第44話 フンッ!
遠視で確認を始めたトアは、すぐにその異変現場を見つけた。
「教会の裏庭みたい! あれは……マゴットさん?!」
「えっ、トア、マゴットさんに何かあったの!?」
マゴットの名前が出て、リアは慌ててそう聞いた。
「子供は無事みたい。でも、マゴットさんが自分の首にナイフを向けてる。私、先に行くね!」
「トア、私も行く!」
「分かった。皆は危ないといけないから、他の子供たちと避難をお願い!」
そう言うと、トアはリアの手を掴みすぐに転移して行った。状況が掴めないままではあったが、ナイル神父を中心に子供たちの安全確保が行われる。
裏庭に移動したトアとリアは、すぐにその場で泣いている子供たち三人を自分たちの後ろに移動させた。そこからそう離れていない木の側にマゴットは立っており、首にナイフを突きつけた状態で、目だけが爛々と輝いていた。トアはマゴットの身体から極わずかに黒い靄が見えた気がして目を細めた。トアとリアの方を向いたマゴットは、口角が不気味に上がり本人のものとは思えない獣の鳴き声のような声で笑い始めた。
「ギャギャギャアハハ……いいぞ、やっと獲物が釣れた……グフッフッフフフフ……」
その様子を見たトアは、目つきを鋭くして叫ぶ。
「ガゴウ!」
「…………オバエごときが……我の名を……ウグァアアア!」
「一体、何がしたいの?」
「フハハハハ、コレダ……コノ女を殺すのだ」
「なぜ?」
「お前のセイダ……オマエガ邪魔ヲスルカラダ!!」
「じゃあ、私にかかってくればいいじゃない?」
「トア!」
思わずリアが止めようとしたが、トアは「大丈夫」とリアの手を握る。
「それとも、怖くて私に近づけないの?」
「ナニヲ!!! そのまま動くナヨ……」
そう言うと、ガゴウはマゴットに憑依したまま近づいて来る。トアはそれを冷静に観察していた。
(靄が随分小さくなってる……この前の浄化が効いたんだ。少し回復してるみたいだけど……)
ついに目の前まで歩いて来たガゴウは、マゴットの顔でニタリと笑うと口を開いた。
「隣のは……リアか……そっちは、まぁいい……我のジャマをしたのはオマエだ……お前をコロシテヤル。それともこの女をコロスか?」
「マゴットさんは関係ないでしょ?」
「ガハハ、ソウダ……オマエが原因だ……」
そう言うとマゴットの瞳は一層、ギラギラと光り、手にしたナイフをトアに向かって振りかぶる。
「シネェ!!」
トアは自身に下りて来るナイフをじっと見つめていた。トアは既に自身に薄く結界を張っていたのだが、ガゴウがマゴットに何をするか分からない状況で、どうしたものかと考えていた。しかし、そこでガゴウに予期せぬ事象が起こる。
「グッ……ナ、ナゼダ?? ナゼ動かない?!?」
トアは自身の額から指五本分ほどの距離で止まったナイフを注意深く見ていた。ナイフを握るマゴットの手はブルブルと震え、まるで何かに抗っているかのようだった。そして、ガゴウの口調が突如乱れる。
「ウ、ツクシク……トウト……イ、トア様にぃいいいい! よくもぉおおお!! ふぅううフンッ!!」
そうマゴットの口が言葉を絞り出すと、ガゴウの怨念がボゥンとマゴットの身体から抜けた。
「あっ、ガゴウが抜けた!」
「えっ、マゴットさんから抜けたの?」
「うん! すごいね、多分、マゴットさんが勝ったんだよ!」
マゴットの身体から押し出されたガゴウは、一瞬、何が起こったのか分かっていない様子だった。そこをトアが見逃すはずはなく、すぐに結界で覆い瞬時に浄化魔法を発動する。
「うぎゃぁあ!」
ガゴウを形作っている靄は更に小さくなり、人の顔ほどのサイズになった所でシュンッと消えた。それを見たトアが悔しそうに呟く
「あーあ、また逃げられた!」
「そうなの?!」
「うん。かなり小さくはなったんだけど、逆にあれじゃあ誰かに憑依しても分かりにくいなぁ……」
「でも、そんなに小さくなったなら、もう大したことはできないんじゃない?」
「うん、そうかもしれない」
とりあえず二人は、憔悴して地面に倒れているマゴットを教会の中へ運び、他の魔法連合のメンバーに任せると共に、ベージェルへの連絡も頼んでおいた。
フローリアはマリーと共に子供たちの世話を引き受けており、トアから説明を聞くと「私はここで皆さんのお手伝いをしてるわ」と言った。
しばらくすると、ベージェルとルーラルが転移魔法で現れた。
「ガゴウが憑依しておったのじゃな?」
「うん、マゴットさんは衰弱しているけど、大丈夫だと思う。最後はマゴットさんの意志でガゴウを追い出したみたい。すごいね、マゴットさん」
「うむ、強い意志の力が働いたんじゃな」
「トア、またもごめん……マゴットさんにまで……。ガゴウ兄さんは何か言ってた?」
ルーラルが申し訳なさそうにそう聞く。
「うーん、私がガゴウの邪魔をしたって言ってたよ。本当に勝手だよね? 自分が人を襲うから、私は阻止してるだけなのに! また浄化を掛けておいたから、かなり靄は小さくなったけど、逆に憑依しても見えないかもしれない」
「そうか……そんなに小さくなったなら、どこかに隠れようとするかもな」
そう言うと、ルーラルは何かを考えている様子だった。
「そうじゃ、トア。帝国も区切りがついたのでのぅ、今度はデインの民たちの方に協力しようと思うんじゃ」
「そうだね、じいちゃん。私はいつでも行けるよ!」
そうしてトアたちは、デイン大陸国へ向けて準備を進めるのだった。




