第15話 それぞれの想い
ベージェルが次回の話し合いの日を決めてトアに伝えると、すぐにトアからルーラルたち皇国側へも知らされた。当日の話し合いの場所については、ダーガ家のほとんどがトアたちの世界にいると考えられることから、万が一ダーガ家の者に見つかり警戒されるといけないということで、ブラザリア皇国側で行うこととなった。また、トアやルーラルがゴウミの様子を遠視にて確認した際、ゴウミに似た白くツルツルした顔の者たちがゴウミのベッド脇に居ることを目撃しており、カミウたちに確認した所、その特徴からダーガ家の者たちであることが分かっていた。
「一説によると、ダーガ家の者の顔が白くツルツルしているのは、先祖代々、幼い頃より様々な呪詛の実験をする為、そういった特徴を持つようになったらしい……まぁ、あの家に生まれたこと自体が既に呪いのように思えるが……」
カミウがそう言っていたことをルーラルは思い出しながら、庭を見つめていた。庭ではリラが楽しそうに今日も花を愛でている。
「リラは……私達の幼馴染だったんだ」
そう言った声の主ミスラギを振り返るとルーラルは頷く。今日はリラの見舞いと情報交換のためミスラギはアラキス家を訪れていた。
「うん、そう聞いているよ。リラは、幼い頃はどんな少女だったの?」
「天真爛漫で……いつもニコニコ笑って私やカミウの側に居たよ。騒ぐこともなく、なんというか陽だまりのような感じだった……ああ、今も中身は変わっていないようだな」
ミスラギも窓辺に近づき、リラの様子を伺いながら言葉を続ける。
「少なくとも、どこか別の場所で過ごしたということはないし、そんな話をしたこともなかった」
「そうなんだ……」
「君は、割と確信しているんだろう?」
「ああ……でも……」
「まぁ、答えは一つではないんじゃないかな? 私たちにとってのリラが幼いままであるように、君が見る彼女が違っていてもいいんじゃないか?」
「そうだね……ありがとう」
「どういたしまして」
ミスラギとルーラルがリラを見守る視線は、どちらも温かい。
(呪いのような見えない力があるのなら、魂の転生だってありえるかもしれない……)
そう思えば思うほど、リラの存在が自分の中で特別なものになりそうで、ルーラルは少なからず戸惑いも同時に感じるのだった。
リラの散歩の時間が終わり、カミウやガイルも部屋に集まると皆の情報交換が始まった。まず皇帝ミスラギが口を開く。
「ダーガ家の捜査で見つかった書物や研究資料と思しきものを精査させていたんだが、恐ろしいことが色々と出てきた。その中には悍ましい実験のデータなどもあるが、それは今は割愛する。まず、ダーガ家の当主があのような家の中で代々権力を脅かされずにいた理由が明らかとなった。それが、アガトとグドルという元人間の呪詛の存在だったんだ」
それを聞いたルーラルが頷く。
「なるほど、やっぱりそうだったんだ……それが恐らくトアが見た二体の靄人形だね」
「ああ、そうだと思う。ダーガ家の周りで不可解な出来事や不審死などがたまに起こるのは、それらの影響もあったのかもしれない。この二体の存在はルーラルの時代よりもっと前からだということが分かった……」
そうしてミスラギが語ったアガトとグドル誕生に纏わるダーガ家の実験は、皆の背筋が凍り付くほど凄惨なものだった。聞き終わったガイルがボソリと呟く。
「そんな拷問に生身の人間が長期間耐えられるとは……治癒の家系に連なる私からすると異常すぎて理解できませんね」
「まぁ、その実験で成功したのは、後にも先にもアガトとグドルだけらしい」
「そのような家に死んでも忠誠を誓えるなど、正常な部分のある人間は無理でしょうね。そもそも人を害することを目的とした実験をする気持ちは露ほども分かりません」
カミウは顔を顰めながらそう言う。
「それから、これはルーラルにも関係することなんだが、そんなアガトとグドルを統率する存在が現われたと数百年前の記録にあった。その名はガゴウ・ダーガ・ブラザリア」
「ガゴウ……兄上……?! 一体、何が……」
「ガゴウ皇子は、君が失踪した後、その責を問われて結局皇帝にはなれなかった。記録によると、幽閉されて生涯を送ったとある。そして、どうもガゴウは死後に怨霊となって、ダーガ家の当主に自分の成し得なかった悲願を達成させようとしたようだ」
「それは……ダーガ家出身の皇子を皇帝にすること?」
「いや、そうではなくあくまで君に執着しているようだ」
「つまり、僕を殺すこと??」
「記録を読む限りはそんな感じだ。最初は皇帝になるためだけに、君の存在が邪魔だったはずで、君がいなくなったのだからどうでもよくなりそうなものだが、ガゴウ皇子の場合、幽閉後にねじ曲がりそのような執念を持つようになったんだろう」
「でも、すぐに僕を追っては来なかったよね」
「ははは、ルーラル。行けなかったんだよ。そもそも転移が可能になったのだって近年のことだし、それだって大量に魔力が必要だから、一般に実用化はされていない」
「そうなのか……」
「ああ、規格外の君だからこその盲点と言えるかもしれない。そして、今回ダーガ家で見つかったリラも含め長年捕らえられていた者たちは、魔力の多い者が多かった。恐らく、転移装置や実験に魔力が大量に必要だったんだろう」
「なんということを……そういえば、トアが大きな黒い人型の靄を見たと言っていた。あれがガゴウ兄さんの怨念なのかも。しかし、ただ僕を追いかけるためだけに……?!」
「ああ、本当にどうしようもない愚者だ。公爵家という立場や責任を忘れ、何代にも渡り影でコソコソと……何の関係もないリラなど大勢を犠牲にして……」
皇帝ミスラギも魔力は多く、今その魔力が怒りで溢れ出していたが、他の三人も魔力量は多く、同様に怒りが漲っており、魔力圧を不快に感じることはなかった。ルーラルだけはその中でも規格外の魔力量のため、念のために三人に結界をそれとなく張るのだった。




