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トア・リア物語~双子の妹は姉を助けるため無自覚に無双する~  作者: 河童紀心
最終章

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第38話 思わぬ伏兵

 

 ケイリュウたちにとってはタイミングが良いことに、城の兵士たちはほとんどが合同軍への対応に当たっていて、子供たちがいる地下の部屋へと続く扉の前には一人しか兵士はいなかった。予定通りケイリュウが兵士の背後から近づき兵士の意識を奪うと、他のメンバーが縛り上げ、扉の中へと担いでいく。透明化しているためお互いの姿は見えないが、自国では護衛任務で共に動くことが多く信頼し合っている仲間のため、見えず会話もなくとも、こまめに肩を叩いて合図を送り、阿吽の呼吸で進めていた。


 子供たちの部屋の扉は鍵が掛かっていたが、持って来ていた斧で扉を破って中に入る。担いできた兵士は部屋の隅に放り投げ、ケイリュウが念のため兵士が腰に差している剣を奪い自らの腰に差しておく。一度、透明化を解くと、途端に子供たちの顔が明るくなった。


「父ちゃん!!」

「お父さん!」


 中から次々に子供たちが喜びの声を上げ飛びついて来るのを、少し緊張を解いて抱きしめるケイリュウたちだったが、時間の猶予はないため、すぐに子供たちに魔道具を持たせると、そのまま担いで急いで通路を戻り始めた。

 しかし、地上の通路へ通じる扉まで来た時、その扉が閉まっていることに気付いたケイリュウが足を止めて、後方にも止まるよう伝達する。念のため扉を押してみたが、開く気配はなく見張りに残した一名からの合図も無かった。困惑するケイリュウの耳に、突然外から耳障りな笑い声が聞こえて来た。


「アハハハハハハ、ネズミが掛かったようだ!! しかし、このネズミたち、実に厄介な魔道具を持っている! 最初は見えないから驚いたが、倒したらコロリと出て来た!! こんな姑息な物を使ってコソコソと! それから……制約が刻まれていたはずだが、偉大なるゴウミ様が与えられた呪詛はどうした!!?」


 その声を聞いていたケイリュウは、扉の外の相手がルカッドであると分かり、嫌な汗が伝ってくる。ルカッドはデイン大陸の者でありながら、呪詛を賛美し異界人に忠誠を誓う非道な男だ。しばらく姿を見ていなかったが、影で暗躍するのが得意なルカッドであれば、天井裏からケイリュウたちが兵士を倒すのを見るのも可能だと思い至る。そして、そのルカッドは今、恐らく透明化の魔道具を手にしているのだろう。しかし、その他の魔道具についての言及はなかったことに気付き、ケイリュウはルカッドの次の言葉を待った。


「おい! 聞いているんだろう、ケイリュウ!! 何か訳を言ったらどうだ? お前たち二人でどうにかできると思ったか??」


(中には俺だけ入ったことになっているのか……そうであれば……)


 ケイリュウはミレイに黙っているように小声で言うと、後ろにいるジキにミレイを預けた。そして、大声を張り上げる。


「くそっ、ルカッドか?! なぜお前がここにいるんだ?!」

「アハハハハハハ、やっと観念したか?! なぜいるかって? 勘だ。大体、愚かな者ほど弱者を守ろうと身の丈に合わない行動を取るだろう?」

「ははは、お前こそ、大方ヘマをして名誉挽回とでも焦っているのだろう?」

「違う! ゴウミ様の御代の為にネズミの駆除をするのだ!」

「そんな所にいて、駆除など出来るわけもないだろう? ああ、そうか、臆病だったな……」

「なんだと……」


 その途端、扉が吹き飛ばされた。中にいたケイリュウたちに扉は勢いよく当たったのだが、守りの魔道具を身に付けているため、何の怪我もなくケイリュウたちはそのことに驚いていた。


 ケイリュウはわざと驚いて痛めたふりをしながら、敢えて扉から遠い位置まで飛び出るとすぐにルカッドの意識を自分に向けるために話しかける。


「ゲホゲホ……一体、何の魔道具を使ったんだ!?」

「ははははは、これは以前ドルク様からいただいた魔道具だ! これも異界の方々の力なのだ! というか、姿を現せ! こいつがどうなってもいいのか?」


 地面に転がる仲間に刃を突き付けられ、ケイリュウが渋々といった様子で魔道具を手放し姿を現すと、ルカッドが満足気にニヤリと笑う。


「ははぁ、そんな所にいたか……子供はどこかへ置いてきたか? それとも助けられなかったか? よし、もうお前は用済みだ!」


 ルカッドが振りかぶった剣で仲間を刺そうとしたが、それより早くケイリュウが走ってきたため、慌ててルカッドはケイリュウへ剣を向けた。


「こいつが死んでもいいのか?!」

「死んだら困るからお前を倒そうと思ったんだが?」

「くそっ、近づくなよ、近づけばこいつをぶっかけてやる……」


 ルカッドは懐から黒い液体の入った小瓶を取り出した。

 ケイリュウにはそれが何かは分からなかったが、碌なものではないと判断し警戒する。ルカッドは、ケイリュウが動きを止めたことで優位に立ったと感じ、小瓶を見せつけるように前へ出し酷薄な笑みを浮かべた。


「ははは、やっとこいつを始末できる。お前はその後だ! ははははは……は?」


 ルカッドには、ケイリュウがブルッと一瞬震えたようにしか見えなかった。しかし——。


「うぎゃぁああっ!! ぐうわぁああああ!」


 ルカッドが小瓶を掲げていた左腕は小瓶ごと床に落ちていた。瓶は丈夫なようで割れてはいない。


「ハッ、ハッ、ハッ……うぐぅ……」


 ルカッドは床に転がっているのが自身の腕という事実に耐えられず、蒼白な顔色になった後、意識を失いドサッと床に転がってしまった。


(ふむ、ドリアム殿の剣技にはまだ及ばないか……)


 先刻ドリアムがケイリュウに向けて放った一閃をケイリュウは倒れる直前までしっかり見ており、それを模倣して放ってみたのだった。ドリアムは実際にはケイリュウを切ったわけではなく、予め用意していた即効性の睡眠薬を混ぜた動物の血液入りの容器を自ら投げて切ったのだが、その無駄のない一閃は、強烈な記憶としてケイリュウの中に残っていた。


 ルカッドが倒れたことで、離れて見ていたジキが近づいて来てミレイをケイリュウに渡し、全員で揃って城の外を目指した。


 その後は透明化しているケイリュウたちを見つけられる者はおらず、ドリアム率いる兵の中まで無事に辿り着くことができたのだった。ガカランとランゾウの案内によって魔法連合へ転移をしたデイン大陸の者たちは、そこへ来てやっと「本当に助かったのだ」と実感し、安堵の涙を流しながら親子で抱き合うのだった。


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