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トア・リア物語~双子の妹は姉を助けるため無自覚に無双する~  作者: 河童紀心
第二章

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第7話 王太子の騎士団視察

 

 部屋に入ると、王子はしばらく無言でベッドに横たわる叔父を見つめていた。


「叔父上、お久しぶりです。なかなか忙しくて来られず申し訳ありません。皆、変わりなく過ごしております……」

「殿下……」

「ピオット、俺は今でも信じられない。あんなに豪快で頑丈だった叔父上がこんな姿になるなど……」

「そうですね……しかし、あれから二年あまりが経ちますが、不思議なことに肉体の衰えは少ししかありません」

「微弱な魔力循環が感じられると言っていたな」

「はい、おそらく毒が体内に入った瞬間に魔力を巡らせたのでしょう」

「毒の侵入を食い止め、何か魔法を発動しようとされたのかもしれない。叔父上をこのような状態にするとは、敵は相当な手練れ……影の探索でも何の痕跡もなかったのだったな」

「はい」

「叔父上には、子供の頃から可愛がってもらった。叔父上の強さは俺の憧れだった」

「はい、騎士団長として騎士団の皆から尊敬されております」

「今まで騎士団長の座は叔父上のままにしておいたが、そろそろ誰かに決めなければならないと父上はおっしゃっていた。しかし、俺は未だに叔父上が今日にも目覚めるかもしれないと期待をしてしまうのだ」

「…………殿下、そのことでお話があるのです」

「どうした、いつも率直なお前が、会話に一呼吸おくとは、珍しいな」

「はい。これは私個人の願いなのですが、これから見聞きすることを時が来るまで王子の胸の内にしまっていただけると有難く思います」


 しんみりしていたマルスミアだったが、ピオットのいつにない雰囲気に好奇心が掻き立てられる。


「ふふふ。何か大層なことなのか? 残念ながら俺が胸の内にしまうかどうかの判断は、その内容次第だな」

「はい、それで十分です」

「では、話せ」

「はい。まずはお見せしたいことがございますので、平民をこの部屋へ呼ぶことをお許しください」

「平民……まぁ、俺とお前であれば、いざとなっても大丈夫か。叔父上の状態について口止めはできる者か」

「はい……。では、連れてまいります」


 しばらくすると、廊下から子供らしき声が聞こえ、ほどなくしてピオットとその後ろから少女が入って来た。


 部屋に入って来た少女を一目見てマルスミアは、はっと目を奪われる。銀髪に緑と青のオッドアイが美しく、見ていると吸い込まれるような感覚にすらなる。この銀髪には既視感があった。


「君は……」

「ほら、トア、自己紹介をしてごらん」

「トアです!」


 元気にそれだけを言うとキラキラした目で自分を見つめてくるその少女を、更にぼーっと見つめた後、我に返った王子は口を開く。


「トアか、確か君は……リアの……」」

「わぁ! リアを知っているの王子様? うん、リアは私の双子のお姉ちゃん!」

「そ、そうか……」


 マルスミアの中でまとまらないままに色々と疑問が湧いて出てきたが、ぐっとこらえた。


「それでピオット、トアをなぜ連れて来た?」

「はい、まずは見ていただくのが早いかと思います。トア、この方が患者様だ。できるかい?」

「うん、ちょっと見てみるね、待ってて」


 何が始まるのかと怪訝な目で見守るマルスミアだったが、叔父に向き合う少女の横顔の真剣さに引き込まれ、じっと見つめる。

 少女が何を見ているのか分からなかったが、一人で何かをぶつぶつと呟き納得しているようだった。


「じゃ、やります」

「何を……」


 と、問いかけた瞬間、トアの手が光り輝き次第に叔父の身体全体が光りに包まれ、言葉を失ったマルスミアは、くいいるようにそれを見つめ続ける。

 わずか二十秒ほどだっただろうか、光が消えるとトアがふぅっと息を吐いた。


「多分できたよ、ピオット先生! ちょっと普通の感じじゃなかったから長くかかったけれど、これで大丈夫だと思う」

「そうですか……では、私が確認してみましょう」


 そう言ってピオットが患者の手を持ち上げると、指先がピクッと動いた。


「今……指が! 一体何が?? ピオット、これは一体……夢なのか?」


 マルスミアは最近リアの件を自分が気にかけていたことを思い出し、そのせいでリアの妹が出てくる夢でも見ているのではないかと真剣に考えた。これまで何の反応もしなかった叔父の指先が動いたことは、それほどの驚きだったのだ。


「いいえ、殿下。これは現実です」

「ではピオット、今のは何だ?」

「治癒魔法かと」

「治癒……魔法……??! そんなものは……」

「私も今の世界にその存在を聞いたことはありません」

「しかし、トアはそれを……?」

「はい」

「しかも今のは無詠唱……」


 ——うぅ——


 混乱していたマルスミアが声の聞こえた方に目を向けると、叔父であるドリアム・ススリードの目がわずかに開いた。


「叔父上!! 分かりますか?」

「……マルス……ミア……」

「あ、ああ! 叔父上! 私のことが分かるのですね!! なんてことだ……」

「私は……一体どうしていたのだ……いつから寝て……」

「叔父上、後ほどちゃんとご説明します。身体を慣らす為にも今は休んでください」

「……わかった」


 ドリアムの視線はマルスミア、ピオット、トアと順に移り、トアと目が合うと少し驚いた顔をしたが、そのまま安らかな寝息を立て始めた。


 マルスミアは少し色々整理したいとだけ言い残し、他の視察は行わずに城へと戻ることになった。馬車に乗り込む寸前で、はっと思い出したように「明日また来る」と言い、すぐに深い思考に入った王子の横顔を見て、ピオットは「まぁ、そうなりますよね」とポソリとつぶやいたのだった。



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