第34話 作戦開始
ブラザリア皇国からは、ルーラルが用意した大規模転移装置により、二手に分かれて時間差で転移する運びとなっており、この会議室へはミスラギとカミウ、ガイルが来ることとなっていた。皇国の兵士や魔導士たちは、ルルド王国内のバール帝国に近い位置に後ほど転移してくる手筈となっている。
時間ぴったりにミスラギたちは会議室へ現れた。
「ああ、狂いなく転移できたようだね」
「君の魔道具に狂いがあったことはない」
「まぁ、世に出すまでに、散々失敗もしてるけどね。そうだ、通訳機の魔道具ができたから渡しておくね。なんとか間に合って良かった」
「有難い。これで意思疎通の時間が短縮できる」
ルーラルがミスラギたちに、イヤリングとネックレスが一つになったような形状の通訳機を渡す。ミスラギたちが話す言葉は、耳に装着した部分の魔道具が音を拾い、通訳されて胸元に垂れ下がっている方の魔道具から発信されるということだった。声まで本人のものに似せて発信されるというので、かなり自然な会話に聞こえる。
簡単な挨拶が済みミスラギたちが席に着くと、早速ベージェルが昨夜起きた魔法連合内の事件について話した。
「この段階で隠すことではないので、率直に話しておくのじゃが、昨夜、捕らえていたブラザリア皇国の人間及びススリード王国のカーラ元側妃が姿を消した——」
ベージェルが話す内容に、一同は皆眉間に皺を寄せ深刻な表情で聞き入っていた。
「というわけで、相手は恐らく転移装置を使ったと思われる。それから、ガゴウの怨念はトアとの戦闘後も再び好戦的に動いておると推測される。厄介なのは、ガゴウやアガト、グドルの姿は、トア以外見ることは出来んということじゃ。ここの内部まで入られておると仮定すると、情報も奪われておる可能性がある。それぞれ周囲の者の言動には注意してほしい」
ベージェルの言葉を受け、それぞれが慌ただしく関係者へ警備の強化などの伝達を行った。トアは皆に結界を張り、カミドたちは全員に治癒の魔道具を配る。
まずは牢にいる人たちや人質の救出を最優先で動くということに変わりはなく、以前決めた通りに各自が行動することとなり解散する。トアもさっそく牢へ飛ぼうと思ったのだが、リーニャたちに呼び止められた。
(そういえば、会議の前から何か視線を感じてたんだよね……)
そう思いながらリーニャたちの方へ行くと、ピーコロやミケーまで含めた魔道具作製班の面々が、トーアの周りに集まって来た。真っ先に口を開いたのはやはりリーニャだった。他の面々もリーニャが代表で質問してくれることを願っているような様子にトアは疑問符を浮かべる。
「トア、何かとっても大切なことを忘れてない?」
「えっ、何だろう?」
トアが「ん?」と片眉を上げている横から、おずおずと声がする。
「もしかして……リーニャさん??」
「えっ、はい! リアさんですよね?」
「ええ、そうです!」
「そして、そちらは、もしかして……お母様?」
「まぁ! トアのお友達かしら?」
盛り上がる会話の横で、トアが「あー」と気まずそうにする。
「もう、トア! ちゃんと私とお母さんにお友達を紹介して」
「そうだった、皆にはまだ話してなかった! ごめん……」
そう謝りながらトアは皆に互いの紹介と、家族だったことの経緯などを簡単に説明した。聞き終わるとルミオンが真っ先にぼやく。
「トア、君まで貴族様だったなんて!! あ~、場違い仲間だと思ってたのに!」
「ルミオン、トアを同類にしようとするのがそもそも間違いよ。あなた、そんなに図太かったかしら?」
「リーニャ、君って一番辛辣だよね……」
「ルミオン、それがリーニャ嬢の魅力的な所だろう?」
「ヒッ! マルスミア王子ぃ!」
「あっ、もう、だから袖を掴まないでって言ってるでしょう! 私じゃなくてミードル先輩に引っ付いてて!」
「え、僕、男性はオコトワリ。リアさんなら歓迎だよ」
「あっ、ズルイ! ミードル先輩ぃ!」
「あらあら、うちの娘がモテモテだわ」
「あはははははは!」
皆の様子を見ていたトアが笑い出し、皆の視線を集める。
「皆、作戦前なのに全然いつもと変わらないよね」
「それ、貴女が言う?」
「本当よ、いつもとんでもないことをしれっと報告するトアに言われたくないわよね、リーニャ?」
「ええ、その通りよリア。やっと分かち合える女性のお友達ができて嬉しいわ!」
いつの間にか意気投合したリーニャとリアが間髪入れずに返してくる。トアは今更ながら、なんとなく二人が似ていると感じバツが悪そうにするのだった。
「あー、じゃあ話も済んだし、そろそろ私は牢の作戦に参加してくるねー」
「ちょっと待ってトア、私も一緒にって言ってたでしょ?」
「そうよ、トア。お母さんも一緒に行くわ」
リアとフローリアがすかさずそう言い、トアは二人を収納袋に入れることにした。
「トア、くれぐれも気を付けてね。私たちは後方支援をしているわ」
「うん、ガゴウがくるといけないからリーニャたちも気を付けてね。カミドさん、皆をよろしくお願いします!」
「うん、こちらのことは任せて。くれぐれも無理はしないようにね」
カミドの落ち着きに安心したトアは、牢へと転移したのだった。
地下牢へ転移したトアは、まずミラスの元へ透明化をした上で転移する。ミラスへは事前に牢の鍵を隠すという重要な役目をお願いしていたのだ。
「ミラス……」
「あっ、トア?」
「うん、念のため透明化してるんだ。計画は予定通り開始になったよ。鍵は大丈夫?」
「うん、朝の食事の時にトーマスさんの隣の空き牢の隅に埋めておいたよ」
「ありがとう! ミラスのお父さんとお母さんも来てる?」
「うん、近くまで来て待機してる」
「分かった。じゃあ、まずミラスとご両親に収納袋に入ってもらうね。中にリアもいるから、後から入って来る牢の皆さんのお世話をお願いしてもいい? 食料とか寝具も入れてあるから、自由に使って!」
「分かったよ。ありがとう!」
そう言うと、ミラスから両親の待機場所の詳細を聞き、トアは迅速にまずミラスと両親に袋に入ってもらう。捕らわれている人たちにはすでに周知してあるので、もう皆を収納袋に入れていくだけだった。
しかし、ここで異変が起こる。突然、地下牢の入り口付近に兵が終結し始めた——。




