第11話 三者会談
トアと採取に行ってから数日後、王太子マリスミアは再び騎士団の主治医ピオットの元を訪れていた。アンドールも呼んで三者で話す内容はもちろんトアのことだ。
三人そろってもしばらく無言だったマリスミアが、やっと口を開いた。
「トアは一体……いや……アンドール、トアの出自は分かるか?」
「いいえ、残念ながら俺と同じ孤児ということしか分かりません。ただ、リアと双子のトアは一緒に籠に入れられていて、名前は着ていた服に縫い付けてあったらしいです」
「そうか……」
「皆分かっていると思うが、トアは普通じゃない。いや、ただ普通じゃないというくらいでは済まないな。今存在するどんな平民や貴族とも異質だと断言できる」
「……はい」
アンドールには全ての貴族がどのような魔法を使えるのかは分からなかったが、恐らくそれを把握しているであろうこの国の王太子がトアを異質と言うのなら、自分が思っている以上にトアの魔法は規格外なのだと改めて気付かされる。
「殿下の前で失礼だとは承知していますが、私はトアの兄貴分として、どうにかトアを守りたいのです。貴族様の世界は自分には分かりません。でも、なんとかトアが笑って自由に暮らせるようにしてやりたいのです」
「アンドール……」
アンドールの思いを聞いたピオットは、立場上何も言えず黙り込む。しばらく考えていた後、マリスミアは口を開いた。
「そうだな。私もトアは魔法に関しては異質だが、それ以外は普通の少女だと感じる。一国民として守るべき存在だ。一方で、あの規格外の能力は国で管理しなければならないという考えもある。ただ……」
「それは難しいと……?」
マリスミアの言葉を継いだピオットがそう言うとマリスミアはコクリと頷いた。
「ああ。まず、トアの意思に沿わないようなことを強制したとしよう。トアはどうすると思う?」
「反抗しますね」
「はい、多分逃げ出すでしょう」
ピオットとアンドールが即座にそう答える。
「そうだ。先日、採取の際にトアは理解の及ばないことを言っていた。ああ、アームベアーを狩っていたのだが、その熊をどこかへ瞬時にやっていた。トアに聞くと、移動させたと……」
それを聞いたピオットとアンドールは気まずそうに顔を見合わせる。
「ああ、その様子だと二人はあの魔法についても知っていたのだな」
「「申し訳ございません」」
「いや、いい。逆に誰にも話さなかったことは良かったとも言える。しかし、そうすると先日、ダストン達が吹き飛ばされた件で探っていた少女もやはりトアなのか……」
マルスミアの言葉を聞いたピオットとアンドールは同時に咽てしまう。
「ははは、やはりそうなのか……道理で足跡が掴めないはずだ。まあ、あの話はそもそもダストンが悪いし、知られれば王家の恥なので追及もしない。そもそも、何が起こったのか明確に分かっていないのだしね。話を戻すと、あの能力がトア自身にも使えると仮定すると……ああ、その様子だと、もうそれもできているのだな。ははは……はぁ……まぁ、やはりそうなるとトアが逃げ出すのは簡単ということだ」
「「そうですね」」
「この国が嫌になってトアが逃げ出してしまうというのは、最悪のシナリオだ。それは避けなければならない。しかし、トアが自由な将来を模索する為にも、もっと知識や味方をつける必要がある。そこで思ったのだが、トアをルーラル・アラキス魔法学校に行かせるというのはどうだろう?」
「ルーラル・アラキス魔法学校……それは良いかもしれませんね」
「それは隣国ルルド王国にあるという魔法学校ですか?」
「ああ、この大陸随一の魔法学校で、大陸全土から優秀な者のみが入学を許可される。特異な点としては、どの国の干渉も受けず、学生の権利が最優先されるという点だ。学校の基本方針としては、貴族も平民も平等に扱うこととなっているから、トアも過ごしやすいはずだ」
「確かに、トアには良い環境かもしれません」
「殿下、トアのことをそこまで考えていただいて感謝します。トアにその旨話してみていいでしょうか」
「ああ、兄貴分のアンドールから話すのがいいだろう」
その翌日、トアが来た際にアンドールが魔法学校のことを話すと、トアは目を輝かせて「学校に行けるの? 嬉しい! あ、でもリアが心配だからあの袋に暴力や魔法の反射をつけておこう……あと、様子見は継続する!」と即答した。何かよく分からない内容もあったし、「隣国からリアを様子見するのか?!」と疑問が湧いたが、聞くのを止めた。
そう、トアがそう言うのだから、きっとできるんだろう。とりあえず学校に行くことに賛成なようで、アンドールは安心したのだった。
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一方、リアを襲わせた第三王子ダストンは、苦々しい思いで取り巻き達と過ごしていた。
「まったく役に立たないな! 簡単なことだろう、リアを襲うなんて!」
「ダストン殿下、申し訳ございません。私が手配した者達が力不足でした!」
「私もです。もっと周到に準備をすべきでした!」
「いや、お前達のせいじゃない。きちんと仕事をしないその平民達が悪いんだ」
「「なんて寛大な」」
「仕方がない。リアを襲った者達の報告には、何かがおかしいなどと書いてあるばかりで要領を得ないしな。俺が直々に王家の力を見せてやる」
「そ、それはダストン様の火魔法ということでしょうか!」
「ああ」
「なんてもったいない! そのような力を使われるなど!」
「まあいい。これでリアも終わりだ。震えてもう学院に来ようなどと考えなくなるだろう。そうなればこちらから婚約破棄もできるだろう。学が足りない者など王族の妻にはなり得ないからな」
それから数日後、学院の裏庭にリアを呼び出し、火魔法でリアの髪を燃やそうとしたダストンは、それが惨事となることなど、この時は知る由もなかった——。




