第53話 それぞれの近況
リアからの手紙には、アラキス帝国のウェスリッド家での生活について綴られていた。リアの侍女として一緒に行ったチェリーも、元が貴族ということもあり、公爵家での生活に慣れるのも早く、リアの良い話し相手になっているようだった。トアとリアがアラキス帝国の公爵家に移ることは、ススリード国王家も反対することはなかった。しかし、他国への抑止にもなるトアについては、なんとかススリード王国にも籍を置いておいてもらいたいというダンデリアム王の強い要望で、急遽トアの為に『英雄』という地位が作られ、『英雄』と認定された者は重国籍を認めるという法律まで定められた。貴族や王族に縛られることもなく、栄誉を享受するだけのその地位は魔法連合やルルド王国、デイン大陸国でも取り入れられ、トアは実質それらの国や組織には自由に出入りできることとなったのだった。
トアとリアの両親であるトーマスとフローリアは、トアがこれまで出会ったどの貴族よりも温かく、トアは孤児院にいるのと変わらない安心感を感じることができた。それは、以前から柔軟な考えを持ち、平民の生活にも詳しかったトーマスとフローリアだからこそすんなり作り上げられた環境かもしれない。そして今回、トアやリアが魔法発現と共に、貴族社会に振り回されたことを踏まえ、アラキス帝国を中心に、平民から貴族への安易な養子縁組に歯止めをかける方針が示された。そこには魔法学校や魔法連合といった組織の協力もあり、魔法が発現した平民の子供は、まず魔法学校で一般教養や魔法について学び、将来の職業についても魔法学校が本人の意向を重視した上で、魔法連合や各国とのパイプ役になり斡旋する体制を構築したのだった。
リアの手紙を読んだトアは、すぐ返事を書き始めた。次の休暇は公爵家で過ごすことや、まだ騒がしい自身の身の回りの近況について書いておいた。なお、トアは近隣諸国のどこへ行っても有名人で、握手を求められたり、物をもらったり、拝まれたりと、町中に出ると大変な騒動になるため、なるべく自重していた。
アラキス帝国では、先日、すでに皇帝の孫としてお披露目のパレードが行われたのだが、トアとリアが揃って馬車から手を振ると、割れんばかりの歓声が起こり、それは馬車が城に着いても止むことはなかった。
なので、最近は会いたい人の所へは、転移を活用してばかりだった。寮内の移動でさえ転移を使っていて、トアほどでないにせよ、やはり騒がれているリーニャたちからは羨ましがられている。
因みに手紙はルオからも届いていて、現在、ルオは祖父でありデイン大陸国の帝であるヌシの元で、様々な政務について意欲的に学んでいるようだった。ルオの父よりルオの方が祝福の力が強いことや、ヌシは回復してからは、かなり健康状態が良く、ルオが大人になるまで政務を行えるだろうということで、次期帝はルオにほぼ決定しているのだという。
「ルオ、すごく忙しいみたいだけど毎週手紙を送ってくれるんだよね……」
最初は三日おきに手紙が来ていたのだが、トアが「それならたまに会いに行くから!」と言い、手紙の頻度が落ち着いたのだ。実際、まだダーガ家の命で民の監視に当たっていた人間が地方で見つかることもあり、その度にトアは飛んで行き、ブラザリア帝国の指定された牢に転移させるということを行っているので、ルオと顔を合わせる機会は多いのだ。最近のルオからの手紙には——。
『僕も形ばかりとはいえ、立場上、見合いをしなければいけなくて……』
と書いてあり、見合いが何なのか分からなかったトアは、リーニャに聞きに行った後、ルオへ返事を書いたのだが——。
『そうなんだ! やっぱり王子様は大変だね。良く寝て頑張ってね!』
と返したことを知ったリーニャの目は半眼になったのだった。恐らく、手紙を読んだルオも同じ反応だったに違いない。
そんな手紙のやり取りもあったなぁ、と回想を終えたトアは、勢いよく椅子から立ち上がり、ロジャーたちに手を振った。
「今日はこれから、じいちゃんとアンドール兄ちゃんの所に行って来るね!」
いつも忙しいトアに、ロジャーやリーニャたちも笑いながらヒラヒラと手を振って別れを告げた。
転移したベージェルの部屋には、これまた行く先々で頻繁に顔を合わせるルーラルの姿があった。
「おお、トア。学校は終わったのかのぅ。茶の時間にするかな」
「トア、ちょっとぶり!」
「うん、じいちゃん、このクッキーも食べていい? ルーラルも来てたんだね。あっちはどう?」
「もちろんじゃ」
「あっちも、色々すごい話題になってるよ。ダーガ家の取り潰しも決まったし、徐々に落ち着いてくるとは思うんだけど……」
「あ、ルーラル自身も騒がれてるでしょ?」
「うん……何かアラキス家の門の前まで、毎日沢山人が来るんだよ。うっかり庭の散歩とかしてると、見つかって大変なんだ」
「分かるよ。だから、転移を多用するよね?」
「そうそう! やっぱりトアもかぁ」
「二人とも転移が使えてよかったのぅ」
「じいちゃんは大丈夫なの?」
「儂は特に立場は変わってないからのぅ。ただ、最近は髪に視線を感じるのぅ」
「モコモコになったからね……」
「あ、そう言えば、ミスラギがセド家の三人のこと感謝してたよ」
ダーガ家によって誘拐されてデイン大陸国の城に連れて来られていたセド家のミハ、ケナ、ビムの三名は、その後発見され、ルオから連絡を受けたトアが無事にブラザリア皇国へ送り届けていた。三名は、トアによる転移魔法を経験した後、興奮した様子で「君がゴウミを倒してくれたんだね?!」と聞いてきた。トアが正直に頷くと「やっぱり!! 有難う、君は救世主だ!」と顔を綻ばせたのだった。
三人の顔を思い出したトアはニッコリと微笑んだ。
「治癒魔法の使い手だったよね……あっ、そうだ! 気になってたんだけど、ギンはどうなった?」
「ふふふ、僕も報告しようと思ってたんだ。今回、ダーガ家の書物や日記を調べていたチームが発見してくれて、治療薬が作れてね。もうほとんどローヤーの姿に戻ってるよ。ただ、ちょっとまだ艶やかな毛並みが生えてる部分もあるけどね……」
ローヤーの尻尾や耳を思い出したルーラルはちょっと微妙な顔をした。
「そうなんだ。完全に人間の姿に戻ったら会いに行こうかな!」
「うん、絶対喜ぶよ!」
とりあえず近況報告も終わったトアは、ベージェルお手製クッキーのお土産をもらい、次の目的地へと転移することにした。
「じいちゃん、ルーラル、また後でね!」
トアがそう言って消えていくと、ベージェルとルーラルもいそいそと外出の準備を始めるのだった。




