第19話 胸騒ぎ
念のため、一晩中カーラの見張りをしようかと思っていたトアの牢に、その晩やってきたのはケイリュウだった。制約の文様を入れられているケイリュウには、救出作戦のことも話せておらず、最近は話す機会もなかったのでトアは驚いていた。
「ケイリュウさん、どうしたの? こんな所に来て、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。トア……こんなことを頼むのは、本当に礼を失していることは承知している。だが、どうも胸騒ぎがしてどうしようもないのだ。気が付いたら、トアがいる場所に足が向かっていた……すまない」
「全然、私は大丈夫だよ。制約に引っ掛からない範囲で教えて。何か気になっているんでしょう?」
「ああ、もし気のせいだったら良いのだが、その……家族に今日会えていないのだ……」
「家族に今日会えていない……」
トアはケイリュウが伝えようとしていることをしばらく考えていた。
(今日ってことは、いつもは会えているってことだよね。でも、ここはデイン大陸じゃないから、その家族って多分、人質に取られている子供だ……確か人質の子供には毎日会ってたから、昨日まで会えていて今日会えていないから何かあったんじゃないかって心配しているってことかな……)
そう考えたトアは、ケイリュウの制約に引っ掛からない方法で聞き出そうと模索する。
「ええっと、ケイリュウさんの家族全員について知りたいな……全員の特徴を教えてくれる?」
トアの真意をくみ取ったケイリュウは、デイン大陸にいる家族も含め全員の特徴を話し始めた。
「名前は言えないが、一人は平均より背の高い大人の女性でもう一人は俺と同じような体系の男性で、あと年寄りが二名、それから……トアより小さい女児がいる。周りからは俺に似ているとよく言われていて、眉が太く目も大きい。額にホクロがあるんだ……」
「そうなんだね、あ、少し待ってね……」
そう言うと、トアは早速遠視を発動して、子供たちが捕らわれている地下室を見てみた。
(確か、最初はルオを含めて全員で十名いたはず……あれ、三人いない。ケイリュウさんの子供は女の子で……額にホクロのある子は…………いない……)
念入りに確認したが、確認できなかったトアは、ケイリュウに何と言おうか一瞬躊躇した。しかし、すぐにケイリュウの顔を見て首を振る。
「そうか……やはり……」
「でも、探してみるから……」
そう言いながらも、広い城内のどこから探すべきかを迷っていたトアは、あることを思いついて声を上げる。
「あっ、そうだ!」
トアは、もしかしたら有効かもしれないと、収納空間からある魔道具を取り出した。それは例の血液を垂らすと、血族の位置が地図上に現れる魔道具だった。
「ケイリュウさん、もしかしたらこの魔道具で探せるかもしれない。ここに一滴血が必要なんだけど、いい?」
「もちろんだ」
ケイリュウはすぐに魔道具に付属している針で指先を突いて血を垂らす。
「もう、治っている……」
すぐに治癒魔法が発動して指先の小さな傷が塞がっていることにケイリュウは驚愕していた。
「うん、怪我は嫌だからね……少し待ってね、あ、ほら出て来た」
地図上のバール帝国の城に印が二つ出た。地図上ではほとんど重なって見えるものの、ほんの僅かのズレから、トアはそれがケイリュウの子供の居場所だと推測した。
「これがケイリュウさんだと思うから、多分もう一人は城の東端の方かな」
そして、東の方から重点的に探し始めたトアの横顔を、ケイリュウも拳を握りしめ祈りながら見つめ続ける。少ししてトアが声を上げた。
「あっ、見つけた!」
「ほ、本当か? 無事だろうか?!」
「うん、大丈夫。三人いるよ! 皆、眠っているみたい。ケイリュウさんはあんまり抜けてると危ないから、帰って普通にしてて。私、見張っておくから」
「トア、いいのか……」
「うん、大丈夫!」
「すまない……ありがとう……本当にありがとう……」
潤んだ瞳に力を込めてそう言うと、ケイリュウは鉄格子から手を差し入れ、トアの手をぎゅっと握り締めた。
ケイリュウが去って行くと、隣のリアが「トア、こっちに来て」と言う。
「リア、聞こえてた?」
「うん。何となく聞いてた。あれがケイリュウさんね」
「うん……」
「こら、トア。どうせ、『カーラの見張りもあるし、どうしようかな』とか考えてるんでしょ?」
「えっ、分かった?!」
「分かるよ! 一人でやろうとしないで、そういうのは協力してもらうべきだよ。どちらも重要だと思うから」
「そうだよね……うん、分かった! ちょっと行ってくる!」
「あっ、ちょっと…………あーあ、行っちゃった……」
リアはトアが消えた空間に向かって「ふぅ」と息を吐く。
(もう、思いついたらすぐに行動するんだから。誰に手伝ってもらうのか言ってくれてもいいよね。それに、「気を付けてね」ってまた言えなかったじゃない……)
しかし、ほどなくしてトアはまたすぐに戻って来た。
「あれっ、トア、どうしたの? ずいぶん早いね……」
トアのすぐ後ろから現れた背の高いトアに似て両目の色の違う男性を見て、リアは危うく絶叫するところだった——。




