第46話 ルオの帰還
その日、デイン大陸国の城に密かに届けられた手紙には、数日後に帝の孫であるルオ・ウヌ・デインが帰国すると書かれており、城の中は明るい雰囲気に包まれていた。
顔見知りの兵士からその情報を得たミハたちも、自分たちに与えられた部屋で同じく明るい気持ちになっていた。
「本当に良かった。帝の孫が人質のようにバール帝国に連れて行かれたと聞いた時は胸が痛んだ」
「そうだよね、ミハ。だって、僕たちより五歳も年下なんだよ」
ケナの言葉にビムも頷く。
「うん。それに、こんなに城内は盛り上がっているのに、ドルクが気付いてなくて良かった」
「ドルクはゴウミに心酔してるからね……それにしても、ゴウミをあの状態にしたのは魔力も持たない側仕えだったって話だったよね……現場から聞いた様子も参考にしたけれど、僕たちの見立てでも、あれは魔力圧によるものだった。でも、あのゴウミの魔力を遥かに上回る魔力量じゃないとあんな圧倒的な破壊力は出ない。誰がやったにせよ、その人からしたらゴウミなんか赤ん坊も同然だったんじゃないかな? あんな殺さずギリギリ生かす芸当なんて……人間業じゃない。僕たちにとっても、デイン大陸の人々にとっても救世主だよね」
ミハがそう言うと、他の二人もコクコク頷くのだった。
そして、いよいよルオが帰還する日がやって来た。昼になり、城の中では、今か今かと待ちわびる兵士や下働きの者たちが、ソワソワと城の外を眺めたりしていたのだが、皆の予想を裏切り、ルオは午前中には既に、祖父であるヌシ・ウヌ・デインの部屋へトアやケイリュウ、ジキ、コクド、メイハクと共に到着していたのだった。
トアの転移魔法で部屋に現れたルオたち六人を見た見張りの者たち四名は、一斉に襲い掛かって来た。それらは、ダーガ家の手の者で、かなりの手練れではあったのだが、そんなことは事前に遠視で確認して分かっているトアたちにとっては大した敵ではなく、ケイリュウたちの剣技やトアの魔法によって、即座に無力化されたのだった。トアが持って来た魔力封じの手枷は、ブラザリア皇国の人間にも効くことは分かっており、とりあえずそれを嵌めて黒い防音結界に閉じ込めておく。
「これで、よしっと! それにしても、本当に卑怯だよね。まず私やルオ目掛けて来るんだもん。子供を人質にすれば、ケイリュウさんたちが動けなくなるだろうって考えたんだろうけど!」
「うむ。俺たちから見れば、トアに掛かって行くなど、自殺行為でしかないのだがな」
ケイリュウの言葉にルオ始めジキたち皆が激しく同意する。
敵の無力化が終わると、ルオは祖父であるヌシ・ウヌ・デインが眠る寝台へ近づき、ヌシの手を取った。
「お祖父様、只今戻りました……」
ヌシの皺だらけの手をさすり、しばらくその寝顔を見ていたルオは、振り返るとトアに手招きする。
「トア、こっちに来て」
寝台に近づいたトアは、眉間に皺を寄せてじっとヌシを見つめており、ルオもそんなトアの様子を無言で見守る。
しばらくすると、トアが口を開いた。
「……呪いも掛けられてると思うんだけど、お祖父さんの身体が普通の人より、何ていうか……薄く見える」
「薄く……」
「うん。よく分からないけれど、あまり良い状態じゃないと思う」
「お祖父様は、まだ時間があるだろうか……」
ルオがぎゅっと唇をかむのを見て、トアは敢えて明るい声を出す。
「うん、大丈夫。このままだと良くないと思うけど、魔力は安定してるから」
「そうか……。じゃあ、トア、僕と一緒に城の地下に来てほしいんだ」
「分かった。念のために遠視で確認してから飛ぼう」
ルオの指示で、ケイリュウたちはそのままヌシの護衛に残ることになり、遠視を終えたトアはルオを連れて地下へと飛んだ。
地下室は、広い空間となっており、その中心には巨大な透明の石が台座の上に安置されていた。
「うわぁ、綺麗な所だね……」
「あはは、トアはそう思うんだね。僕は初めて来た時は怖いと感じたんだよ。まぁ、ここがどんな場所か知っていたせいもあるけれど……」
「ここは何をする場所なの?」
「ここは、代々の帝の棺が安置されている所なんだ」
「え、でも、どこにもないよ棺……」
「この下にあるんだよ」
「えっ! 床の下? 踏んじゃってるよ? 罰当たりじゃない?!」
「大丈夫。デイン大陸国の帝は国民や子孫たちを支える存在であることを誇りに思うんだ。だから死んだ後も、皆の足元で国を支える……だから地下室の床の下に安置されているんだよ」
「そうなんだ……踏まれてもいいなんて……心が広いね」
「うん」
「お祖父さんがルオに伝えたのがこの場所なの?」
「そのはずなんだ……」
ルオはもう一度、ヌシの言葉を思い出していた。
『守りの祝福をルオとその最愛に授ける。永い眠りの地にて待つ。祝福の本質を広めよ』
ルオは安置されている巨大な透明の石の前まで行くと、懐から丸く平べったい金属を取り出した。表面には装飾が施されている。
「これはね、このデイン大陸国の国章なんだ。そしてこの国章は僕が生まれた時に作られ与えられたものなんだ。お祖父様は守りの祝福を僕と最愛に授けるっておっしゃった。『最愛』というのは、多分……国であり国民だと僕は思う。お祖父様は、僕に帝としての心構えを問われているんだと思う。ただね、お祖父様には僕個人としての好きな子も紹介したかったんだ。だから、トアにも来てもらった」
「えっ?! そんな大切な場に私がいて大丈夫なのかな?」
「トアは僕のこと好き?」
「うん、ルオのこと好きだよ!」
「はぁ~、もう! トアの好きと僕の好きは多分違うよ……」
「えっ、好きは好きでしょ?」
「いいよ、トアはそれで。そういう所もトアの良さだから。じゃあ、始めよう」
急にルオの表情に真剣さが宿り、トアは黙ってルオを見つめた。




