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トア・リア物語~双子の妹は姉を助けるため無自覚に無双する~  作者: 河童紀心
第二章

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第8話 お忍び王太子、トアと採取へ

 

 翌日、マルスミアはお忍びモードの変装をして、朝からピオットの部屋を訪ねていた。赤味がかった金髪は国王である父と同じで、平民にも知られている為、お忍びで市井に行く時は茶色のカツラにメガネを掛けている。

 よく眠れなかったのか、いつものキラキラした王族のオーラが少し影を潜めているが、そんなささやかな変化に気付けるのは、ここではピオットくらいかもしれない。


 朝から来たのは、叔父にどう説明をするのかなど打合せをピオットとしようと思ったのと、やはり昨日のことが夢ではなかったという確証が得たかったからだ。

 叔父ドリアム・ススリードは、国王ダンデリアム・ススリードの弟で騎士団長でもある。肉体の屈強さもさることながら魔力量も多く、王家の象徴である火魔法にも長けていた。


 とりあえず叔父には、目覚めて早々心理的負担をかけるのもよくないということもあり、毒に侵され意識が無かったことや、その間も身体の状態は良かったこと、治った仕組みはまた解明できていないということを、嘘のない範囲で伝えた。その際、叔父ダンデリアムの口から「あの銀髪の少女は……」と聞かれ驚いたが、ピオットとの打ち合わせ通り「ピオットの手伝いにたまに来る平民の子」だと伝えた。「そうか……」と言ったまま黙ったダンデリアムの元をそそくさと去った二人は、ふぅーっと胸を撫で下ろす。


 朝から一仕事終えた気分の二人の耳に、廊下の方から言い合う声が聞こえてきた。どうもトアとサイラウス・メトーアが、治療の順番を巡り言い争っているようだった。ピオットは「またか」といった表情だ。というのも、サイラウスは治療するまでもないかすり傷を治療しに、しょっちゅう来るのだ。そしてその度に、ピオットの手伝いをしているトアは「重傷者が優先!」と言うもので、選民意識の高いサイラウスの気分を逆撫でしていた。表向き『エスカレートしていくサイラウスの怒りでトアの身が危なくなるといけない』ので、ピオットが仲裁しているが、本当は『返り討ちに遭って重症を負うサイラウスが心配』なのである。今朝もそういう争いが起こるだろうことは分かっていたが、ピオットは敢えてそれを王子に聞かせていた。


 ピオットの部屋に鼻息荒く入って来た二人は、部屋の中にピオット以外の人間がいると思っていなかったようで一瞬動きが止まる。


「あっ、王子様! 今日も来てたんだね!」

「はぁ? 王子? どう見ても平民だろうが! お前みたいな下賤の者には貴族と平民の区別もつかないんだな!」

「えっ、あなたこそ分からないの?」

「馬鹿にしているのか!!」

「そこまでですよ、サイラウス」

「……はい」

「で、どこか怪我を?」

「腕の切り傷をお願いします」

「はあ。サイラウス、これくらいの傷は何かを貼るほどのことでもありませんよ。貴方は騎士団員なのですから、これくらい慣れてもらわなくては……」


 そう言いつつも、ピオットは早くサイラウスを追い出したかったのか、ピッと素早く保護テープを貼り付けると退場を促した。


 サイラウスがいなくなった部屋で、マルスミアが不思議そうにトアに尋ねる。


「トア、どうして私が王子だと分かったんだい?」

「ん? だって魔力とか同じだし」


 それを聞いて目を丸くしたのはマルスミアだけではない。


「トア、魔力が同じとはどういうことなんだい?」

「う~ん、感覚的なものだから難しいけれど、色とか匂いみたいなものとか形が同じっていう感じ……かな?」

「「ふぅ~……」」

「あ、そうだ、今日は森に採取に行こうと思うんだけれど、いい?」

「ああ、いいよ。特に今日は患者も多くないだろうし、大丈夫だよ」

「採取?」

「ええ、トアは森へ採取に行って、そこで得た物を町で売ったり、この医務室に分けてくれたりしているのです」

「そうか…………その採取、私もついて行ってもいいだろうか?」

「えっ、殿下……お忍びですし護衛が足りないかと」

「トア、森は危険か?」

「え、全然大丈夫だよ」

「トアのような子供が大丈夫な範囲であれば、問題ないだろう。それからトア、昨日は叔父上を助けてくれて有難う。あまりのことに驚いてしまい、礼を言うのが遅くなってしまった」

「叔父さんだったんだ! うん、治って良かった」


 ニシシと笑うトアの軽さにつられてマルスミアも笑顔になる。


(治癒魔法には相当驚かされたが、やはり愛らしい普通の少女だな)


 マルスミアの認識は、まだこの時点ではそれくらいのものだった。


 王子の側には、気配を消した「影」がいつもついているが、それより何よりトアという存在に勝てる敵はいないだろう、とピオットは心の中で判断し、王子達を見送ることにしたのだった。



 森に入って間もなく、白いフサフサの毛並みの美しい生き物がトアの側へ寄ってきて、マルスミアは警戒態勢を取ったが、「ギン!」と嬉しそうに笑うトアに気づいて警戒を解く。


(この獣は何だ? この国の動植物については一通り学んだつもりだったが……)


 トアと出会った頃はキツネみたいだったギンだったが、どんどん大きくなり、今では馬よりも二周りほど大きくなっていた。更に、驚くことに王子の目の前でギンの背中に跨ったトアは駆けながら植物を採取し始めた。


「ト、トア?!」

「なに、王子様?」

「その獣から降りずに、どうやって採取をしているんだい?」

「え、風魔法で切って、袋の中に移動させてるの!」

「……そうか」


 トアの言ったことの意味が後半は全然分からなかったが、なんとなく「そうか」と言ってしまった。トアとギンは、もちろんマルスミアが走るより早いスピードで走っているため、そのままだと距離が開いてしまうところだが、トア達は円を描きながら進んでくれるのでなんとか追いつけていた。そんな時、前方にいたトアが「あーっ!」と声を上げた。


「やったあ、熊だ! こんな所にまだいたんだ!」

「え、熊……?」


「やったあ」と「熊」の結びつきが分からず困惑したマルスミアだったが、トアの前にちらりと見えた熊の姿を見て、血相を変える。


「まずい、トア!! 戻れ! 逃げろっ!!」


 それは、ただの熊ではなく、アームベアーという騎士団でも十人がかりで討伐する熊であった——。



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