第26話 暗雲
その後、トアはすぐにベージェルに連絡しに魔法連合へ飛んだ。
「じいちゃん、牢に敵が来て……あれっ、おじちゃん! もう来たの?」
「おお、トアか! 相変わらず飛びまくっているな! ガハハハハ! ああ、準備ができたのでな。兵はもうとっくににルルドまで連れて来ていたし、準備万端だ。儂は最新の情報を得ようと、数人の部下のみでベージェル殿の所に来た所だが、ふふふ、タイミングが良かったようだな!」
「トア、何かあったのじゃな?」
「うん、あのね、カーラとダーガ家が牢に来たの。私とルーラルで手分けして対処して、とりあえず私は男性牢でカーラとダーガ家の二人を捕まえた所」
「なんと! 重要人物たちをもう捕獲したのか?!」
「うん、煩かったし、こっちのこと知られるのも嫌だったから、口にテープ貼って見聞きできないように黒い防音結界張っておいた。あと、私も変装してたから、気づかれてないよ」
「完璧ではないか!」
「ようやったのぅ、トア」
ベージェルがトアの頭をポンポンと優しく撫でると、トアは少し微笑んでから「でも……」と続ける。
「既にひどい目に遭った人達もいるから、もう少し早く到着出来てれば……って思う。牢の人たちや牢屋番のミラスが倒れてるの見た時は、また危なく魔力を出す所だった。でも、皆、あの魔道具を持っていてくれたみたいで、少しずつ回復してた。おじちゃんの提案のお陰だよ、本当に良かった!」
「儂はただ言っただけだぞ、実践したトアやカミドチームのお陰だな!」
「本当に被害が少なくて良かったのぅ」
「うん、多分、ルーラルも大丈夫だと思う。なんかあんまり強くなかったし。それで、捕まえたカーラたちをどこにやったらいいか相談にきたの」
「そうじゃのぅ……異界人のドルクもここに捕えておるから、こちらで預かるかのう。ミスラギ殿たちが来たら、異界人は引き渡せばよいじゃろう」
こうして話がまとまると、トアはさっそくカーラたちを魔法連合内の結界を張った部屋へと移したのだった。カーラたちは目も見えず音も聞こえておらず、移動後の変化といえば床の材質くらいだったが、そんな些細な変化に気付くことはなく、未だ牢の中にいると思っていたのだった。
一方、女性用の牢へと飛んだルーラルもまた自身の周りに張った結界で別人の姿になっており、その姿でナドンたちの前に現われていた。一見、牢の中に座っている大柄な老婆がまさか自分たちの計画の元となった人物であるとは知らずに、ナドンたちは牢に入ると乱暴に老婆を立たせようとした。
(まったく、こんな場所でよく生きているもんだ……しかし最早立てない可能性があるな。ちっ、汚らしい! 触るのも嫌だが、仕方がない引きずるか)
「おい、ミガ、アグーネ、引きずるぞ。そっちを持て」
「はい」
「え、お父様、私こんな臭そうなの持つの嫌ですわ」
「いいから持て、早く終わらせるぞ」
「はい……」
そうして三人はルーラル扮する老婆の腕や足首を掴んだのだが——。
「きゃっ!」
「父上!」
「ぐっ!」
突然、老婆の手枷が動き出し、三人それぞれの腰に巻き付き始めた。枷は予めルーラルが周囲の囚人に付けられているものを集めて来ていたのだった。
驚きながらも、呪術を発動しようとしたナドンだったが、手にも鎖が絡まり、口へ突然水が入り呪術どころではなくなってしまう。ミガやアグーネも同様で、暴れたり何か動こうとするほど鎖の締め付けが強くなり、とうとう倒れてぐったりと動かなくなってしまった。
それを見届けたルーラルは、すっと立ち上がると三人に黒い防音結界を張り、視覚と聴覚を遮っておいた。丁寧に牢に再び鍵を掛けると、トアと同じようにベージェルの元へ転移したのだった。
「あっ、ルーラルも来たね。終わった?」
「うん、終わったよ。三人牢に入れてる」
その後、ナドンたちも魔法連合に転送し終えると、トアは一旦、食事配布のためにハシルの元へ行くことにした。
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宿のいつもの部屋には、ハシルとフロイスが全ての準備を終えて待機していた。
「ハシルさん、フロイスさん、お待たせ!」
「おお、トア!」
「トアさん、お忙しいのに、有難うございます」
「今日はこれだけ?」
「うん。もう作戦が始まるから、今日は食料は最低限で、移動に必要な物資がメインなんだ。それから、今日はハシルと一緒に僕も連れて行ってほしいんだ。手紙は届けていたけれど、いよいよ作戦の直前だから義姉上に直接説明しようと思って」
「うん、分かった。じゃあ、行こうか!」
そうして、トアは二人を連れて転移しよとしたのだが、その直前、トアの周辺視野は一瞬、窓の外が急激に暗くなるのを捕えた。そして、更にその暗闇が窓から入って来たように見えたのだが、ほんの刹那の時間であり、思考を巡らせる暇などなかった。急に空が雲って暗くなったと言われればそうとも思えるような、その一瞬の変化を、しかしトアは思考するのではなく、感覚で感じ取ったのだった——。




