第2話 第三王子
朝からクッキーに元気をもらい校舎に入ったリアだったが、今日はいつもにも増して陰口が聞こえてきて不審に思っていた。そしてクラスの自分の席について間もなく、その謎は解けた。
「おい、お前。お前がリア・レストだな?」
リアは尊大な態度で自分を指さす自分と同じ一学年の青の学院章をつけた赤髪の男子生徒を「どこかで見たことがある顔だわ」と思いながら見ていた。
「おい、何か言ったらどうなんだ? 恐れ多くも第三王子ダストン・ススリード様が、お声を掛けて下さっているというのに!」
「そうだぞ、元孤児のお前なんかが相対していいお方ではないんだぞ!」
(あ、入学式の挨拶をしていた王子様かぁ。でも、相対していいお方じゃないのなら、話し掛けてこないでほしいな……)
取り巻きの男子生徒達が言うのを聞きながら、咄嗟にそう思ってしまったリアだったが、皆の注目が集まっているこの状況を早く終わらせたくて口を開く。
「はい、リア・レストです」
机の上に下げていた目線を王子の方に向けてそう答えると、なぜか王子が驚いた顔をした。
「お、おまえ、勘違いするなよ! 父上がお前を婚約者にするとおっしゃっているが、俺はお前を認めていないし、上っ面だけ貴族みたいに繕ってるようだが、化けの皮をはがしてやるからな! 父上もそうすればお考え直し下さるはずだ! 分かったか!」
一度に重大情報が流れてきてかなり混乱したリアを振り返ることもせず、第三王子ダストン・ススリードは、それだけ言うとお供の生徒達を連れて出て行った。
それからの日々は、リアにとって増々ひどいものとなっていった。女子生徒は、第三王子ダストンが可哀そうだとリアに聞こえるように騒ぎ、ついでにダストンの気を引いてあわよくば自分が婚約者にとでも思っているのか、ダストンが廊下にいる時などは殊更大声で騒ぐ始末だった。また、ダストンもそうやって騒がれることを喜んでいる節があり、リアを非難する女子達へ笑顔を振りまき、その度に黄色い歓声が廊下を振るわせている。
次第にエスカレートしていくリアへの嫌がらせは、ついにリアの物が盗られる被害にまで及んでいた。周りに助けてくれるクラスメイトはおらず、レスト家はもちろん無くなった物の補充などしてくれないので、とにかく物が無くならないようにリアは苦労していた。
(勉強するために必要な物が無くなるのは困るわ……)
チェリーが心配して声を掛けてくれたことがあるが、それを怪訝な目で見いた生徒達がおり、これ以上自分と関わらない方がいいと距離を置くようにしていた。
リアが一番恐れているのは魔法実技の授業の後だった。魔法実技では魔法を放っても良い設備のある棟に移動し、その際余計な物は持ち込まないこととなっている。そしてその授業の後はリアの物が無くなることが多かったのだ。
(ふぅ、何も無くなっていないといいのだけれど……多分それは無理でしょうね)
魔法実技の授業が終わり、覚悟をしながら教室の自分の席へ戻って来たリアだったが、そっと確認してみたところ、驚いたことに何も盗まれてはいなかった。ほっとしながら次の授業の教科書を取り出すと、一部の生徒が驚いたようにヒソヒソと何かを言う様子が見えた。
「あはははははは、リアの教科書を盗んだつもりだったんだろうけれど、そんなの私が許さないもんね! これからは何も盗ませないんだから!」
遠くから様子を見ていたトアはそう豪語する。
トアも四六時中リアの様子を見ているわけではないので、少し発見するのが遅れたが、リアの様子がおかしいのを察知して探っていたところ、リアの机を漁る生徒達の存在に気づいて対処したのだ。生徒達は隣のクラスの生徒達と結託して、リアがいない時に盗みを働いていた。教科書は庭の草むらに捨てられたが、トアは透明化と瞬間移動でそれをなんなく回収しリアの机に戻しておいたのだ。
「でも、私がずっと見張るわけにはいかないし、何か考えないとなぁ~。う~ん、リアにも空間収納みたいなものがあれば便利なんだけれど…………ん、なんかそういう持ち運べる袋? 作れるかな?」
トアは丈夫な麻袋を持ってくると、その中に空間をイメージする。魔力を行き渡らせ自分の収納空間を作成した時の感覚で広い空間をイメージすると、袋の中に空間ができあがった。その袋の内部に結界魔法を張り、リアと自分だけがその空間にアクセスできるようにした。結界を張るには『守護』と『拒絶』という、相反する感覚が大切なことは、先日の魔獣の襲撃時に結界を貼った際学んでいた。袋の内部へは守護を、そして外部にはリアと自分以外が触れられないように拒絶の効果をイメージして魔力を纏わせた。
「それで、最後に透明化っと!」
最初は透明だと見えないだろうと思い、周りに小麦粉をつけておいた。袋の使い方を書いた手紙を添えて、いつものクッキーと共に夜中にリアが寝ている寮の部屋の机の上に置いてきた。
(これで一安心かな!)
トアは自分が作ったものの価値を正確に分かっていない。これが知られたら、国どころか世界が震撼することになるのだが、幸いにもまだその価値を知るものはピオットとアンドールのみであった——。




