第5話 不可解な現象
吹き飛んだ男子生徒に気を取られてリアの服から手を離した女子生徒も、後ろの生徒を道連れに後方へ吹き飛ぶ。その後、その場にいた王子を含めた全員が、リアの周りから吹き飛ばされていた。リアは何が起ったのか分からず、へたりとその場に座り込む。飛ばされた生徒はそれだけでは終わらず、液体が頭や顔を覆い呼吸困難で苦しそうに呻いたあと、しばらくするとぐったり地面に横たわった。
「何が……起こったの??」
それから人が駆け付けるまでリアは一歩も動けずその場に座り込んでいた。
近くの木の枝にトアはいた。遠くから見ていたが怒りに震えて気が付くと近くの木に転移していたのだ。リアにいよいよ危害が及ぼうとしたので、とりあえずその場にあった丸太を透明化して飛ばし、生徒達をリアから遠ざけた。更に水魔法で顔を覆って呼吸をできなくして気を失わせた。
森で獣と色々な方法で戦闘しては解体屋に持ち込んでいる実践が役に立った。
しかし、この時トアは気付いていなかった。怒りのあまり透明化をするのが遅れ、転移してから透明化をしたのだが、その一瞬を捉えていた人物がいたのだ——。
庭を見下ろすことのできる三階の窓からその人物は見ていた。下からは見えにくい木の上の方だが、三階からはちょうど見える位置だった。
第三王子を巻き込んだ騒動にいち早く駆け付けたのは学院の教師であるマホット・ルガウニーだった。駆け付けたマホットが見たのは、地面に放心状態で座る少女とそこから離れて地面に横たわる意識のない生徒達だった。第三王子もその中にいることを知ったマホットは、まずは意識のない生徒達を保健室へと運ぶよう学校スタッフに指示し、それがひと段落するとリアに近づいた。
「君は確か……リア・レストだね?」
「はい」
放心状態のその生徒は美しい銀髪に緑色の瞳をしており、話題になっている第三王子の婚約者であるとマホットにも分かる。
マホットは水魔法の家系で、小柄で細く眼鏡をかけており、生徒には親しみやすい印象を与える。それと同時に常に冷静でもあった。
咄嗟にこの場の状況を分析したマホットは、知り得ている状況からこれはリアの仕業ではないと判断していた。
「何があったか説明してくれるかい?」
「はい……でも私にも何が起こったのか分からないのですが……」
思い出すのは苦痛でもあったけれど、穏やかな雰囲気のマホットに促されて、ぽつりぽつりと経緯を話し始めた。マホットはリアが話し終わるのを「そうか……なるほど……うん」と穏やかに相槌を打ちながら聞き、話し終わる頃にはリアは落ち着きを取り戻していた。
「これは僕の所見だけれどね、一見風魔法が使われたように感じるだろうけれど、これは風魔法じゃないんだ。風魔法だと、どんなに精度を高めても多少は周りの草花も影響を受ける。でも、そんな様子はないんだ。風の発生源も見えてこない。それと、彼らが気を失ったのは君が見ていたように、顔に纏わりついた水だろうと思う。しかし、こんなに同時に水を操るなんて、まず一学年ではあり得ない。複数人でやったのか……しかし水はどこから運んできたんだろう……」
最後はぶつぶつと独り言のようになり、マホットは口を噤む。
「……とにかく、君の話を聞く限り君は被害者だ。それに、風魔法の使い手である君の仕業ではないことは明白だ。しかし、話は相手側からも聞かなくてはいけないからね。はっきり言えるのには少し時間がかかるけれど、少し待っていてほしい」
リアが「はい」と返事をすると、マホットは手を振って校舎の方へと歩いて行った。
保健室に運ばれた生徒達の怪我は、数日すれば起きられるようになるとのことだった。取り急ぎ、目覚めた生徒から話を聞き、リアの話が同じであることに安堵したマホットは、校長への報告を済ませ夜遅くに自室へ戻ってくると「ふーっ」と長く息を吐いた。
「それにしても、校長も頭を捻っていたが、生徒達は何に飛ばされたんだ……?」
全校生徒の中でも魔力や魔法に突出している生徒や、家庭環境が特殊な家の生徒などの情報を校長は全て知っている。しかし、現場を見た校長もそれがどんな魔法によるものなのか、生徒によるものなのか、何も分からなかったのだ。
透明化して飛ばした丸太は、飛んで行った先の草むらで素早くトアが透明化を解除していたし、そこらに元から散らばっている木材と同化して、答えに辿り着ける者はいなかった。
「風でなく人を飛ばす……そんな魔法は五大属性にはないし……いったい誰がどうやって……」
考えても答えは出ないと分かりつつも、魔法を教える教師としてマホットはその未知の力について考えずにはいられなかった。
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そしてまた、ここにも一人今日の不可解な出来事について、ぐるぐると思考を巡らし夜更かしをする者がいる。
学院の生徒でもあるこの国の第一王子マルスミア・ススリードは、偶然見かけた由々しき事態と、その後起こった驚愕の出来事について、目をつぶり思い出しては難しい顔をしていた。
初めに三階の教室から、リアが集団に取り囲まれているのを見かけた王太子マルスミアはその囲んでいる人間の中に、異母弟である第三王子ダストンがいるのを見てやれやれとため息をついた。大体何が起こっているか予想がついたマルスミアが、これ以上ダストンが王家の信用を落とす前に誰かを行かせて介入するか、と考えた所でそれは起きたのだ。
突然、眼下の木の枝に現れたリアと同じ銀髪が美しいその少女は、一瞬、人外の何かかと思ったほどだった。その少女が何をしたのかは分からない。ただ、ダストン達の集団は吹き飛ばされ、それを見てその少女は満足したように、まるで「ふふん」とでも笑っているかのように口角を上げると、次の瞬間には消えていた——。
そう、消えていたのだ——。
初めて評価をいただきました。
二度見してしばらく静止した後「ふぉ~っ!」と嬉しくなりました。
ブックマークもしていただく度に感謝しております。
有難うございます!(*^0^*)!
今後も読んでいただく皆様に日々感謝しながら、トア・リアの世界を広げてまいります♪




