第3話 秘密の贈り物
目覚めて机の上のプレゼントに気づいたリアは、粉がついた不思議な物を手に取りながら手紙を読み始めたが、その目は徐々に開かれ緑色の瞳に朝日が射しこむ。
(こんな高価なものを……いいえ、高価どころじゃないわ、こんなの多分どこにも売ってない……一体誰なのかしら」
リアはレスト家では教師がつけられていたし、学院でも誰よりも勉強しているので、既に魔法の基礎知識は習得し終わっている。だから、この一見粉のついた何の変哲もない袋が、想像もつかないほど価値を持つ物だとすぐに分かった。魔道具だということは分かるが、しかし五大魔法のどれを応用すればこんな物が出来上がるのか、これっぽっちも分からず驚愕する。
「透明で他の人は出し入れできない、大抵の物は入る袋……こんな物が見つかったら……誰か分からないけれど、その人の為にもこれは知られてはいけないわ。どのみち見えないから誰も見つけられないと思うけれど用心しよう」
試しに近くにあったハンカチを袋に入れてみると入った。出すときもハンカチを思い浮かべるとすぐに取り出せた。入れた物は消えて見えなくなるので、これならこっそり袋ごと持ち運べる。しかもどういう原理か分からないが重さも全然感じない。
その日からリアは全ての私物を袋に入れて持ち歩いた。中に入れると音もしないしとても便利で、こっそり食べ物なんかも入れて誰にも邪魔されない場所でさっと取り出して食べたりもできる。
(本当にすごく助かるわ! これがあれば大抵のことは困らないもの。誰か分からないけれど、本当に有難うございます)
心細い学院生活が続いていたため、あまりに嬉しくて裏庭でこっそりクッキーを噛みながら涙を拭うのだった。
最近のリアの様子を憎々しく思いながら、第三王子ダストンは取り巻き達と話していた。
「最近あの女は増々生意気じゃないか?」
「そうですね、これほど周りはダストン王子に同情し不釣り合いだと騒いでいるのに、全然動じる様子はありませんね」
「平民出身だから心臓に毛でも生えているのでは?」
「まったく父上にも困ったものだ。じきにあの女の本性に気づかれるだろうが、それまで仮にでも婚約者とされているのが腹立たしい」
「いっそのこと、あちらから婚約を辞退するように仕向けるというのはどうでしょう?」
「おお、それはいい考えだな。でも王子の婚約者なんて元平民からすれば、とんでもない幸運だろう? ちょっとのことじゃ引かないと思うぞ」
「おっしゃる通りですね。しかし、身の危険を感じればさすがに……」
ダストンと取り巻き達はそれからヒソヒソと話を続けた——。
ダストンの敵意だけでもとても厄介なものだが、リアへの危険はそれだけではない。
「あんた、こっちに来なさいよ」
授業が終わり、すぐに寮へと戻ろうとしたリアだったが、廊下に出た途端待ち構えていた女子五人に取り囲まれてしまい、そのまま寮とは反対の校舎裏へ連れていかれる。
「あんたのような元平民のしかも孤児がダストン様の婚約者だなんて、一体どれだけ汚いことをして取り入ったのかしら? 引き取ってもらった恩も忘れてレスト家ではミシェル様のことも影で虐めていたそうじゃない?」
「ああ、これだから平民というのは性根が腐ってて嫌なのよ」
「魔力があるというだけで貴族になれるなんて思わないことね」
「ほら、何か言ったらどうなのよ?」
突き飛ばされよろけながらもじっと相手を見つめるが、気に入らないと余計に突き飛ばされる。
「いたっ……」
「何弱い子を演じているのかしら? そうしたら王子が助けに来てくれるとでも思っているの? 元平民なんだから土に這いつくばるのなんて慣れているでしょう?」
ケラケラと笑いながら五人に見下ろされリアは恐怖に駆られる。
(なりたくて貴族になったわけでもないし、王子の婚約者にもなりたくなかった! 孤児院にいる時が一番幸せだったのに!!)
そう叫びたいのをぐっと我慢するが、悔しさと悲しさで涙が頬を伝う。
「ねえねえ、この顔も原因じゃない?」
「そうね、本当に顔だけ綺麗で気に入らないわよね……あ、そうだちょっと顔に傷でもつければ……」
いいことを思いついたとばかりに五人はニヤリと笑い、各々石を手に取る。
「いや、そんなこと、や……めて……」
誰も助けに来ないと分かっているので恐怖に支配され、リアは思うように言葉も出ない。
五人が石を投げるのはほぼ同時だった——。
「ゴンッ」と、その石のうち二つが庇い損ねた額の端と頬に命中する。掌ほどもある石は大した速度ではなかったが、柔肌を傷つけるのには十分で、額と頬が切れて血が流れる。
リアはうめき声をあげて地面に倒れた。
「ちょっとやりすぎたかしら?」
「まあ……これくらい元平民なら慣れてるでしょう」
「王子の為ですもの」
「早く行きましょう」
「他言したらもっとひどい目に遭うわよ!」
五人はそれぞれそう言うとリアを残し立ち去って行った。
頭に衝撃を受け、痛みが治まらずしばらく地面に倒れていたリアが、恐々額に手を当てると、ベトッと血が掌に付いた。掌を茫然と見つめていたが次第に手が震える。
「もう、嫌だ。トア……助けて……」
血を流しズキズキする頭でなんとか寮まで戻ったリアは、倒れるようにベッドに入ると夜になる頃には熱を出していた。
トアは今晩も、最近日課となりつつあるリアの様子見を行う所だった。最近はプレゼントした袋が役立っており、盗難の被害にも遭っていないので少し安心している。大体はリアの表情でどんな日だったかが分かるのだが、遠くからリアに意識を集中し始めたトアは思わず「あれっ?」とつぶやく。
「今日はもう寝てるんだ。早いなあ。疲れてるのかな……あれっ、なんかおでこが赤い? …………えっ」
よりズームアップしてリアの顔を観察したトアは、その赤いものが血であり、額や頬が腫れて赤黒くなっていることに気づく——。その途端、トアはリアの元へ移動していた——。




