第20話 不気味な夜
「えっ、えっ、えっ……」
「しーっ! リア、静かにしてね! そう、助っ人の賢者ことルーラルさんですーパチパチパチパチ!」
「うそ、お連れしてしまったの?? って、トアの方が大声出してるじゃない! あっ、失礼しました!! 私、トアの姉のリアと申します。いつも妹がお世話になっております」
「うわぁ、トアと歳は同じだよね? ほんと随分お姉さんだ。それにしても……ちょっと近づいていいかな……ああ、君は……」
「えっ、私、何か変ですか? トア、私、変??」
「うん、何か変」
「えっ!」
「うそうそ、あはははは! びっくりしすぎだよ!」
「もうっ!」
ルーラルは、一瞬、リアの髪や瞳の色がリテーラにそっくりで驚いたが、二人が騒ぐ様子を見て微笑ましい気持ちになる。
(リテーラが子供の頃はこんな風だったんだろうか……)
少し前までは、リテーラのことを思い出すと寂しい気持ちに襲われていたルーラルだが、最近はその感覚が和らいでいて、穏やかな気持ちで思い出に浸ることができるようになっていた。
「リア、トアと同じように僕のことはルーラルと呼んで普通に話してくれると嬉しいな」
「はい……あ、うん、わ、分かった!」
「ふふ、それで、早速なんだけど、子供たち三人の様子と怪しいカーラの様子を観察したいってことだよね?」
「うん」
「じゃあ、僕はカーラの様子を観察するよ。何か怪しいことがあったら言うから」
「うん、ありがとう!」
「じゃあ、私はもしも牢屋番の見回りが来たら二人に知らせるね」
「「よろしく!」」
そうして二人は、そのままリアの牢でそれぞれの対象を観察し始めた。
しばらく経ち、もう皆は寝静まっているだろうという時間になり、ルーラルが呟く。
「カーラの部屋に誰か来た……ダルーガだ……」
ルーラルはこれまでも遠視で帝国の重要人物は見たことがあり、月明りではあるもののそれがダルーガだと分かった。
「二人でどこかに行くみたいだ……」
ルーラルが観察していると、二人は長い廊下を歩いて行く。そして、そのまま城の東の方へ移動すると、とある部屋の前で止まった。ダルーガが鍵を取り出し、ガチャリとドアを開ける。
「「あっ」」
トアとルーラルの声がそこで重なった。ダルーガたちが訪れた部屋は、トアが観察している三人の子供たちのいる部屋だった。
トアがリアにも説明すると、途端に心配そうな顔になる。
「トア、ルーラル、もし子供たちが危なくなったら……」
「「うん、分かってる」」
二人が遠視で見る気配が一気にピリピリした緊張感を纏う。
「子供たちは気付いてないよ、眠ってる」
トアはリアのためにたまに状況を説明することにした。
「不気味だね、こんな夜中に……」
「うん……それにやっぱり二人の身体から靄が見える。ダルーガは黒すぎて派手な服着てなかったら分からないくらい……あっ、一人起きた! ケイリュウさんの子供だ!」
ケイリュウの子供ミレイは部屋に人の気配がして目を開けたが、大人がいることに気付くとビクッと身体を震わせた。
「うふふ、良い表情をしますわね子供は……あの牢の双子と違って素直で可愛がり甲斐がありそうですわ」
「もっと小さいうちから躾ける方が、色々と操りやすい人間になる」
「そうですのね。今度ご教示くださいませ」
「ああ……」
「それで、この子供たちを今回の見せしめに使うのですね?」
「そうだ。友好国のデイン大陸国で由々しき事態が起こったのだ。デインの者たちへの良い見せしめになろう。明日は牢の日光浴の日だ。ちょうど良いではないか……」
そう言うと、子供の様子を見て満足した二人は部屋を出て行った。
とりあえず脅威が去ったことを確認したトアは、リアとルーラルに言う。
「遠視じゃ会話の内容が分からなかったし、私、ちょっとあの部屋に行ってこようかな」
「そうだね、トアなら子供だし、あの子も少し安心するんじゃないかな。僕は引き続きカーラを見てるよ」
「うん、お願い」
「トア、気を付けてね!」
「うん」
そうして、トアはすぐにミレイたちのいる部屋へと飛んだ。ミレイたちの場所から敢えて離れた部屋の隅に飛んだトアは、小声でミレイに向かって話しかける。
「こんにちは」
「……え、誰?」
「私は、お父さんの友達だよ」
「お父さんの?!」
「うん。そっちに行ってもいい?」
「うん」
そうして、そっと歩いて近づくと、窓からの月明りでトアの顔を見たミレイが「あっ」と小さな驚きの声を上げる。
「すごい……オドアイ様が来てくれたんだ……」
「あ……うん、私は実はオドアイ様のお友達なんだよ」
「そうなの?」
「うん。お父さんに頼まれて皆を見守ってるの。名前を教えてくれる?」
「うん、ミレイ」
「ミレイちゃん、お父さんもすごく心配してたよ」
「お父さんは大丈夫?」
「うん、大丈夫だから安心して。それでね、もしかしたらさっき来た人たちが何かひどいことをしようとするかもしれないけれど、私はすぐ近くで見守ってるから、何があっても慌てないで。ミレイちゃんもお父さんも助けるから。でも、このことは秘密だよ」
「うん、ミレイ知ってるよ。お父さんも言うこと聞くように首に模様入れられたの。だから、大切なことはお父さんにも話しちゃいけないって」
「うん」
(すごい、小さいのに賢い……)
トアは自分より幼いミレイが、しっかり状況を分かっていることに感心していた。その後、トアはミレイから、ダルーガとカーラの会話の内容を聞き、子供たちに結界をかけると、牢へと戻った。すぐに、ルーラルとリアともその内容を共有する。
「日光浴……うん、確かに明日は日光浴の日だね。デイン大陸国の人への見せしめってことは、ルオやケイリュウさんたちも関係するようなことかな……」
リアが不安そうに呟くとルーラルも頷く。
「そうだね。考えたくもないけれど、あの子供たちに何かをして、それを見世物にするということだろうね……どこまで卑劣なんだ……」
「一応、結界張ってるから大丈夫だと思うけど、それを阻止できても、次に何をするか分からないよね」
「うん、救出作戦はもうじきだし、それまで大事にはせず何とか対処するしかないな……」
こうして、不気味な夜は更けていくのだった。




