など一般に出回っていないと分かりつつも、とりあえず誤魔化すしかないと思いそう言う。
「うん、分かりました!」
ロジャーは「本当に分かっているんだろうか」という不安が過るが、とりあえず最大の疑問について、聞き方を変えてもう一度尋ねてみる。
「それでどうやって飛んだんだ?」
そうロジャーが尋ねると、トアは「じゃあもう一度やります」と言ってその場で実演を始めた。
実際にトアの魔力量は膨大で、風魔法でも浮遊が可能なのだが、ロジャーには時計塔の再現ということで、飛行魔法を披露した。
地面からフワリと浮いてロジャーの腰の辺りの高さで滞空を維持する様子を見て、慌てて着地を促す。
「も、もういいトア! ストップだ! まったくどこまで浮くつもりだ? それに本当に無詠唱か……どうなってるんだ、お前の魔法は?」
「分からないよ、何で皆は詠唱が必要なんだろう?」
「そうだな……トアからすればそう感じるんだろうな……はあ~」
この無詠唱のしかも風魔法ではない何にも分類できない魔法を目の当たりにして、改めてトアを規格外だと感じたロジャーは「また秘密が増えてしまった」と思うのだった。
とりあえず騒ぎにもなったので、校長に今回の件を報告した所、校長もそんな魔法は見たことがないと驚き目を輝かせていた。
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翌日、教室に入ったトアは友達のリーニャからさっそく昨日のことを聞かれた。
「トア、また何かやったんだって? なんか時計塔に登ったとか、魔道具を盗んだとか?!」
「あ、ああーうん、そんなことしたかもね??」
「なんで疑問形なのー!?」
「ちょっとね、先生にも怒られたし、あんまり言っちゃダメなことみたいで言えないんだ。ごめん!」
ジトーっとした目つきでトアを睨んだものの、リーニャはそれ以上追及しないでいてくれた。
リーニャことリーニャ・ルストンはガルトア王国のルストン子爵家の娘だが、物心ついてから優秀な姉のシルビアに虐げられて育ったせいで、少し前まで自分は落ちこぼれという劣等感から常にイライラしていた。
トアが編入してきた日も、朝から姉の嫌味が詰まった手紙を読んで最悪の気分だったのだが、トアの自己紹介でその境遇を知り、自分はまだ恵まれている方なのだと認識すると、そのイライラも軽減したのだった。以来、トアに話しかけるようになり、しばらく経った今では、逆境をものともしないトアの明るさや、言いがかりをつけてきた男子生徒を返り討ちにした魔法の才能を尊敬している。トアの方もこれまで貴族と聞くだけで警戒していたのだが、リーニャは最初から気安く話しかけてきてくれて、貴族様にもいい子はいるんだと思わせてくれた。それ以来、二人は仲の良い友達となっている。
「そうだ、今日私の部屋に遊びに来て! トアに着てみて欲しい服があるの!」
「ええっ、貴族様の服でしょ? 汚したら悪いよぉ」
「大丈夫だよ、私の服だし! それにトアはもっと自分の容姿を自覚した方がいいよ! そんなに綺麗な子なんて貴族でも滅多にいないんだから!」
「大袈裟だよ……」
「もう、とにかく放課後絶対に来てね!」
楽しそうにする友人に逆らえず、トアは放課後寮にあるリーニャの部屋を訪ねた。
リーニャの部屋には数度来たことはあるが、ちょっと立ち寄るくらいで、中に入って長居をするのは初めてだった。
部屋の中に入ってじっくり見ると、部屋はトアより一部屋多いらしかった。聞いてみると貴族は世話を焼いてくれる侍女を一人連れて来られるらしい。身の回りの世話や、家との連絡などの雑務をするということだ。リーニャの侍女はマルカという名前で、これまでちょっと物の受け渡しなどでリーニャの部屋に寄った際に、少し言葉を交わしたことはあったが、ほとんど一瞬のことだった為、今回「あ、こんな人だったんだ」と思いながらマルカがお茶を入れてくれるのを見ていたトアだったのだが、そこでふとあることに目が釘付けになる。
(何あれ……なんか黒い煙のようなモヤモヤがマルカさんの首に巻き付いてる……)
トアは不気味に揺れ動く黒い靄をじっと見つめるのだった——。




