第23話 牢へ
一方、その頃、トアは忙しい合間を縫って、魔道具作製の大詰めを迎えているカミドの店へ来ていた。
「あ、ルミオン、ごめんね、ここのところ色々あって……」
「あっ、リーニャ~大変だよ! トアが色々大変だったって言ってる!」
「えっ、今行くわ!!」
奥の部屋から慌てて来たリーニャは、トアの顔を見ると「こっちに来なさい!」と言ってトアの手を掴んでグングンと奥の部屋へ戻って行く。
「ほら、ルミオンも来て、カミドさんも座って! 皆で、トアの話を聞くわよ! あ、ミードル先輩は適当に聞いといて!」
「リーニャ先輩、ひどい……」
「えっ、リーニャいつの間にミードル先輩の先輩になったの?」
「もうっ、いいのこの人のことは。それで、何があったの?」
聞く前から眉根を寄せている四人に、トアは最近あったケイリュウの子供ミレイたちの出来事を話して聞かせた。
「信じられない! なんて下衆野郎なの! あっ、失礼!! でも、許せないわ!」
リーニャがそう言うと、皆、口々にカーラやガゴウを非難し始めた。
「でも、トアここに来てて大丈夫?」
ルミオンが心配そうにトアに聞く。
「うん、今はルーラルが見張っててくれてるし、それにここに来ることも伝えてるから、何かあったら知らせにくると思うん……」
トアがそこで止まったのは、店の入り口にルーラルの魔力を感じ取ったからだった。
「どうしたの、トア?」
不思議そうに聞くリーニャに、「ルーラルが来てる!」と告げると皆、驚きの表情になる。
「ルーラル、こっち!」
「ああ、トア、良かった! 皆さん、こんにちは。邪魔してごめん!」
「子供たちに何かあった?」
「ううん、子供たちは無事なんだけど、ダルーガの所に多分、ダーガ家が来た。それで、ダーガ家はカーラと一緒に地下牢に向かってる。ダルーガは寝室で寝てるんだけど、多分ガゴウ兄さんが憑依してたんだと思う。ただ、僕には見えないから、今どこにいるのかは分からない」
「そうなんだ……とりあえず地下牢に行ったほうがいいかな……」
トアはガゴウの行方が気になったものの、そっちの特定はすぐにはできないと諦めて地下牢に向かうことにした。
「ごめんね、皆、また地下牢に戻ってくる。薬草は足りてる?」
「うん、大丈夫。ルルド王国の森からギンが採って来てくれてるし、治癒魔法はルーラルが魔道具をブラザリア皇国に運んでくれて、あっちでセド家の皆さんが込めてくれてるから!」
「ああ、良かったぁ~すごいよ、皆の連携!」
「そうよ、だから安心して!」
「うん、トアは安心して牢に戻って!」
「ルミオン……それあんまり嬉しくないかも……」
「えっ!」
久々に皆の顔を見て安心したトアは、ルーラルと共にバール帝国の地下牢へと戻って行った。
**
カーラを先頭にダーガ家の者たちが地下牢にやってくると、予めガゴウが操るダルーガからの指示を得ていた所長は、すぐに一行を地下牢の入り口へと案内した。
「こちらが男性の牢屋で、あちらの入り口が女性の牢屋に繋がっています」
「確認だが、ここに入っている者はほぼ全員、前皇帝ウィズダブラ派の者たちで間違いないな?」
「はい。数名を除いてほぼ全員がそうです」
所長の返答に、ダーガ家当主のナドンは満足そうに頷く。
「元貴族ということですけれど、こんなに落ちぶれてはもう貴族とは呼べないわね。ダルーガ様の決定はやはり英断ですわ」
カーラは自分が以前牢に入っていたことは棚に上げ、そう話す。
「ここの囚人はこれからほとんどいなくなるから、あなたたちの仕事も明日から楽になるわね。今日は見せしめに子供たちを躾けるつもりだったのに、途中で体調が悪くなってしまったから、気分がスッキリしていなかったのよ。だから、ちょうど良かったわ。多分、ダルーガ様も気を使ってくださったのね」
自身が倒れてからのことは知らないカーラは、そう勝手に都合よく解釈するのだった。
「そうそう、何かここには囚人と仲良くする珍妙な牢屋番がいるのよね? ダルーガ様がそいつに囚人の牢の鍵を開ける栄誉をやれとおっしゃっていたわ」
カーラがそう言うと、意図を理解した所長がすぐにミラスを連れて来た。
「ミラス、重要な仕事だ。お前にこの鍵束を預ける。首に模様のある者と青い目の男児を除いて、全ての牢を開けろ」
「えっ、どうしてですか?」
「理由など、お前は知らなくていいのだ! とにかくやれ!」
「…………はい」
そうして、ミラスは思い足取りで、地下牢へと歩き出した。
(このカーラって女性は、今日ダルーガと一緒に来て子供たちに危害を加えようとしていた……悪い予感しかしない……トアが居てくれたらって思うけれど、いつもトアを頼ってばかりでどうするんだ! 僕だって何かしないと、ここの牢屋番なんだから)
ミラスは恐ろしいことが起こりそうな未来を感じて竦みそうになる足に渇を入れると、覚悟をもって一歩一歩進むのだった。
ミラスが敢えて時間稼ぎのために奥の牢から案内することを考え、一つ目の牢の前を通り過ぎようとした時、カーラの癇に障る高い声がミラスを引き止めた。




