第16話 異界訪問
「ふぅ」と息を吐き、一度自分自身を落ち着けると、ミスラギは続きを話す。
「とりあえず、ダーガ家が長年に渡り行ってきたことはそんな事だった。そして、次にゴウミ皇子についての謎なんだが、私もそれとなく現皇子たち全員が集まる機会などを設けて確認したんだが、確かにゴウミは存在していた。ただ、ダーガ家の記録の中で、ゴウミが生まれた際の記録に改ざんされた跡があるんだ。改ざん箇所からすると、恐らく出生の人数を偽った可能性が高い……」
「ゴウミには少なくとももう一人、同時に生まれた兄弟がいるということですか?」
ガイルが驚きの声を上げると、ミスラギは頷いた。
「ああ、双子だと仮定して、そもそも今城にいる方がゴウミなのか、いつの時点で入れ替わったのかなど謎は多い。ダーガ家の人間でないと分からないだろう」
「随分、用意周到に計画していたんですね。くだらない妄執のために……」
カミウが心底嫌そうに目を細める。
「ああ、そうだな。計画がばれないようにするために双子は打ってつけだったんだろう。そこまでしてその双子を異界に送ったということは、魔道の能力が高いのだと想像するけれど……」
「ああ、トアにコテンパンにやられた」
「ふふふ、本当に信じられないよ。是非、今度どうやって倒したのか教えてほしい」
「うん、皆が集まる時にでも話すよ。それにしても、彼らは僕が結界に入っていたことも目覚めたことも知らないはず。普通だったら、とっくに死んでると思っているはずなんだけど、何が目的なんだろう……」
「代々の当主の記録によると『ルーラルは生きていなくても、その子孫がいる』と書いてあった。ルーラル、君の血族や君に関係するもの全てが許せないようだ。こちらのアラキス家も当初はターゲットだったが、ルーラルほどの魔道の天才は当時いなかったことや、早々に侯爵家に降格となったことで、狙いを君や君の子孫に絞ったようだ。君の子孫がこちらの世界にやってきて再びダーガ家の皇子の邪魔をすることがないように、などとも書かれていたから、憎しみだけではなく恐れもあったのかもしれないな」
「そんなこと……一度も考えたことないのに……」
「ああ、言葉も出ないな。逆恨みにもほどがある。まぁ、一言で言えば君の才能が憎らしいんだろう。言葉で表すと実に陳腐なものだが」
「僕に関係するもの全て……ああ、だから魔法学校なども狙われたのか……」
「しかし、ダーガ家は最大の過ちを犯している。まず、君やトアの存在、それから、こうして世界を越えた協力が成り立とうとしていることだ。確かに、ガゴウやアガト、グドルの存在は脅威だが、トアにはそれらが見える。これは、あちらにとって大きな盲点だろう」
「そうだね……」
(トアがこの時代に居てくれること、それは僕が自分の過去について誇れることなのかもしれない……)
ルーラルは心の中で密かにそう思うのだった。
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そして、いよいよトアたちの世界のべージェル始め主なメンバーが異界であるブラザリア皇国へと渡って来る日となった。
全員の転移先は、万が一こちらの世界の住人に見つかって混乱が生じるといけないということで、城の中ではなくカミウの屋敷で行われることとなった。屋敷ではカミウとチェーリエしかそのことは知らされておらず、部屋にはルーラルが防音結界を張るという徹底ぶりだ。
時間前から部屋に待機しているミスラギは、珍しく内心緊張していた。
「陛下が緊張されるなんて、珍しいですね」
「異界の王族もいらっしゃるのだからね。緊張もするさ」
部屋には他にガイルとチェーリエがいたが、二人とも緊張でそわそわ落ち着かない様子で、しきりに茶のカップの個数などを確認している。会議では使用人も入室させない為、チェーリエやガイルが茶の用意をすることにしていたのだ。
そして、ついにその時間となった。何もない空間にまずルーラルが一人を連れて来た。ミスラギは、その人物が目に入った途端、頭に目がいってしまい、慌てて反らす。老人が挨拶らしきことを言い、ルーラルが通訳をするとミスラギも挨拶を返した。
「魔法連合のベージェル殿、ようこそおいで下さいました。私はブラザリア皇国の皇帝ミスラギ・ケイナ・ブラザリアです。どうぞミスラギとお呼びください」
カミウたちも順に挨拶を始めた。そして、すぐに今度はトアがススリード国王とルルド国王を連れて来る。そうして、徐々に部屋の中は沢山の人々で埋まって行く。終わりの方で連れて来られたルミオンは、ガチガチしながら挨拶を終えると、緊張から隣のリーニャの袖を掴んで口を開く。
「リ、リ、リ、リーニャ、僕、新たな境地にいるよ! まさかススリードやルルドの王様以上に緊張する事態が来るなんて、お、思ってもいなかったんだ!! ひゃっ! あ、ありがとうごじゃいまっ!」
「ちょ、ちょっとルミオン、しっかりして! お茶を配っていただいただけでしょ? 私たちの世界と変わらないじゃない! だから、服を掴むのやめて、シワシワになるでしょ?」
「ふふふ、ルミオン、大丈夫だよ。僕だって緊張しているのだから」
「マ、マルスミア王子ぃ!」
「あっ、ほら、ダメよ王子の袖を掴んじゃ! それなら私のにしておいて!」
大人たちも緊張していたが、子供世代のやりとりを聞くと少し和やかな表情になるのだった。
皆が席に着くと、ホスト国として皇帝ミスラギが口を開き、ルーラルが同時に通訳を始める。
「皆様、お集まりいただき有難うございます。そして、まず初めに申し上げたい。我が国の者たちが、貴方がたの世界で行っている行為に対し謝罪します。皆様、言いたいこともおありと思いますので、お聞かせいただきたい。情けない話ですが、我々もルーラルが最近こちらに来て、初めてその事実を知りました。ルーラルやトアの存在がなければ、そのような悪行に気付くこともできなかった。誠に申し訳ない……」
そこで、ベージェルが手を上げると、前もってススリードやルルド、および魔法学校とも意見を合わせていたことを話し始めた。
「ミスラギ殿、今回は前代未聞の世界を越えての犯罪じゃ。ただでさえ複雑なのでの、こちらとしてはシンプルに責はあくまで罪を犯した者たちに問うということにしたいと思っておりますのじゃ。ミスラギ殿たちとはそれを成し遂げる同志と思っております。もう十分謝罪のお気持ちは受け取りましたのでのぅ。対等に協力関係を築きたいと思っておりますのじゃ」
「寛大なお心に感謝いたします。皇国としても総力を挙げて協力させていただきます」
「僕からも、改めて……発端は僕個人への私怨ということが今回はっきりして、本当に申し訳なく思っています。でも、僕一人ではどうしようもなくて、皆さんのご協力が本当に有難いです。両世界の平和のために尽力します。どうか皆様、よろしくお願いします!」
ルーラルが両国の言語でそう言って一同に頭を下げると、皆賛同の意を示し頷くのだった。
事前にブラザリア皇国側の主要メンバーについては、ルーラルやトアの情報により信頼できる人物であると伝えられていたからこそ、すんなりとまとまった協力関係であった。




