第31話 憑りつく先は
しばらくして、トアが思いついたように「あっ」と呟く。
「うん? どうしたトア?」
「あのね、フロイス叔父さんも呼ぼうと思って」
「フロイスもいるのかい?」
「うん、今、出すね!」
そう言ってトアが袋に手を入れると、ひょいっとフロイスを出現させた。
「兄上!!」
「フロイス!!」
「ああ、よかった……トアから報告を聞いて無事だとは分かっていたけれど……本当にこんな場所で……」
その先は言葉に詰まり、フロイスの目から涙がこぼれる。
「ありがとう。トアが運んできてくれた手紙でどんなに希望が持てたことか……。フロイスは知ってたのかい? トアとリアのこと」
「いや、ごめん、義姉上に似ているとは思っていたんだけど、まさか本当に二人の子供だとは思いもしなかったんだ」
「いや、それは仕方ないさ、僕だって知らなかったんだ。フローリア、陛下はご存知なんだろうか?」
「いいえ、お父様にもこれからお伝えする所よ」
「じゃあ、どうせなら全員で行く? 隣の隣の牢だし」
「でも、この枷が嵌められたままだからお父さんは無理かもしれないな……」
トーマスがそう言うと、トアが「大丈夫!」と言い、なぜかフロイスもうんうんと頷いている。
「え、大丈夫って、どういう……うわっ!」
トアが枷に触れると、ガコンと音がして枷が二つに割れ、トアが落ちる前に受け止めた。
「ほら、これでもう大丈夫! これまでは万が一見つかるといけないからそのままにしてたけど、これで大丈夫。治癒魔法もかけたから、刺されてた所ももう痛くないと思う」
「……本当だ……痛くない……」
「兄さん、これくらいで驚いていたら心臓が持たないよ……」
そのままなんなく牢の鍵も外したトアは、皆で歩いてウィズダブラの牢まで行った。
牢に行くと、ウィズダブラがニコニコしながらトアたちを出迎えた。
「皆、よく来たな……」
「陛下、長年このような場所への滞在となり、申し訳ありません」
「何を言うか、トーマス。お前の存在はこの牢で支えであった。お互い生きていることを感謝しようではないか」
「はい……」
「お父様、ご無事で……ああ、良かった……」
「ああ、フローリア、長い間心配を掛けたな。それに、フロイスも色々と連絡を取り合い、動いてくれておること有難く思っている。そして……我が孫たち……ああ、本当にそうであったか……」
トーマスの牢から漏れ聞こえる会話で状況を把握したウィズダブラが、感慨深くそう言うと、皆が驚きの表情となる。
「えっ、お父様はもう知ってらしたのですか?」
「ああ、実は皇帝が代々受け継いできた、古の賢者由来の書物があったのだが、トアはそれをすぐに読めてしまったのだ。儂には白紙にしか見えない書物をだ」
「「「「!!」」」」
「ははは、その時に、この子は賢者様の血を継いでるのではと思い至ったのだ」
「そんなことがあったのですか……」
「あっ、そういえば、ルーラルは生きてたんだよ!」
「「「えっ?」」」
突然、トアがそう言うと、事情を知らないウィズダブラ、トーマス。フローリアの三人は驚愕の表情に変わった。
「それらの話をするには、もっと落ち着ける場所が必要ですね。トア、もう皆さんに移っていただくかい?」
「そうだね、じゃあとりあえず魔法学校の叔父さんの部屋にする?」
「うん、そうしよう。寝泊まりもできるからね」
そうして、ウィズダブラの手枷も外し、治癒魔法を掛けると一同は、一度トアの袋へと入って移動することになった。
「なんと……こんなすごい魔法を目の当たりにするとは……」
ウィズダブラの呟きは袋の中に吸い込まれて行くのだった。
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夜更けに、孤児院を特定して辿り着いたガゴウの怨念は、孤児院と教会の周りをぐるっと浮遊して観察していた。
(白いマントの者数名が警戒しているようだな……あの赤い髪の女……確か帝国の魔導士が一度倒している……あの銀髪の小娘ともつながりがあるようだった……)
ガゴウはマゴットが交代で眠りにつくのを待っていた。起きている時より寝ている時の方が、憑りつきやすいことやその方が騒がれにくいということが理由だった。
マゴットが教会の一室で眠りにつくと、ガゴウは憑依しようと近づいた。いざ身体に入り込もうとするが、なぜが上手くいかず跳ね返される感覚がして不思議に思う。
(何かが邪魔をしているような感覚だ……魔道具か? 身体がないというのはこういう時に不便だな……)
ガゴウは教会から孤児院を浮遊して、そこに寝ている子供を見つけると憑依した。
(こんな脆弱な身体だが、まあ調べるくらいならこれで十分だろう……)
子供の身体でマゴットが寝る教会の部屋まで移動してきたガゴウは、マゴットのポケットをそっと触る。その途端、ビリッとした感覚が黒い靄に伝わり焦るが、それに耐えてなんとかその物体を取り出した。
(ぐっ、長くは持っていられない……忌々しい……これはやはり魔道具か……)
マゴットが起きそうになったので、慌ててその小さな箱型の魔道具を棚の下へ置くと、子供の身体から抜け出て、マゴットに憑依した。
(ふふふ、今度は憑依できたぞ……やはりあの魔道具だったか……)
ガゴウが抜け出た後、憑依していた子供は床に崩れ落ちていた。
(ハッ、やはり脆弱な身体だ。しかし、これで騒動になっても面倒だな……)
そう思ったガゴウは、子供を抱えベッドに戻しに行くと、再びマゴットの部屋へと戻って来て、今度はマゴットの記憶を確認し始めたのだった。その結果、ガゴウは驚愕とともに、その記憶に対して不信感を抱き始める。
(この女の思考は理解できぬ所が多い。気持ち悪いほどに『美しい』『尊い』といった言葉が出て来る……あの小娘について誇張され過ぎているようだ……転移についても、そう軽々とあの歳で何度も行うというのは信じがたい……この女があの小娘の容姿に執着していること以外、分からぬ……有益な情報といえば魔法連合についてくらいか……)
翌日、マゴットに憑りついたガゴウは、他の同僚に「魔法連合に少し戻って来る」と言うと、孤児院の警備を離れ、マゴットの知識でなんなく魔法連合の内部に入ることに成功した。
(あの銀髪の娘は、この魔法連合のトップの元を度々訪れるらしい……ここがルーラルが作った組織か……実に忌々しい……)
そうして内部を歩いていると、ふと耳に「異界」という言葉が聞こえてきてガゴウの足取りが止まった。




