第28話 柔らかな温もり
「トア…………えっ、トーマス……」
トアの顔を見たフローリアの目が大きく見開かれ、トーマスの名前が零れる。
「あ、トーマスさんの奥さんですよね!」
トアは「そうだった!」と思い出しながらそう言ったのだが、なぜかフローリアの瞳から大粒の涙が流れてきて、トアは不思議そうにフローリアの顔を見る。
(何か……リアに似てる……)
リアが涙を流していた時を思い出したトアは、フローリアの銀髪に緑色の瞳を見てリアに似ていると思うのだった。そして、フローリアはトアの顔にトーマスの面影を見て、涙が止まらなくなっていた。フローリアの隣に来たトマリもトアを見て驚き、開いた口を手で覆う。
「お、奥様……このお嬢様は……」
不思議そうに見つめるトアの手を優しく取ったフローリアは、震えそうになる声をなんとか絞り出し、トアに優しく尋ねる。
「トア、教えてほしいのだけど…………貴女は双子かしら?」
「え、知ってるの? うん、リアっていうお姉ちゃんがいるよ! あっ、そうかハシルさんかフロイスさんから聞い……」
トアの言葉は、フローリアに抱きしめられ、その肩口に消えていった。まるで宝物でも扱うかのように、優しく大切そうに抱きしめられたトアは、その柔らかな温もりの中、なぜか心がきゅっとなり、涙がどんどん溢れてきた。
「あれ……どうしたんだろう……涙が出る……」
「ああ……こんなことが……トア……私の大切なトアとリアが…………」
その後は言葉なくトアをしばらく全身で抱きしめていたフローリアは、しばらくすると身体を離し、トアの涙を指で拭った。
「見せてちょうだい、貴女の顔を……うふふ、やっぱりトーマスに似ているわ……」
事態を悟ったトマリが、涙でぐしゃぐしゃになった顔で笑う。
「私から見たら、奥様にそっくりですよ……」
トアの顔は今度こそ崩れ始めた。
「もしか……して……お母さん?」
「そうよ! トア!! 可愛いトア!」
「本当に、本当に、お母さん? 私とリアの?」
「うんうん、そうよ……こんなにトーマスにそっくりなのだもの」
「トーマスさんが……お父さん?」
「あらっ、トーマスにもう会ったの?」
「うん……あ、じゃあ、おじいさんは本当のおじいちゃん!?」
「もしかして、お父様のこと?!」
二人は泣いたり笑ったりしながら、トマリも入れて話し始めた。牢にいるトーマスやウィズダブラの様子を知って、二人が再び安堵の涙を流していると、部屋のドアがノックされた。
トマリがドアを開くと、心配そうな顔のフロイスとハシルが立っていた。
「あっ、フロイスさんとハシルさん!」
トアがそう言うと、フローリアが「うふふ」と笑って言う。
「トア、フロイス叔父さんと呼んであげて」
「「えっ!」」
これに驚いたのはフロイスとハシルの方だった。
「義姉上、ご無事でしたか! それにしても、今のは一体……」
そう言いながら、トアを抱きしめるフローリアの姿を見たフロイスは「もしかして……」と声を震わせる。
「ええ、そうなの。この子は私の子よ」
「なんということだ……そんなことが……まさか、本当に……」
「通りで奥さまに似ているわけですね……」
ハシルも目を潤ませてフローリアとトアを見つめている。
「義姉上、トアがいつも物資を運んでくれていた魔法学校の救世主なんです」
「まぁ、トアが!?」
「えへへ、じゃあ、私、お母さんやお父さん、それにおじいちゃんに食料運んでたんだね」
「こんなに可愛いトアが救世主だったなんて……トア、本当にどうも有難う。トアは私に食料と希望を運んでくれていたのよ。お陰で元気になれたわ」
「えへへ、なんかくすぐったい。こちょこちょする!」
嬉しそうに照れるトアを見て、フローリアはついさっき会ったとは思えないほどトアを愛しく感じるのだった。
「義姉上、色々聞きたいことはあると思うのですが、まず先ほどのことをトアに聞いてもいいですか?」
「ええ、もちろんよ。トア、さっきは何かと戦ってくれていたのよね?」
「うん、あれはね、異世界から来たガゴウっていうのの怨念なの」
「異世界の怨念?!」
驚愕の表情となったフローリアとトマリに、トアやフロイスは現在起こっていることなどをかいつまんで話して聞かせた。
「まさか、ご先祖様が生きていらして、しかも異世界人だったなんて!」
「あれっ、ということは、ルーラルは私のご先祖様でもあるの?! あ、私も少しだけ異世界人?!」
「そうね、私もトアもちょっぴり異世界人ということね」
ルーラルが先祖と聞いてまだ実感が湧かずにいるトアに、フロイスが心配そうに聞く。
「ところで、そのガゴウの怨念はどこに行ったんだろう? もう来ないのかな?」
「分からない。一応、屋敷の結界内を浄化魔法で満たしておくね。さっきは転移の直前にハシルさんに憑依して付いて来たから、屋敷の中に入って来たけど、ガゴウだけでは出ることは出来ても入ることはできないから大丈夫だと思う」
「まぁ! トアはそんなにすごい魔法が使えるの?!」
「義姉上、トアはすごいどころじゃないですよ。魔法連合の統括ベージェル様にも大切にされていますから」
「そんなに……どうしましょう、うちの子は世界一可愛いだけじゃなくて、世界一の魔法使いだなんて」
「でも、本当にそうして並ぶと本当にそっくりだ……」
フロイスは感慨深そうにそう言い、皆も頷いている。
「ところで、リアはどこにいるの?」
フローリアは何気なく聞いたが、その答えとそこに至る経緯を聞くと、美しい顔を真っ赤にして怒りを露わにし始めるのだった。




