第14話 平民と貴族
思ったより早く編入試験が終わり、学校の門の外で待ちくたびれた様子のトアを迎えに来たピオットは、開口一番「合格したよ!」と言うトアの言葉には驚かなかったが、どんな試験でどう取り組んだかを聞いているうちに一瞬こめかみを押さえ、そして遠い目になっていた。
(火魔法か……試験官達も驚いただろうなぁ……まぁ、遅かれ早かれトアの異常さは分かることだし、初めからそれが分かっている方が、心づもりも出来るしな。結果良かったのか?)
これからは学校に任せるということで、それ以上考えないようにしたピオットは、トアの学校生活に必要な衣類や文具等を買う準備に頭を切り替えたのだった。トアはそれから三日後、買い揃えた物を持って、わくわくしながら学校の門を再びくぐったのだった。
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ルーラル・アラキス魔法学校の教師であるススリード王国出身のガルマ・バルザンは、土魔法の使い手であり、ススリード王国の側妃カーラ・ススリードの実家である侯爵家バルザン家の当主でもある。元々選民意識が強かったということもあり、学校の方針である「平等の精神」からは逸れ、貴族の学生を優遇する傾向にあり、密かに貴族学生向けのサロンを開いてもいる。土魔法の使い手としては優秀なことから辞めさせられてはいないが、その思想により出世はしておらず、それを不満に思っていた。
トアの編入試験の時には担当でなく、試験内容は上層部で秘匿されている為知らないが、平民が編入してきたということは知っており、不満を持っていた。
そういうことを勘案して、トアの担任には「平等の精神」を重んじられてかつ、トアの編入試験に立ち合いその内容を把握出来ているロジャーが指名されたのだった。
ロジャーは、廊下ですれ違ったガルマから「平民同士お似合いだな」などと言われたが、トアの実力を知っていて校長から任されたということで、その信頼を感じているロジャーは内心「はぁ、こんなだから……」という感想しか出てこない。
魔法の行使には魔力もさることながら、本人の努力や工夫といったところで実力には差が出る。そしてそれは平民も貴族も関係なかった。だから教師としても一人の魔法研究者としても、貴族に固執することはその幅を狭めているだけにしか思えないのだ。
(そんなに貴族に固執するなら、自国で貴族のみを相手にしていればいいのにな)
そう思うのだが、どうやらガルマは当主として、どの国にも属していないこのルーラル・アラキス魔法学校という組織を、一国のような権力の塊と認識しているらしく、その権力に食い込んでいたいという意識が強いらしかった。確かにルーラル・アラキス魔法学校は、魔法において世界の中心的教育機関であり、学校とその関連施設以外に特に領地があるわけではないが、それでいて他国から不可侵とされるだけの強さを内包していた。
しかし、ガルマのような権力志向の者達が欲する魔法に関する重要な情報は、完全に上層部によって伏せられており、上層部になればその情報に触れられるかもしれないのだが、そこは選民意識が根付いているガルマには越えられない学校の理念「平等の精神」によって出世が阻まれているので、なんとも良くできた負のスパイラルなのである。
トアが所属するロジャーのクラスは、貴族と平民の割合が半々くらいで、貴族と言っても各国の下級貴族がほとんどだ。下級貴族は、平民街の店で買い物をすることも多く、平民との距離が元々近い者が多かった。その為、あまり貴族や平民といった差別はなく、ほとんどのクラスメイトがお互い仲良く過ごしている。
なので、初日の自己紹介でトアが孤児院出身だと話しても、馬鹿にする様子もほとんど見られなかった。しかし、いつでも完全にというのは難しい。このクラスでも若干名、新参者を快く思わない者達がいた。そして、それは初日の昼休みに起こった——。
「おい、お前トアって言ったな? このクラスにいるのは俺達貴族か、貴族じゃないけど同じくらいの魔法力のある奴らなんだ。お前もちゃんとその力はあるのか? 力のないやつがいると他クラスから同じ目で見られるし、仲間にはできない」
「そうだ、だから俺達がテストしてやる」
二名の男子生徒がそうトアに言ってきた。周りの生徒達は止めようとするが、全然聞く耳を持たない。そうしているうちに、今度はトアの堪忍袋の緒が切れた——。
「あんた達、ばっかじゃないの? だって私、もう先生達の試験受けて合格したんだよ? あんた達より偉い先生がやった試験で合格したのに、それが信用できないっていうの?」
正論で返されて、怯んだ少年たちだったが、こうなったら引けないとばかりに言い返す。
「先生達は優しいところもあるからな、お前が孤児院出身だって言うんで試験を優しくしたかもしれないだろ?!」
「そ、そうだ! 孤児院から来た生徒はこのクラスにいないんだ! だからテストするんだ!」
「あ、そう。じゃあ別にいいけれど、どうやってやるの?」
「それは……そうだな、俺達がペンをお前に投げるから防いだら認めてやる!」
「え? ペンを投げるのを防ぐ??」
「ああ、そうだ! ビビったか? でも容赦しないからな!」
ぽかんと間抜けな顔をしてしまったトアだったが、言われるままに教室の端に立つ。そして反対側の端に男子生徒二名が立ち、ペンを投げようと構えた——。




