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トア・リア物語~双子の妹は姉を助けるため無自覚に無双する~  作者: 河童紀心
最終章

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第42話 因縁

 

 ゴウミのベッド脇で甲斐甲斐しく世話を焼くドルクは、ブラザリア帝国から連れて来られたセド家の治癒師たちに、厳しい視線を向け怒鳴っていた。


「湯はそこに置いておけ! まったく、ゴウミ様の高貴なお身体に貴様ら信用ならん者たちが触るなど許されん!」


 セド家の者たちが、冷ややかな目を向けて部屋を出て行くと、ドルクは気づかわし気な様子で未だ眠ったままのゴウミを見る。


(高貴なるゴウミ様が、なぜこのような目に……正確な報告がなされないせいで本当に何が起こったのかが分からぬ。魔力も持たぬ平民の側仕えが、ゴウミ様に傷を負わせたなど……聞くだけで嘘だと分かるような腹立たしい報告を……)


 ドルクは、ナドンから聞かされた内容を思い返し、ギリリと奥歯を噛みしめる。


(バール帝国にはガゴウ様もダーガ家の皆様もいらっしゃる。ダルーガはすでに傀儡となっているし、今度は大丈夫だろう。儂はゴウミ様の回復を見守りながら、皆様が戻られるまで、下賤な輩が近づかぬよう見張らなければ……この地には不気味な力もある……特にあの祝福を集めることで発動するという国の守りなる石は厄介だ。あれは結局動かすことも傷つけることも出来なかった……忌々しい石め)


 ドルクは今も城の地下に安置されている巨大な透明の石を思い浮かべると、不愉快そうに顔を歪めるのだった。



**

 その頃、トアは一度収納袋の中へ入り、中の状況に問題が無いかを確かめていた。先に中にいたフローリアやリア、ミラスがきちんと対応してくれていたようで、そこにトーマスやウィズダブラ、ルオも加わり、皆が安心できるように動いていた。トアが来ると、自然に人々が道を空け、リアやフローリアたちが気付いて駆け寄ってくる。


「皆、大丈夫だった?」

「トアこそ、大丈夫?」

「外はどんな感じ?」


 リアとルオがそう言い、後ろにウィズダブラとトーマスも加わり、トアの言葉を待っている。トアはここまでの様子を、回りを囲んでいる皆にも聞こえるように説明した。


「……ということでね、今、ススリードとルルドの兵士が皆さんの家を回ってご家族を避難させてると思うから、そっちに加勢に行ってくる。もし、危なそうな人がいたら、すぐにこの収納袋に入ってもらうから、皆さんはここで待機をお願いします!」


 何人かトアと一緒に行きたいと言い出しそうな気配を感じてトアは大声でそう言った。トーマスやトーマスの側近であった者たちは残念そうであったが、納得してくれた。



 トアは魔法連合内の作戦本部にて、事前に共有していた地図を見ながら、遠視で確認を行い病人や幼い子供、老人など自力での移動に支障のある者がいたら飛んで行き、収納袋に入ってもらうよう動き始めた。トアの隣には、ミスラギたちを無事にブラザリア皇国へ送り届けて戻って来たルーラルもおり、同様に遠視で作戦全体に目を光らせている。皇帝ダルーガの異変にまつわる帝国内の混乱により、避難誘導に当たっているススリードとルルドの合同軍は、他国であるにも関わらず迅速に動けており、トアの出番は少なく済んでいた。


「城下町で睨みを利かせているドリアムたちの効果も大きいみたいだね」

「おじちゃん、すごく強かったんだね……」


 ルーラルの呟きにトアも頷く。最初こそ小競り合いも少しはあったようだが、ドリアムの異常な強さに恐れをなして、今では挑もうとする無謀な帝国兵はいなくなっていた。保護した家族たちは、一度、転移陣から魔法連合へ移動し、魔法連合がその広大な庭に設置した仮説住居で過ごすことになっていた。その後、トアが保護した囚人たちをそれぞれの家族の元へ送ると、皆涙を流し十年間の苦しみを労わり合ったのだった。

