第4話 王子の取り巻き
透明化の魔法を自身にかけ、リアの部屋に転移してきたトアは、無言でリアのベッドサイドに立つ。近付いてみるとリアは苦しそうに息をしており、熱もあるのだということが分かった。そっとリアの顔に手を翳すと治癒魔法を発動する。瀕死のアンドールさえも治癒した魔法は、リアの傷や熱もすぐに完治させた。
スヤスヤと落ち着いた呼吸音に変わったリアを安堵の表情で見つめながら、トアはじっと考える。
「慎重なリアがこんな怪我をするなんて……これまでの環境のことを考えれば多分誰かにやられたんだ……」
怒りが毛穴から噴き出すような感覚がして、リアに感じ取られないようトアは急いで孤児院へと転移魔法で戻った。
戻ってきても怒りは収まるどころか爆発しそうで、夜ではあったが意を決してアンドールの元へ転移することにした。
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その声は突如開けた窓から聞こえてきて、ベッドに腰かけていたアンドールは思わず飛び跳ねた。
「おお、トアか! びっくりするじゃねえか! どうしたこんな夜に?」
「兄ちゃん、リアがね、怪我して、それで私……」
アンドールの顔を見た途端、爆発しそうだった怒りが涙に変わり、青と緑のオッドアイから溢れ出る。
「リアが怪我? おい、どうしたんだトア! お前は大丈夫なのか?」
コクンと頷くと、アンドールはヨシヨシと背中をさすってくれる。しばらくして落ち着くと、トアはここ最近や今晩のことをアンドールに話して聞かせた。
「そうか……リアがそんな目に……」
「うん、なんでリアがあんなことされなきゃいけないの?」
「まぁ、あの噂も関係あるのかもしれないな……」
「うわさ?」
「ああ、なんでもリアがこの国の第三王子の婚約者に選ばれたって話さ」
「コンヤクシャ?」
「ああ、ゆくゆくは王子様の奥さんになるって立場だ」
「ええっ、それってすごいことだよね? リアが偉くなるんでしょ?」
「ああ、そうなんだがな。貴族様っていうのは自分達の身分にプライドを持っているから、俺達みたいな平民が自分達と同じか、それ以上の立場になるのは許せないって感じるんだろうな」
「でも、そしたらどうしてリアが選ばれたの? 選んだのも貴族様なんでしょ?」
「そうだな、多分王様はそういう考えじゃないのかもしれないな」
「ふ~ん、貴族様の考えは一つじゃないんだね。でもリアを怪我させたのは絶対に悪い考えの人だよ!」
「しかしトア、誰がリアに危害を加えたのか分からないんだろう?」
「うん」
「学院は貴族ばかりの学校だ。焦って動くと大変なことになるからな。まずはリアの日中の様子を知る必要があるな」
「それなら大丈夫。明日からしばらくリアのことずっと見てるから。あっ、トイレとかは見ないよモチロン!」
「ああ、あくまでリアの周辺だけだぞ」
「うん」
アンドールに話したことで少し落ち着いたトアは、そのまま孤児院へ戻り再度リアの様子を見て安堵すると眠りについた。
翌朝、早々に森へ行くと、やってきたギンに事情を話し「これから集中してリアのこと見るから」と言う。ギンは「ワオン!」と吠え、周囲の警戒は任せろと言わんばかりに静かにトアの横に座った。
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午前中、いつものようにクラスに入って来たリアを見つけた三人の女子生徒が、驚いたようにリアの顔をまじまじと見てヒソヒソと何かを言っていた。昼休みになるとその女子生徒達と合流した他クラスの女子生徒二人が連れ立ってリアの後をつけ始めた。
(こいつらがリアを怪我させたの?)
しばらく見ていると、その五人の女子生徒達が後ろを振り返り、キラキラした目で誰かを追い始めた。すぐにそれはとある男子生徒の一団だということが分かる。
リアが静かに食事ができる場所を求めて歩いていると、後ろからそれとは正反対に黄色い喧噪が響いてきた。離れようとしても逆に近づいてくるそれに、ついにリアは捉えられてしまう。
「おい、お前」
「早くこっちを向け! ダストン王子に失礼だぞ!」
ふぅ、と小さく息を吐き振り返ると、王子一団とその後ろに昨日の女子生徒五人の姿を認めて身体が強張るのを感じる。
昨日、寮の自分の部屋まで戻ったことは覚えているが、それからの記憶はなく、気が付くと朝になっていた。恐々鏡で顔を確認すると、予想外にそこには何の傷も無くなっていた。あれはもしかして夢だったのでは? と半信半疑で教室まで来たリアだったが、昨日の女子生徒がこちらを見て驚いたような表情をしたのを見て、やっぱり昨日の事は現実だったのだと思い知らされたのだった。
身体を強張らせたリアの姿を見て、ニヤリと笑ったダストンは、リアに近づくと手を掴み、庭へと続くドアへリアを強引に引きずっていく。
「痛っ、やめてください」
「お前は俺に逆らうな!」
「そうだぞ、ダストン様に従え!」
そのまま庭へ引きずり出されたリアを男女の生徒達はニヤニヤしながら取り囲む。
「元平民が貴族と同じ格好をしているのも気に入らないな」
「そうですとも! ダストン王子のお手を煩わせることなく私達が、これを相応しい恰好にしましょう」
ニヤニヤしながら女子生徒五人が輪を縮め、そのうちの一人がリアの制服に手をかけボタンを外そうとする。
「やめて!」
「こいつ、貴族に逆らうな!」
男子生徒に腕を捻られそうになったその時、その男子生徒がブワッと後ろに吹き飛んだ——。




