第11話 協力
報告を聞き終えた後、険しい顔で思考を巡らせていた皇帝ミスラギは、まずルーラルの方へ向き直ると、頭を下げた。
「すまない……過去に君が受けた仕打ちは相当理不尽で非道なものであるのに、現在もまだその影響を止められていないとは……」
「ミスラギ、君は皇帝であるし国全体を見る立場なんだ。だから、そんな個人のしかも過去の妄執なんかに構ってはいられないさ。これは、僕個人に向けられた悪意だから、本来僕がどうにかしなければいけないんだと思う。でも、残念ながら一人ではどうにもならないことは、身に染みて分かった。それに、今は頼ってもいいんだと思わせてくれる人たちがいるんだ。だから、僕は敢えて君にも助力を乞いたい。両世界の平和のために、ダーガ家があちらの世界に伸ばしている手を引っ込めさせ、両方の世界で行った悪事を裁くよう協力してもらえないだろうか?」
「勿論だ。本来、こちらからお願いするべきことだ。ルーラル、ありがとう」
話がまとまると、とりあえずあちらの世界のベージェルたちにも共有して、今後の計画を立てることとなった。
「ところで、あちらの世界にいたゴウミだけど、こっちのゴウミと同じなんだろうか?」
ミスラギの疑問を聞いたルーラルが、ブラザリア城内のゴウミがいる場所を聞き、遠視で確認したところ——。
「同じように見える……ちょっとトアにもここまでのことを説明して見てもらおう」
「…………ということでね、世界を跨いでややこしい話になってしまったんだけど、ミスラギたちとも協力してやっていきたいんだ。まず、これについてトアはどう思う?」
「うん、いいと思う。どっちの世界にも跨ってるけど、一番の原因は、そのダーガ家なんでしょう? あ、それで私が魔力圧で潰しちゃったゴウミは、やっぱりここの王子だったの?」
「そう、それをトアにも確認してもらいたかったんだ。トアは対面であっちにいたゴウミに会っているから、この城にいるゴウミと見比べてみてほしい」
ルーラルが場所を教えると、トアも遠視で確認を始めた。
「うーん、んー……うん?? 何か、こっちのゴウミの方が顔のパーツが少し大きいような……あっちのゴウミを見た時の印象は、とにかく顔が白くてツルツルしていて、全てが細いってことだったんだよね。こっちも白くてツルツルはしているんだけど、眉毛とかそんなに細くないような……でも、はっきりは分からない」
その後、トアはとりあえず自分の世界に帰り、このことをベージェルたちに伝えて次回の話し合いに備えることとなった。ルーラルは、リラが言ったことも気になるのと、ダーガ家の捜査の過程で見つかった不気味な実験や書物などについてカミウたちが意見を聞きたいということもあり、もうしばらくこの世界に残ることとなった。
「一度、一緒にあっちの世界に行こうか?」
「んー、一人で大丈夫だと思う! 念のため自分に結界張るし、変な場所に着いたら、最悪収納袋経由で帰れそうだし!」
「分かった。じゃあ、何かあったら呼びに来て!」
「うん、じゃあまた! 皆さんにもまたって通訳しておいてねー」
そう言うとトアは手をちゃちゃっと振って消えて行った。それを見ていたルーラル以外の三人は、最早、その異次元とも思える魔道の才能に驚嘆するばかりだった。
「……というわけで、トアはあちらの世界の協力者たちに情報を伝えに戻ったよ。皆にまたね! ってさ」
「ふふふ、ははははは、そんな気軽な別れの挨拶でまさか世界を跨ぐとは……彼女は本当に、とんでもないな……あっちの世界も国や貴族がいるということは、階級社会なのか?」
そうミスラギが尋ねると、話の展開を予想したルーラルが答える。
「うん。でも、彼女は貴族ではないよ。孤児院で育ったんだ。双子の姉と一緒にね。でも……」
ルーラルは簡単にトアの生い立ちを話して聞かせた。聞き終わると、カミウが眉根を寄せて思わずと言った様子で零す。
「ふぅ、どこの世界も己の権力を振りかざす事しか考えない愚者がいるものだ」
「カミウ、私はその権力の最高峰にいるのだが……?」
「陛下は、なりたくて皇帝になられたわけでもないでしょう? それに、民のことを考えていますからね」
「はぁ、ありがとう。ルーラル、こう言ってはなんだが、皇帝なんぞにならなくて良かったよ、君は……」
「あはは、そうだね。そもそもなる気もなかったんだけどね」
「君はこれが終わったら……いや、今は止めておこう。それにしても、トアのような存在がいて、その上ルーラルが目覚めたというのに、ダーガ家は勝てる気でいるのだろうか?」
「ダーガ家が、現在どれくらいの力を持っているのか知らないけど、僕やトアの魔道の力については彼らには知られていないからね」
「そうなのか……君たちの魔道の力は一国などどうにでもしてしまえるというのにな。無知というのは恐ろしい」
「でも、ダーガ家単体なら力業でどうにかなると思うんだけど、一国家を侵略して動いているから厄介なんだ。侵略された国の人たちは元々善良な民だというのを知っているし、なるべく傷つけずにダーガ家だけ除きたいから」
「そうか……それは厄介だな。さぁ、それではそういう話を聞きながら、リラの見舞いに行こう。勿論、少し顔を見るだけだ。負担は掛けない」
「そんな勝手な予定ばかり作っていると、警護の者たちに嫌がられますよ?」
「カミウはいつも辛辣だ……なぁ、ガイル、そう思わないか?」
「お二人は……良い関係だと思いますよ」
ニコリと笑ったガイルに、ミスラギはジトーっとした目を向ける。
(今代のミスラギ皇帝の治世は穏やかそうだ……ダーガ家さえどうにかなれば……)
ルーラルはそう考え「ふぅ」と小さく溜息を吐くのだった。




