第25話 不思議な子供
カーラたちは再び牢での暴挙を再開し、次の牢へと進む。ミラスが倒れている入り口付近からすでに五人目の牢の辺りだった。ペドラとビドが鍵を探し始め、カーラは囚人の方に目をやったのだが、そこで「あらっ?」と声を上げた。ペドラとビドも声につられて牢を見ると、そこには子供と思われる囚人がいた。不思議なことにその子供は牢の奥でなく真ん中に堂々と座っていて、髪は緑色で瞳の色は金色という珍しい色をしていた。
「あら、お前、囚人にしては身綺麗で少しましな顔をしているわね」
カーラがそう言うが、子供は何も言わない。
「お前、名前は?」
「……」
「答えなさい!」
「……」
「カーラ様、鍵が見つかりました。今開けます」
ビドがそう言って牢の鍵を開けた。
「立ってこっちに来なさい」
カーラがそう言うと、その子供は大人しく近づいて来た。
「ふふふ、誰の子供か分からないけれど、殺すには惜しいわね」
「観賞用にするのもよろしいかと思いましてよ?」
ペドラが目を細めて意地悪く笑う。
「そうね……泣かれたり暴れたりすると困るのよね……少し様子を見て、いらなければ処分するわ。とりあえずこっちに来なさい」
そう言うと、子供は大人しく牢から出て来たのだが、牢の入り口まで来るとじっとカーラを見上げた。そして——。
「やっぱり、魂が醜いから黒くなっているのかな?」
そう突然子供が呟き、カーラたちは何を言ったのかも理解できず、しばし固まる。
「な、なんなのこの子供は?! 何と言ったの?」
「カーラ様、何かおかしいですね、この子供……不気味です。表情も変わりませんし……」
ビドが奇妙なものを見る目つきで子供を見る。
「気持ち悪い! もういいわ、やっぱりすぐに処分しましょう!」
「……あのさ、処分って何?」
「もういい、話しかけるな! 処分とはこういうことだ!」
ビドも懐から呪機を取り出すと、すぐに子供に向けて発動した。
しかし、子供は何も反応しない。
「くそっ、故障か?」
「いいわ、私のでやるから!」
今度はカーラが呪機を子供の額に当てる。不思議なことに、子供は呪機を当てられても微動だにせず金色の瞳を見開き、じっとカーラを見つめ続ける。
「本当に気持ち悪い!!」
——カチッ——
「あれっ! ダメだわ。こっちも故障かしら?! こんな時に!!」
「では、私がやってみま……」
「人を傷つける目的しかないこういう物は、それこそ処分した方がいいんじゃないのかな?」
「な、なにを……えっ……」
いつの間にか子供は額に押し当てられていた呪機の筒の先を握っており、それをまるで柔らかい粘土でも操るように上に曲げてみせた。
「お前、何をした!!?」
ビドが子供に殴りかかり、頬に拳が当たったように見えたが、その途端、なぜかビドが床に倒れこんだ。驚いたペドラとカーラは距離を取るが、しかし、急に息が苦しくなり、二人は両膝を地面に付くと、何もない宙を手で搔きむしってもがく。
「分かる? それが痛みや苦しみだよ……」
「「ん……んん……!! ぐばぁ……げほげほ……ごほっ」」
「貴女たちがやっているのは、そういうこと。皆がどれだけ苦しいか……怖いか、悲しいか、悔しいか……分かる?」
「お、お前、一体……ハァハァ」
「……カーラ様、こいつ危険ですわ……二人で一斉に攻撃を……ぐわっ!」
ペドラが言い終える前にまるで何かに押しつぶされたかのように地面にべしゃりと倒れた。頭を地面から上げようとしたペドラだったが、上からの強烈な圧力に今や目だけを見開き、ミシミシいう全身の痛みで気を失いそうになるのを耐えることに精一杯だった。何が起こっているか分からないカーラは、倒れて動かないビドとペドラに驚く。
(一体、先ほどから何が起こっているの!? 全部この子供のせいだとでもいうのかしら? バカバカしい! でも、もしそうだとすると……あっちの牢に行った者たちが戻ってくるまで待つのがいいわね……)
そう考えたカーラは、とりあえず目の前の子供に話しかけて時間を稼ぐことにした。
「お前、親はどこにいるの? 牢にいるなら……」
「いない」
「そう。じゃあ、友達はいるかしら?」
「いる」
「どこにいるの?」
「教えない」
カーラは「生意気な」と心の中で舌打ちをする。
「あまり時間を掛けたくないから、この牢に入ってくれる?」
「えっ?」
「この牢に入って」
「は? 何を言ってるの? ふざけるな!!」
「ふざけてない。もう、いいよ、こっちでやるから」
「え、うわっ、何を……イタッ! うぐっ……」
子供はいつの間にかカーラの背後に回っており、手首にチクッとした痛みが走った後、重みを感じる。両腕に重みが加わり、驚いたカーラが手首を見るといつの間にか枷が嵌められていた。
「何をしてるの?! 外しなさい! 外せ!! うわっ!? 痛っ!」
カーラは見えない圧力によって、無理やり牢の中に押し倒された。その後、ペドラとビドにも枷が嵌められ同様に牢に放り込まれる。
「お互いが触れない距離につながせてもらうね」
そう言った子供が牢の鉄格子に手を触れると、鉄格子から三本の鉄がまるで触手のように伸びて三人の足首に絡まる。鉄の棒は足首で一周すると、そのまま地面の奥へと刺さって止まった。
「地中で固定したし、これでいいかな。あと、煩くしてほしくないからテープを貼っておこう」
いつの間にか自身の隣に子供がいてカーラは「ひっ!」と声を上げる。子供はどこから出したのか、手にテープを持っており、ピッとちぎっては三人の口に貼っていった。
「とりあえず、これでいいかな。ああ、あとあれも張っておこう」
トアはルーラルから教えてもらい防音結界を作れるようになっており、更に応用してその結界を黒く塗りつぶし視界も遮ったものを、三人にそれぞれに張ると満足そうに頷く。
「これで、周りが見えないし、音も聞こえないし完璧! この人達をどうするかは、じいちゃんたちに任せよう!」
そう言うと変身していた自身の結界を解き、本来の姿のトアが現われる。
トアは、ここに来た時に軽く治癒魔法を掛けておいたミラスたちの所へ行き、呪機で打たれた一人一人の症状を見て回った。
「ああ、やっぱりトアだったんだね!! 姿は違うけれど、なんとなく雰囲気でそうじゃないかって思ってたんだ! 本当にありがとう! 僕、もうダメかと思ったんだけど、この魔道具に救われた……トアは本当に救世主だよ……」
ミラスは涙を流してトアに感謝を伝えるのだった。