 囚人及びその家族たちの保護が完了すると、いよいよバール帝国へ向けてドリアムたちの部隊が前進し始めた。それに慌てたのはバール帝国の城で様々な部署から引っ切り無しに指示を求められ、憔悴しているラーラルだった。ダルーガから、今回の戦いの全権を任されているラーラルは、ダルーガが臥せっている今、責任を取りたくない大臣たちの静観により、いつの間にか全ての部門を監督する立場にされていた。


「ああ、くそっ、こんなはずでは……そもそも、本来は正妃カッシーナ様とデミニン王子が国の頂点にいるべきだろう!! これでは、貧乏くじを引いたも同然ではないか!? 一体、どうすればいいんだ? 敵はすぐそこに来ているというのに!」

「ラーラル様、どうか早くご指示を! 敵はすぐそこまで迫っています!」

「ええい、分かっている! もういい、私の魔法を敵の鼻先に盛大にぶつけてやる!」


 半ばヤケクソ気味のラーラルは、そう言うと部屋を飛び出していく。そのまま城壁の上までやって来たラーラルは、懐から筒を取り出すと、その中から土を矢じりの形にして高温の窯で焼いたラーラル独自の武器を出す。それに自分の魔力を込めると、ある人物に狙いを定めた。



 ラーラルが城壁の上に現れた時、その茶色いローブに黒い長髪姿を目に留めたドリアムは、自然と闘気が漲るのを感じた。


(あれは、忘れもしない……以前、儂に毒の攻撃を放った男よ……)


 じっと見据えるドリアムの目には、ラーラルが懐から何かを出し、詠唱らしきものをしている様子が映っていた。


(この距離に達する魔法か……飛ばすにしてもそう大きい物は飛ばせまい。恐らくあの懐から出した何か……)


 そしてドリアムは、それは当然、一番先頭を馬に跨って進んでいる自分に向けられるだろうと確信していた。それが分かれば、後はタイミングのみだった。

 ドリアムの斜め後ろを進んでいるガカランとランゾウは、ドリアムの気配が一段と鋭さを増し、究極の集中状態に入っていることを感じていた。

 そして、それは突然、瞬きをする一瞬のうちに、終わっていた——。


「ドリーお見事」

「さすが、ドリー。目で追うだけで精一杯」


 双子がそう言うのを聞いて、ドリアムが嬉しそうな声を上げる。


「おおっ! 二人とも成長しているではないか!」


 周りの兵士には何が起こったのか分からなかった。それは、攻撃を発した側であるラーラルも同じだった。ドリアムの凄まじい剣捌きは、鞘から抜かれて戻るまでが極一瞬で、馬上にありながら体幹が一切ブレないこともあり、ほとんどの兵士には見ることさえも不可能な領域だった。


「くそっ、当たらなかったのか?!」


 焦ったラーラルはその後も同じ攻撃を続け、ついにはドリアムが城の真下にまで来てしまう。その間、バール帝国の兵士たちも攻撃を仕掛けていたが、日ごろからドリアムに鍛えられている精鋭たちは、剣術もさることながら魔法も駆使した魔法剣術を使うため、筋肉のみを正義と掲げて訓練されているダルーガが鍛えた兵士たちには分が悪かった。どんどん脇に切り捨てられていく自軍の兵士たちを見て、ラーラルの顔色が変わっていく。


「まずい、まずいぞ……あいつは、昔見た事がある……確かススリードにいた。恐ろしく勘もいい奴だった。あの時は毒で……そうだ! 毒だ、毒を持って来い! 早くしろ!!」


 部下に毒を持って来させたラーラルは、城壁の上からドリアムを見下ろし、ニヤリと笑った。


(これでは兵士に囲まれて逃げ場もないだろう……ははは……)


 ラーラルは瓶の蓋を開け、その中身をドリアムの頭上へ振りかけようとした——しかし、その中身がドリアムたちに掛かることは無かった。



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