第50話 到来
ススリード王国のレスト子爵家の長女ミシェルは、先ほどまで玄関にて王家一行の訪問を待っていたが、待ちきれずに窓から外を眺めていた。
(この窓からは門がよく見えるわ。日の光のもとで見る殿下はきっと、いつもにも増して輝いて見えるでしょうね……ああ、出来ることなら私のこの装飾品の輝く様もお見せしたかったわ。でも、もっと懇意になれば、お忍びデートなんかもできるわね……)
ミシェルがそんな妄想をしていると、突然、玄関のドアが開かれ兵士の上ずった声が聞こえた。
「ま、魔法連合及び王家の方々がいらっしゃいました!」
窓際にいたミシェルは「えっ! どこから?!」と言いそうになる声を押し殺し、大急ぎで両親の横へと加わった。
間もなく、再びドアが開かれると白いマントを着た五名ほどの男女が入って来た。そして、屋敷の玄関ホールの隅々へと鋭い視線を向けて確認すると後ろへ合図を出す。すると、紫のマントを羽織ったベージェルとルーラルに両手を引かれトアが入場してきた。
ミシェルはルーラルを見ると頬を赤らめたが、トアの顔を見た途端、不愉快そうに顔を歪める。
(あれは、リア……じゃないわね、瞳の色が違うわ。じゃあ、あれが孤児院にいるという妹かしら。それにしても…………何であんな見目麗しい殿方に手を引かれているのかしら??! まるでどこかの姫みたいな扱いじゃない!!)
トアたちに続き入って来たのは、リアだった。それを見たミシェルの顔は引きつり、額には青筋が浮かぶ。
(な、何で、アレが国王とマルスミア殿下に手を引かれているのよ!? 許せない……)
トアはそんなミシェルの様子を、表情を変えることなく冷静に観察していた。
王家の護衛も含め、総勢二十名ほどが入ると、当主であるダーミー・レストが顔を引きつらせながら寄って来た。
「こ、これはこれは、ようこそおいでいただきました。ダーミー・レストでございます。こちらは妻のメゾット、そしてこちらが長女のミシェルでございます」
ダーミーは、ベージェルたちの方には見向きもせず、国王ダンデリアムたちに向けてそう言った。
てっきり、何か言葉があると待っていたダーミーだったが、予想外の方向から声が飛ぶ。
「あれっ? ここの家にはリアの友達がいるって聞いたんだけど……そうだよね、王様?」
トアがそう言うと、ダーミー始めミシェルや使用人たちまでが驚愕の表情に変わる。しかし、国王ダンデリアムの対応が、その驚きを更に増していく。
「トア、その通りだ、失礼したね」
ダンデリアムはトアに優しくそう言うと、凍えるような視線をダーミーへと向けた。
「レスト子爵よ、お前の家族はこれだけなのか?」
「い、い、いえ、次女のチェリーがおります」
「……」
「す、すぐに連れて参ります!! ミ、ミシェル!」
「は、はい!」
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放置され何の情報も与えられていないチェリーは、自分でお茶を入れて寛いでいた。しかし、廊下からバタバタと複数人の足音がしたかと思うと、ノックも無しにドアが開けられ唖然とする。
鼻息荒く入って来たのはミシェルで、ミシェルの侍女たちも後に続いている。
「ああ、頭にくる! 何で私が貴女なんかの迎えに来なくちゃいけないのよ! 早く着替えなさい!!」
「え、一体、何が……」
「何でもいいのよ!!」
「痛っ!」
怒りのままにぶたれたチェリーが頬を抑える。
「ミシェルお嬢様、顔は目立ちますので今はまずいかもしれません……」
「そうね……。いい、チェリー、アレのことだけど……」
「アレって?」
「だから、あの孤児のことよ!」
「えっ、もしかしてリアがいるの?」
「まったく、忌々しい! そうよ、アレが来ているのよ。いい? アレとは私も友達だと……いいえ、仲の良い姉だと言いなさい」
「誰に?」
「王家の皆様の前でよ!」
「えっ、王家!?」
全然、訳が分からなかったチェリーだが、とにかく早くしなければいけないことを理解すると、一番上等な服に着替えた。しかし、それでもミシェルのドレスに比べたらかなり見劣りするものである。髪は簡単にハーフアップにしたのみだが、待たせる方が失礼だと判断し、急いで向かった。
(王家の皆様がいらっしゃるなら、家族総出でお出迎えするのが常識なのに……)
チェリーはそう思い内心溜息を吐く。
一行は応接間に移動しており、部屋へ入ったチェリーは豪華なメンバーの顔触れに気圧され、一瞬挨拶を忘れてしまうほどだった。
何とか挨拶を終えるとリアの姿が目に入り、チェリーは涙を浮かべる。そして、リアもまた久しぶりにチェリーの顔を見て胸が熱くなっていた。その様子を見たベージェルが二人に優しく語り掛ける。
「リア、そちらのチェリーさんが良き友人で間違いないようだのぅ」
「はい、ベージェル様。彼女はこの家で唯一私に優しくしてくれた大切な友達です」
「うむ……どうやら、頬が少し腫れておるようだのぅ……」
ベージェルがそう言いながらトアの方を見ると、むすっと怒り顔のトアが頷きチェリーの方へ歩いて行く。実はトアは、ミシェルがチェリーを迎えに行ってからの行動を全て遠視で確認しており、ミシェルがチェリーの頬を叩く様子も見えていたのだった。
ミシェルを睨みつけながらチェリーの元まで行ったトアは、今度は打って変わってチェリーににっこりと微笑んだ。
「チェリー、初めまして。リアの妹のトアだよ。ほっぺたが痛そうだから、ちょっと治すね」
「あっ、初めまして! うわぁ、本当にリアにそっくり……あっ、えっ? 治す??」
「うん、治癒魔法を使うね」
「え……」
そう言ってチェリーの頬にトアが手を翳すと、一瞬、トアの手が白く光り、レスト家の面々が目を見開く。
「どう、痛みはなくなった?」
そう聞かれて、半信半疑のまま頬に手を当てたチェリーは、「痛くない……」と驚きの声を上げる。その様子を見ていたダーミーが溜まりかねて質問した。
「こ、これは一体、どういうことですか?!」
それに答えたのは、引き続き冷ややかな視線を崩していない国王ダンデリアムだった。
「トアが治癒魔法を使って、チェリー嬢の腫れを治したのだ。トアはここにいらっしゃる賢者ルーラル・アラキス殿の子孫であり、アラキス帝国皇帝の孫でもある。そして何より今回の戦いにおける一番の功労者で、世界の救世主なのだ。この世界でトアと賢者ルーラル殿は魔法の頂点にいらっしゃる。社会的地位においても頂点に君臨している方々だと思え」
「え、でも、アレの……リアの妹なので……は……ギャア!」
言い終わらないうちに、まるで突然何か重い物に潰されたように、ダーミーはテーブルに突っ伏してしまった。




