第37話 自分たちの手で
ガイルの言葉に目を見開いたままのケイリュウは、無言で話の先を促す。
「あなた方の国に起きていることは、大まかにですが聞きました。我が国の者たちの非道な振る舞い、誠に申し訳ありません。今回、こちらの世界からの連絡を受けて、私たちの世界と合同で作戦を実行し、害を成している者たちを排除すべく動いています」
「……そんな大規模な作戦が……」
「はい。あなた方には制約が掛けられていたので、事前にお伝えできなかったと聞いています。今回、こちらでその制約の込められた呪詛の文様を消す薬の開発に成功したので、あなたが目覚める前に施術しました」
「もしかして、初めからその予定で……?」
「はい。タイミングは現場に任せることとなっていましたが、計画の内でした」
そこで廊下からやや騒がしい声とともに、三人が部屋へ入って来た。
「ほら、起きておっただろう?!」
「ドリーの声が大きいから起きたんだよ……」
「そう、いつも大きいから」
先頭の赤い髪のドリアムを見て、ケイリュウの表情が変わる。
「あなたは……」
「おおっ、一騎討の相手ドリアムだ! わはははははは、お主相当な腕前よのう! 実に楽しかった。回復したらお互いの得意な得物で手合わせしたいものだ!!」
「ドリー、静かに!」
「うん、暑苦しい……」
大らかで真っすぐな性格が全身から滲み出るドリアムの言葉に、ケイリュウはなぜか涙が流れてきた。
「ああ、是非また手合わせをお願いしたい……救おうとしてくれていた人間に刃を向けるなど……本当に申し訳ないことをした」
「ケイリュウは初めから勝つつもりは無かったのだろう? 短刀で向かって来た時点で分かっていたぞ!」
「ああ、そうだ……しかし、一閃交えた時から、全てを忘れ楽しくなってしまっていた……ドリアム殿の剣はそれほどのものだった……」
「わはははは、お互い楽しかったのなら、それはもう敵味方の戦いではない。まぁ、言ってみれば大人の遊びだな! だから気にする事は何もないのだ! ああ、それから儂のことはドリアムと呼んでくれ」
「分かった、ドリアム。今度こそ良い勝負をしよう」
その後、魔法連合所属の医師たちもケイリュウの状態を確認し、起きても大丈夫だと判断が出ると、ドリアムも交えて作戦を立て始めた。
「バール帝国には、ケイリュウは死んだと伝わっているし首の文様も無いから、透明化して城に入るのがいいだろう。作戦用に配布された魔道具があるしな。ただ、そこまで数はないので、こちらから出せる兵の数も限ってしまうのだが……」
「ドリアム、そこまで甘えるわけにはいかない。城の中はよく分かっているし、大きな戦いをしている皆の手を煩わせたくはない。子供を助けることくらい自分たちでさせてくれ」
「そうか、分かった。ケイリュウたちであればそこいらの兵に負けることはないだろう。文様消しの薬液と透明化、それにトアたちが作製した治癒と守りの魔道具を持っていくといい」
「聞くだけで、相当貴重な品々だ……感謝する」
こうして、ケイリュウは薬や魔道具の使い方の説明を受けると、転移魔法陣で戻って行った。
ドリアムもガカランとランゾウを連れてすぐに前線へと戻って行く。
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ジキたちはひとしきり興奮した後、気持ちを整えると、再び暗い表情を作り帝国兵士に気取られないように静かに城へと戻った。ラーラルに城にいることを悟られると厄介な為、皆でジキの部屋に集まり静かにして過ごしていた。どこで誰が聞いているかもしれない為、極力会話も避け、廊下で足音がすれば全身神経を逆立てている。
そうして、ずいぶん長い時間が経ったと感じた頃、足音もしなかった廊下から突如、部屋の扉をノックする音が響き、皆は動きを止めお互い視線を交わし合った。
「……皆、俺だケイリュウだ……そこにいるか?」
その声を聞くと、ジキがさっと戸を開けた——。
「!!」
開けた戸の向こうに誰もおらず、思わず声を出しそうになったジキだったが、肩にポンと手を置かれ飛び上がる。
「すまん、ジキ。まだ慣れていないんだ……」
そう言う声とともに、机の上に丸い球体がコロリと置かれ、同時にケイリュウが姿を現した。
「ケイリュウ!」
不安げだった皆の顔がパッと明るくなるのを見て、ケイリュウも照れたように笑う。
「皆、心配をかけた」
「ああ、良かった……本当に生きていたんだね……」
「ああ、有難いことにな……色々話したいことがある。お互い情報交換をしよう」
「うん、こちらはあまり情報はないから先に話すよ」
「そうだな。だが、その前に一つやらせて欲しいことがあるんだ」
そう言うと、ケイリュウが首に巻いていた布を外した。
「首の文様が消えてる!?」
ケイリュウは早速、持って来た薬液を出すと、さっと効能だけ説明し、驚く皆の首に塗っていった。効果はすぐに現れ、塗ってからものの数十秒で、皆の文様は跡形もなく消えていった。
制約が消え自由に話せるようになった所で、お互いに起こったことを共有し始めた。一通り話終えると、ジキたちが興奮を落ち着かせようと、ふぅーっと息を吐く。
「トアや各国の皆さんが、まさかそんな計画を立てていたなんて……」
「ああ、俺たちの制約のことを知って、敢えて知らせずにいてくれたらしい。それで、これらが預かって来た魔道具だ」
そう言ってケイリュウは懐から取り出した袋の中から魔道具を机の中に広げる。
「こ、こんなに沢山?!」
普段、魔道具なんか扱うことのないジキたちは目を丸くして驚いている。
「トア始め、合同軍の方々には返せないほどの恩ができた。俺は、子供たちを助けたらあちらの作戦に加わるつもりだ」
「俺も加わる。ルオ様だってその作戦に入っているんだし、そもそも発端は僕たちの国なんだ」
他の面々もケイリュウとジキの言うことに同意して頷いている。
「そうだな。よし、皆でさっさと子供たちを取り返して、あちらの加勢に行こう!」
ケイリュウから説明を受けた皆は、早速、透明化の魔道具を手に、子供たちが閉じ込められている部屋へと出発したのだった。




