第21話 余興
夜中はトアとルーラルで交互に睡眠をとりつつ、遠視で子供たちの様子を確認して朝まで過ごした。時々カーラの方も確認はしたが、特に動く気配はなかった。
日光浴の時間の少し前になると、予想した通りミレイたち三人は城の兵士に牢の区域まで連れて来られた。不安そうにしていたものの、日光浴のために外に出て来た囚人の中に、トアを見つけると顔が明るくなるのが分かり、トアも笑ってみせる。ルーラルも不測の事態に備えて透明化して子供たちの側についていた。
しばらくすると、職員が出入りする扉の辺りが騒がしくなり、思った通りダルーガとカーラが現われ、トアもリアも目つきが鋭くなる。
(ふぅ、落ち着かなくちゃ。ここにはまだ大勢いるし、この人たちを避難させるまで悟られちゃいけない……それにしても、ダルーガは相変わらず黒い靄に包まれてて顔も見えない……)
トアがそう思い怪訝な顔をしていると、リアが隣でこそこそと耳打ちをしてきた。
「ねえ、トア。私たちもだけど、ミラスのあの顔マズイよね……あんな顔してたら、真っ先にミラスが罰せられちゃうよ……」
トアが見ると、ちょうどダルーガが歩いて来る通り道で凄まじい形相でダルーガを睨みつけているミラスの横顔が見えた。
ヒヤッとしたトアとリアだったが、ダルーガは隣のカーラに向かって話しかけていてミラスの表情には気付いていなかった。
(ミラスと家族も一刻も早く移動させたいなぁ……)
トアがそんなことを思っていると、ダルーガとカーラはトアとリアの前まで来た。そして、ダルーガが牢屋番に向かって叫ぶ。
「おい、この二人を前に引っ張って来い。それから、あっちの男五人をフェンスの前まで連れて来い」
トアが、男性の囚人たちの方を見ると、境のフェンスの前にウェイズダブラとルオ、それからケイリュウとあと二人首に模様を入れられているデイン大陸の民らしき男性が立たされるのが見えた。
(あ、ケイリュウさんも囚人エリアに入れられてる! 子供たちが叫んでるから、あの男の人たち二人も家族なんだ……一体、何をするんだろう……)
そう思っていると、兵士が呪機を子供たちに渡すのが見えた。カーラはトアたちの方を見てニヤニヤと意地悪く酷薄な笑みを向けて来る。その顔を見ると爆発しそうになり、トアもリアも敢えてカーラの方を見ないようにしていた。
「ははははははは、囚人たちよ、よく聞け。お前たちの暇な日常にちょっとした余興を与えてやることにした。この遊戯を見て楽しむがよい」
ダルーガがそう言うと、兵士が子供たちに呪機の使い方を説明している。そして、その説明を聞いた子供たちが動揺し、明らかに怯えるのが分かった。ミレイも呪機を持つ手が震えており、必死な視線をトアに向けて来る。
(あれって、前にゴウミがやってたのと同じやつだ……小さい子にまであんな事をさせようとするなんて……本当に腹が立つ! でも、どうしたらいいかな、救出作戦の前に私が目立つと良くないだろうし……危なくなったら仕方ないかな……)
トアがそう考えた時、突然ミレイがはっとしたようにトアとは反対の方を向き、他の子供二人も同じ方向を向いた。そして一瞬だったが、子供たちが頷いたように見えた。そして、次の瞬間、子供たちが手にしていた呪機が忽然と消えた——。トアやリアに動揺はないが、それに気付いたダルーガが大声を上げる。
「おいっ、そこの兵士! 何をしている!? 呪機をどこへやった??!」
「いえ、私は持っていません! 消えました!」
「そんなバカなことがあるか……魔道具か何かを使ったのか?!」
聞かれた兵士はブルブルと震えながら首を横に振っている。
「……ダルーガ様、では、私がじきじきに魔法を当ててもよろしいかしら? 小さな的に当てたことがないので、練習に丁度いいかと……」
「まあ、いいだろう。おい、あの兵士を投獄して尋問しておけ!」
ダルーガは「あの兵士にからくりを吐かせてやる……」と言いながら、カーラと共に子供たちに近づいて行く。それを見たケイリュウたちは、フェンスを叩いてやめろと叫んでいる。
「トア、子供たちには結界を張ってるんだよね?」
「うん、大丈夫。でも、色々警戒されても厄介だよね……」
トアがどうしようか迷っていると、突然、ダルーガとカーラが、地面に膝をつき苦しみだすのが見えた。
「あれっ? あ、ルーラルかな?……何の魔法だろう……」
遠目には何の魔法なのか分からず、トアが興味を持ちじっと観察していると、突然ダルーガの身体がガクンと地面に倒れ、同時に黒い人型靄が空中に躍り出るのが見えた。
「あっ! あの黒い大きな人型靄だ!」
「えっ、靄?」
「うん、ダルーガの身体から人型靄が出たの。多分、前におじいさんの牢に現われた奴だ。ルーラルがガゴウっていう昔の皇子の可能性があるって言ってた。あれが憑りついてたから、ダルーガが真っ黒に見えてたんだ」
「トア、靄が見えていること、気づかれないようにね!」
トアは頷くと、人型靄に悟られないように観察する。そうとは気付いていない人型靄のガゴウは、驚きながらも悔しがっているようだった。
(何が起きたのだ……急に何かを吸い込んで息ができなくなった……ここにいる誰かが何かをやったのか……くそ……グワァアアアアア!)
ゴウミが声にならない雄叫びを上げると、地上には轟音が轟いた。
(うわ、あれは何かまずい……どうしたらいいのかな。とりあえずは皆に相談かな……)
皆が動揺する中で、トアは一人冷静に考えを巡らせるのだった。




