第17話 作戦への心意気
その後、各世界におけるダーガ家の情報が共有され、その悍ましい歴史を聞いたベージェルたちは驚愕に目を見開いていた。
「なんと惨たらしい……」
ルルド国王ミカルダスの口から思わずそう言葉が出る。リーニャやルミオン、ミードルなどは驚きを通り越し、蒼白な顔になっていた。
「ぼ、僕、そんなのと戦えるかな……」
「私たちがそんなのと戦えるわけないじゃない」
ルミオンとリーニャの会話を聞いたベージェルが頷く。
「魔法学校の生徒たちを危険な目に遭わせることはないでのぅ……」
と言ったベージェルは、困った顔で隣に座っているトアを見る。
「じいちゃん、私はやるよ!」
「分かっておる。じゃから心配しておるのじゃ」
ルーラルの同時通訳を聞いていたミスラギが、そこではっ思い出し口を挟む。
「そういえば、トアがゴウミを倒したとは聞いていたのですが、具体的にはどうやったのでしょう? もしこちらでもできるような方法であれば試したいなと思うのですが……」
ミスラギの言葉を通訳していたルーラルが「あー、そう言えば話すって言ってたね……」と言いながら、その時の様子をミスラギたちに語り始めたのだが、それを聞いているミスラギ、カミウ、チェーリエ、ガイルの顔がどんどん驚きの表情になっていった。
「まさか! 魔力圧の勢いでゴウミを飛ばして瀕死にしたと??! ふっ……あははははは、なんという規格外な魔力量なんだ!」
ミスラギの興奮具合に興味を持ったススリード王国の王弟ドリアムが、ルーラルに話の詳細を自分も知りたいと言ったことで、ルーラルは再び言語を変えて説明を始めたのだが——。
「ぶはははははは! まさか魔力圧が攻撃手段になるとはな! いや、実に面白い!」
「叔父上、そんなこと言って、また実践しようとしないでくださいよ? 先日も手枷をフンフンやって奇妙な目で見られていたんですから……結局、叔父上は魔力でなくて筋力で引きちぎっていましたよね……」
「ははは、仕方なかろう? まぁ、同じような結果となったのだ、それもまた良いではないか!」
「すごいね、おじちゃん! 筋肉で枷をちぎったんだ! 私もやってみたいなぁ」
「トアはそんなことしなくていいの!」
「リーニャはいつも女の子っぽいこと言うよね」
「トアも女の子だけど……」
リーニャがそう言うと、何名かが残念そうにトアを見た。
「そうか、しかし本当にトアは規格外なんだね。そんな所もルーラルに似ているよ。この二人の真似はできないから、僕たちは魔道具や機械、それに治癒魔法などそちらに無いもので協力できそうな事をしようと思います」
ミスラギの言葉を聞いたベージェルが頷く。
「それでは、魔道具についてはカミド殿たちの班と話してもらい、治癒魔法については騎士や兵士をまとめているドリアム殿たちと話してもらうのが良いじゃろう」
「大きな転移装置が必要だと思うから、それは僕が作製してみるね」
「ルーラル、魔力が足りなかったら私も注ぐから言ってね!」
「ありがとう、トア!」
「トア、あの治癒の魔道具を牢にいる者たちに前もって渡せるか? あれには、儂も命を助けられたのだ」
「うん、できるよ、おじちゃん! 少し強めのを配布しておくね」
「そうか! あれがれば百人力だ、頼んだ! わはははははは!」
その後、各班で話を詰めていき、最後に大規模転移の日や、バール帝国の地下牢からの救出作戦の日取りを決めて、会はお開きとなった。班毎に更に細々した調整が必要だが、その際はルーラルやトアが転移を請け負うこととなっている。
帰りもカミウの屋敷から、メンバーをそれぞれの場所に順次送り届けていく。フロイスやハシルの番になると、ベージェルが近づいてきた。
「フロイス殿、決行の日取りも決まったのでの、ウィズダブラ殿やトーマス殿へも知らせた方が良いじゃろう」
「はい、トアに手紙を渡してもらおうと思います」
「うん! あ、じいちゃん、じゃあ、リアやルオにも伝えるね。それから、牢屋番のミラスの協力も必要だね! ケイリュウさんたちには伝えられないけれど、どうしようもないよね……」
「そうじゃのぅ、事前に知らせると制約のリスクがあるからのぅ。まずは人質にされておる子供たちの救出を優先し、その後呪詛について解明できれば、首の模様を消す方法の詳細も分かるじゃろう。ダーガ家で見つかった資料にもあるかもしれんからのぅ」
「うん、分かった!」
そうして、その日の晩にはトアはフロイスからの手紙を牢へと届けたのだった。前皇帝ウィズダブラもフロイスも、以前と違い最近は顔に生気が満ちており、日光浴の時間も無駄にしないよう体力強化に励んでいるせいか、手紙を読むと準備万端とばかりに引き締まった顔でトアに頷いて見せたのだった。
ミラスについては意気込みが凄すぎて、トアが心配して止めたほどだった。
「もう本当に僕は、この不条理に毎日イライラしていたんだ! 攪乱でもなんでもするよ!」
「ま、待ってミラス! ミラスに何かあったらいけないから、ミラスには最後までいつもと変わらない調子でいてほしいの。最後にはミラスも家族も移動してもらおうと思ってるけど、いい?」
「うん、もうとっくに父ちゃんと母ちゃんには、いつかその時が来るって言ってるし、二人とも覚悟はできているよ。前のウィズダブラ皇帝の統治が素晴らしかったって、いつも言ってたしね。だから大丈夫! 僕や家族のことまで考えてくれて、本当に有難う!!」
「あっ、そうだ大切なことをミラスに頼みたいんだ」
「うん、何?」
「この袋に、透明化した魔道具の箱が入ってるんだけど、牢にいる人たちに食事配布の時にでも配っておいて欲しいんだ。怪我とかを治す魔道具だから、身に付けておくように伝えてくれる? あと、ミラスと家族にも持っていてほしい」
「そんなにすごい物、いいの? 僕、魔道具なんて触れたこともないよ!!」
「あはは、大丈夫だよ、沢山あるから! ちょっと重いから、どこかに運んで袋にも透明化を掛けておこうかな……どこがいい?」
「じゃあ、ほとんど人が来ない最下層のウィズダブラ皇帝とトーマス様の間の空いてる牢がいい!」
「分かった、部屋の奥に置いておくね」
「うん」
こうして少し強めに治癒魔法を込めた魔道具の配布をお願いしたトアは、安心してミラスの元を去って行った。




