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トア・リア物語~双子の妹は姉を助けるため無自覚に無双する~  作者: 河童紀心
最終章

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第29話 皆で避難!

 

 トアの口から語られたリアの境遇を聞いたフローリアは、先ほどとは違う怒りの涙を目に溜めて拳を握りしめていた。


「私の夫や父だけでなく、子供まで……許せないわ!」

「うん、私も同じ気持ちだよ……お母さん」

「トア……」


 『お母さん』と呼ばれたフローリアの目が再び潤む。


「でも、大丈夫、皆と協力して全員助けるから!」

「トア、貴女が皆を助けられるのは分かったわ。でも、私も連れて行ってちょうだい」

「え……」

「私は貴女のお母さんだけど、お母さんらしいこと何もできていない……でも、これから家族揃うっていう時に、一人だけ安全な所にはいられないわ。トーマスの驚く顔も見たいしね!」


 そう言うとフローリアはトアにウインクする。


「お母さんが来てくれるの嬉しいけど……でも、もし誰かがまたお母さんを傷つけそうになったら、私、爆発しちゃうかも……」

「まぁ、トアったら」


 フローリアがトアの頭を撫でるのを見ながら、その凄さを肌で感じて知っているフロイスとハシルは背筋に冷たい物が走るのだった。


(義姉上がいることで、トアの沸点が低くなるんじゃ……義姉上は安全だろうが、下手に刺激した敵は本当に瞬殺されかねない……)


 そう考えたフロイスだったが、「まぁ、その時はベージェル様や王族の皆様にお任せしよう……」と早速、考えを放棄するのだった。

 しばらくすると、トアが思いついたように提案する。


「そうだ! ここは結界の中だけど、ゴウミに見つかったのもあるし、計画より早いけどもう皆、避難することにしよう!」

「えっ、でも結界の外に出たら危ないんじゃない?」


 フロイスが驚いてそう聞くが、トアは大丈夫と首を振る。


「私の収納袋の中に入ってもらえば大丈夫だから! それで、一度じいちゃんの所に行って報告しようと思う」

「ああ、それなら安心だね。ガゴウのことをベージェル様に報告するのがいいだろうね」


 そうして、まずハシルとトマリが屋敷内の人間を集めて説明し、トアが全員を収納袋に入れることとなった。そもそも屋敷に残っているのは昔からの使用人十名ほどだった為、すぐに集めることができた。皆、説明を聞く前から一目見てトアのことを「お嬢様」と呼び、フローリアの娘だと理解しているようで、それを見たフロイスがハシルに呟く。


「皆、瞬時にトアを義姉上の娘だと確信している。私の目は節穴だな……」

「私も、まさかそうであるとは思い至らず……」

「いや、そう疑ったとしても、死産と聞いていたのだから言えるはずもなかっただろう」

「そうですね。しかし、こんなに身近に……世界とは狭いものですね」

「そうだな……」


 フロイスもハシルも、自分たちの救世主がウェスリッド家の出自であったという奇妙な巡りあわせに、夢でも見ているような気持ちになるのだった。


「じゃあまず、フロイス……叔父さんと、ハシルさんに収納袋に入ってもらって、お母さんとトマリさんはその次、最後に皆さんに入ってもらうね!」

「分かったよ、トア、叔父さんガンバルヨ」

「……トア様、中は任せてください」


 なぜか少しぎこちないフロイスを見て、笑いを堪えながらハシルがそう言った。二人も転移で一瞬だけ収納袋を通過することはあるが、意識する暇もないほどの時間のため、今回のように、ちゃんとその空間に入るのは初めてで緊張していたのだが、フローリアたちの手前、何でもないように振舞っている。


 トアがフロイスたちを先に入れると、フローリアが感動した様子で声を上げた。


「本当に、その袋の中に人が入れるのね……すごいわ、ワクワクするわね!」

「そうですね、早くトーマス様にもこの感動を味わっていただきたいです」


 口々に驚きやトアに対する感謝の言葉を述べながら、使用人も全員収納袋に入り終わると、トアはすぐにベージェルの元に転移した。


「じいちゃん……」

「おお、さっきぶりだのぅ…………トア、どうしたんじゃ?」


 トアの表情がこれまでになく緊張しているような、はにかんでいるような不思議な感じがして、ベージェルはそう尋ねた。


「あのね、今日ウェスリッド家に食事を届けに行ったら、ガゴウの怨念と遭遇して……」

「なんじゃと?!」

「あっ、うん、それも大変だったんだけど、でも、そうじゃなくて……」

「トア、ゆっくり落ち着いて話せることを話せばいいんじゃ。楽~にのぅ」

「うん。あのね、フローリアさんがお母さんだったの……私とリアの」

「…………それは……」


 その先は何も言わず、ベージェルはトアの所まで歩いて来ると、ゆっくり両腕でトアを包み込み、トアの背中をポンポンと叩いた。


「それは、びっくりしたのぅ」

「うん、びっくりした。それに、何か恥ずかしかった……優しい人で良かった」

「そうか、そうか……」


 ベージェルの頬を静かに涙が伝う。


「じいちゃん、泣いてるの?」

「うむ。じいちゃんは嬉しいんじゃ……本当に良かった……」

「うん……えへへ、ありがとう、じいちゃん。それでね、ガゴウは追い払ったんだけど、念のために屋敷の人たちは皆、収納袋に入ってもらったんだ。ガゴウはハシルさんに憑依して結界の中に転移したの。靄が大きくて濃いから、浄化に時間かかるし、結界に閉じ込めたけど、あっちも転移みたいなことができるみたいで、逃げられちゃったんだ」

「うむ、それは危ない奴じゃな。トアが靄を見ることができるから助かったが、厄介じゃ」


 ベージェルと話し、ウェスリッド家の使用人たちには魔法連合の宿泊施設に滞在してもらうこととなった。しかし、フローリア、フロイス、ハシル、トマリの四名は事前に話した通り、そのままついて来ることとなった。


 その夜、トアはリアの牢に飛んだ。


 トアが牢に来た時から、何となく雰囲気で「重用なことを話そうとしている」と悟ったリアは、トアが落ち着くように微笑んだ。


「トア、どうしたの? 何でも聞くよ。はぁ、ここにもお茶とかあったらいいのにな……」

「うん、ありがとう、リア。あのね、私がお食事運んでるウェスリッド家ってあるでしょ?」

「うん、バール帝国の公爵家だよね?」

「うん。会ってほしいの」

「え、ここで?」

「この収納袋の中で」

「…………分かった。トアも一緒に?」

「うん、一緒に行く」


 そう言うと、トアはリアの手を握り収納袋に入っていった。



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