第48話 消える前に
デイン大陸国を覆う祝福が復活し、祝福の光とともにトアの浄化魔法が国中に降り注いだ時、デイン大陸国の城の一室には異変が起きていた。
「ゴ、ゴウミ様、いかがされました!!?」
これまで意識のなかったゴウミが突然、苦しみ始め、側についていたドルクが驚いて声を掛ける。
しかし、そこでドルクに返答したのは、ゴウミではなかった。
「復活したみたいだね……祝福が。それに、トアも協力したみたいだ」
他に誰もいるはずのない部屋から、突然声がして驚いたドルクは身構える。
「だ、誰だ!?」
「ああ、もういいかな、姿を見せても……」
そう言って部屋の隅から現れたルーラルを見て、ドルクはすぐには言葉が出なかった。
(この男は、まさか……いや、そんな……)
「お前は……誰だ……」
「ルーラル……アラキス・ブラザリアだ」
「そんなはずは!!」
「まぁ、それはどうでもいいんだ。僕はそこにいる存在に最後に話をしに来ただけなんだ。少し黙っていてくれるかな」
そう言うと、ルーラルは警戒するドルクの背後に転移し、ドルクだけを転移魔法でブラザリア皇国へ飛ばした。その神業とも言える一瞬に、ドルクが反応できるはずもなく、「なっ……」という音を残し、ドルクの姿は消えて行った。
予めブラザリア皇国には話が通っており、ドルク用の牢の準備も万端で、転移で送ればすぐに枷を嵌めて牢へと入れられる手筈となっていたのだった。
ルーラルはベッドの上で唸るゴウミに近づくと、静かに語りかけた。
「ガゴウ……兄さん、お久しぶりです……あなたが殺したかったルーラルです。きっとそこにいるのでしょう?」
ルーラルは黒い靄は見えないが、トアが孤児院で放った浄化で弱ったガゴウは、恐らくデイン大陸国のゴウミの元で執念深く自分を狙う機会をうかがっているだろうと読んだのだった。
「結局、僕にはちっとも理解できませんでした。そんなになってまで、一体、兄さんの人生の意義は何だったのでしょうか? いや、いいんです。これは僕の一人語りです。伝えたいのは、もう一言だけなんです…………さようなら」
「……ウ、ウウウウギャアアア!!」
トアの浄化魔法が降り注ぐ中、ガゴウが憑りついたゴウミは白目を剥き、歯を剥きだして断末魔の叫び声を上げた。最後にルーラルの方へ顔を向けたように見えた直後、ゴウミの身体は一切の動きを無くし静かになったのだった。
その後、ヌシが意識を取り戻したのをルオと一緒に確認したトアは、ゴウミの部屋へやって来ていた。トアが念入りに再度浄化魔法を掛け、遠視を使い身体の隅々まで靄の存在がないことを確認すると、ルーラルがゴウミをブラザリアへ転移させた。ブラザリア皇国では今頃、四代公爵家の一つで現皇帝ミスラギの出身でもあるケイナ家がドルクに続きゴウミを確保し忙しく動いているはずだった。今回の作戦では、セド家が治癒魔法、アラキス家が魔道具、ケイナ家が実務面を幅広く支援していた。そして残りの一つの公爵家で芸術分野に秀でているカラス家は、ミスラギの命により城の中で芸術祭を開いて皇子たちを競わせていた。それは、ゴウミに成り代わり城に滞在しているザウミに、今回の作戦について気付かれないようにするためであった。事前の情報で疑っていた通り、ザウミはゴウミの双子の弟であることが、その後の調査で分かっていた。兄のゴウミの方が魔力量が圧倒的に多く、異世界での計画に必要なものの、ブラザリア皇国の掟により長男は皇子として城に預けなければならず、そこで双子の弟のザウミを城へ行かせる計画を思いついたようだった。しかし、最初から成り代わっていたのか、若しくは時々皇子が実家を訪ねる際などに入れ替わっていたのかなど、まだ調査は長引きそうであった。
しばらく静かにゴウミが寝ていたベッドの上を見つめていたルーラルに、トアが声を掛けた。
「ガゴウ……お兄さん、最後まで残念だったね……」
そうトアが声を掛けると、ルーラルは短く溜息をついた。
「そうだね。でも、今になって思うと、僕は幼い頃からなんとなく兄さんのことを避けていたのかもしれない。分かり合えないとどこかで線引きをしていたのかも。そういうのが無意識に態度に出ていて、兄さんにも伝わり僕への嫌悪感を募らせていったのかな……」
「二人だけで喧嘩してるなら笑えたけど、ガゴウは色んな人を巻き込んで傷つけたんだよ。それはガゴウの責任だし、ルーラルが悩むことはないよ! それに本当なら、何百年も前に終わってる話でしょう? 大体、ネチネチ何百年も追いかけてるなんて、本当に時間の無駄だよね? そんな性格理解するだけ無駄だよ。だから、ルーラルも楽しく生きて! せっかく解放されたんだから、やりたいことをやった方がいいよ! 私もやりたいこと色々やるつもり……ニシシ」
トアがそう一気に話すと、ルーラルの落ち込んでいた表情が崩れ始めた。
「ふ、ふふふ……あはははは! そうだね……うん、僕もトアほどじゃないかもしれないけど、前を向きに、楽しく生きよう」
「あ、ルーラルはどっちの世界に住むの? どっちでも住めそうだよね?」
「そうだね……当分はブラザリアで過ごすかな。ちょっと気になることもあるし……」
「あっ、リラさんのこと?」
「ぇえっ! なんで、分かったの?!」
「う~ん、リラさんの話をする時のルーラルが、いつになく真剣だから?」
「なんか、恥ずかしい……」
「恥ずかしくないよ。奥さんの魂が宿っているかもしれないんでしょ? 真剣になった方がいいよ」
「トアって……」
「ん?」
「人のことになると、急に大人みたいになるね」
「そう? ルーラルが自分のことになると子供になってるんじゃない?」
「ほら~、ああ、やだ、どうしよう! 何かトアの成長を感じる!」
「もう、いいから、ブラザリアに行って来て!」
「はいはい、分かりました~。あ、ところで、トアは何をするの?」
「ん、本来の目的! リアを貴族様から助けるの!」
「ということは……えーっと、レスト子爵家??」
「うん、そうそう。そのためにじいちゃんの所に相談に行くんだ」
「え、それ僕も協力するよ。トアには色々助けてもらってるし!」
「いいの? リラさんは?」
「大丈夫。ちょこちょこ様子は見に行ってるから」
「そうなんだ。うん、来てくれると心強い! ありがとう」
こうして、トアとルーラルはベージェルの所へ行き、デイン大陸での報告をした後にリアの相談をしたのだった。
話を聞いたベージェルは、リアについてはススリード王国の貴族家に籍があるということで、ススリード王国の国王ダンデリアムへと連絡を取った。他国と同様、戦いの後始末に追われていたススリード王国であったが、トアの要望とあって、ダンデリアムは迅速に予定を立てた上でベージェルへ返事を送って来た。
「うむ、ちょうど一週間後じゃな……トアの目的達成のために、万全を期して臨むとしよう」
ベージェルの静かな呟きが、嵐の前の静けさであることを、レスト家は知る由もないのであった。




