第47話 祝福
中央に安置されている石にルオが国章をそっと当てた。すると、途端に透明な石が青白く光り始める。あまりの眩しさにトアは数秒ほど目を瞑っていた。再び目を開くと、石のそばに先ほど眠っていた帝ヌシ・ウヌ・デインの姿があり、トアは目を瞬いた。
「お祖父様……」
ルオがそう言うと、ヌシは優しく微笑み口を開いた。
「ふふふ、国章を持って来るとは……きちんと儂の意図を理解しているようだ。して、そのオドアイ様のような子は誰かな?」
「彼女はトアと言います。お祖父様が最愛をとおっしゃったので……」
ルオが少し茶目っ気を込めた目つきでそう言うと、ヌシは心底嬉しそうに笑う。
「ははははははは。うむ、よく分かった……成長したな、ルオ」
「はい。お祖父様には早くお目覚めいただき、今後の成長も見ていただかなくてはいけません」
「ふふふ、儂はもうだめかと覚悟していたのだが、儂の愛する孫とこの国の民たちは優秀なようだ……」
そうヌシが言ったところで、石から天井に向けて、光の柱が昇り始めた。
「お祖父様、これは!?」
「これは、国を守護する祝福の光だ。民による日々の祝福で大気が清められた状態で、帝である儂がこの石に祝福の祭事を捧げることで、完全に発動する」
「では『祝福を授ける』とは……国を守る祝福を稼働させるということですか?」
「そうだ……理解が早いな。ルオにはこの祭事をしっかりと目に焼き付けてもらいたいのだ」
「分かりました」
「それから、トア……君は浄化魔法も使えるね?」
「あっ、はい、使えます」
「お祖父様、トアをご存知なのですか?」
「いや、初対面だ。しかし、今は実体がない姿だからか魔力の性質が分かるのだ。ふふふ、トア、君は実に面白いお嬢さんだね……是非、君の力も貸してもらいたい。儂がこれから発動させる祝福に、浄化魔法も一緒に掛けてもらえるかな?」
「はい、やってみます!」
トアがそう返事をするとヌシは微笑み、石の前へ移動する。
ヌシの姿に実体はないようで、スーッと床の上を滑らかに移動すると、正面から石に両手を付け、言葉を紡ぎ始めた。呪文のようにも聞こえる抑揚のあまりない言葉は、それでいて歌のようにも聞こえる不思議な響きだった。すぐにヌシの身体が光り始め、同時に石が一層、青白い輝きを増し、天井へと光りの柱が昇っていく。
トアもヌシと同じように石に手を触れると、浄化魔法を発動した。浄化魔法が加わると、これまで青白かった光の柱は虹色へと変化し太さを増していく。
城の地下から立ち上る光の柱はそのまま城の屋根を抜け、上空高くまで行くと放射状に散らばって行く。デイン大陸国全土を覆うほど大きな光の放出に、デイン大陸の民は歓声を上げて空を見上げた。それは、デイン大陸国の祝福が戻って来たことを意味するもので、皆涙を流しながら口々に祝福の言葉を紡ぎ、それが更に光の源となり国の守りに還元されていくのだった。
しばらく言葉を紡ぎ続けていたヌシは、光が安定したと感じたところで止め、トアもそれに倣って浄化魔法の供給を止めた。
「祝福のループが出来た。これで大丈夫だ。トア、素晴らしい浄化魔法をどうも有難う。これで、大陸全土の呪いの類も浄化されるだろう」
「役に立てて良かったです。でも、ここから大陸全部に祝福を届けられるなんて、すごい!」
「ははは、実は儂も驚いているのだ。恐らく、民たちが事前に何か素晴らしい手を打っていたのだと思う。このように、すぐに祝福のエネルギーが集まったのは、民の力に他ならない。儂も、うかうか寝てはいられないな。ルオとトアの出会いについても聞かねばならん。うむ、久々に身体の心地よさを感じる……もうじき起きられよう……二人とも、ではまた会おう」
そう言うと、ヌシの姿は消えて行った。
「トア、疲れてない?」
「うん、大丈夫だよ!」
「やっぱり、トアはすごいなぁ。大陸全土に届けられるほどの浄化魔法なんて……想像もつかない」
「まぁ、ルーラルの子孫らしいからね」
「そうだったね……ありがとうトア」
そう言うとルオは、じっとトアのことを見つめた。
「どうしたの?」
「何となく、今言わないと、トアはまた忙しくなりそうだから……言わせてね」
そう言うとルオはすっと息を吸い込んだ。
「トア、僕はトアのことが好きだ。トアと同じ家で、トアと一緒に暮らすのが僕の夢なんだ。だからね、それを実現するために努力する。ふふ、トアはそのまま自由に生きていて。これは、僕の一方的な宣言だ。絶望の中に光をくれた君を好きになってしまったんだ、仕方ないよね?」
最後は少し困ったような笑い顔で、ルオはそう言った。
トアはルオの言葉を聞きながら、百面相をしていた。赤くなって照れたかと思うと、難しい顔に疑問を浮かべ、最後はなぜかルオと同じ困った笑い顔になっていた。
「ん……好きになってくれてありがとう……大人になったら、もう一回同じこと言ってくれる? 大人になっても好きだったら、結婚? するんでしょ? 私も今ルオのこと好きだけど、大人じゃないから……だから、大人になったらもう一度確認しよう。それで良かったら、結婚しよう……うん、そうしよう!」
トアがニシシと笑うのを見て、一瞬ポカンとしたルオだったが、口を抑えて笑い出した。
「ごめん、トア! すごく前向きな答えで嬉しいんだけど、前向きすぎてびっく……くっくっ! あはは! もう、トア……抱きしめていい?」
「イイヨ……減らないから……」
「それじゃ……」
ルオが優しくトアのことを抱きしめると、トアは自分の心臓を煩く感じる。
(心臓が煩いけど、でも、ルオが包んでくれるとあったかくて落ち着く……)
(ふぅ、もうトアには振り回されてばかり……きっとトアはこれからも世界を越えて飛び回るんだ……でも、たまにはこうして捕まえたい……。それにしても、次回こそは牢とか墓とかじゃない場所がいいな……)
二人の恋の行方は、ルオにかかっていると言っても過言ではなかった。




