第9話 謎
目を開けたリラは、自分が死後の世界にいると思っていた。突然、目の前に知らない少女がおり、その顔がはっきり見えてくるにつれ驚きに目を見開く。
「……ルー……?……ん……違う……」
一方、重症だった女性が目を開いた途端、自分にそんなことを言って来てトアは、何と言っていいのか分からず驚いていた。すかさずルーラルたちが近づき、リラの様子を確認しようとしたのだが、リラはすぐにまた目を瞑ってしまった。しかし、唇が動き何かを言っているのが微かに聞こえて来た。
「……大変で……すごく……会いたかった……」
そう言うと閉じたリラの目尻に僅かに涙が滲む。
トアとルーラルは顔を見合わせたが、ハッと気付き同時に叫んだ。
「「言葉が!」」
リラがトアの世界の言葉で話したことに気付いた二人は驚き困惑していた。そして、それは他の三人も同様だった。
「一体、どうなっているんだ?」
ルーラルが発した疑問に答えられる者はいない。皆、何が起こっているのかは分からないままだったが、カミウが眠ってしまったリラの肩にそっと手を置き「大丈夫、もう大丈夫だよ、リラ」と繰り返す。
ガイルもすぐにリラの状態を確認したが、身体中にあった傷は全て消えており、目も本来の色に戻り機能も回復しているらしいということを目の当たりにし、未だ驚き冷めやらぬ様子だった。診察を終えると、カミウとガイルがトアの側に来て、ルーラルに通訳をしてほしいと言い、トアを真剣な眼差しで見つめる。
「君が来てくれて、本当に良かった。彼女は僕たちの血縁者でもあり、僕にとっては妹のような存在なんだ……本当に、本当にどうも有難う」
ルーラルが通訳すると、トアは「私も治せて嬉しいです!」と言って笑った。
トアの側を離れたガイルがルーラルに聞く。
「彼女は異界から来たと言っていたけれど、あんなに素晴らしい治癒の使い手が異界にはいるのかい?」
「ううん、彼女は特別なんだ。僕が目覚めたのも彼女のお陰なんだよ」
「なるほど……ルーラルが特別と言うのなら、僕達からすると本当に桁違いなんだろうなぁ。いや、すごいものを見せてもらった……手が光り輝くほどの威力の治癒魔法なんて……」
ガイルの驚きの声を聞いていたカミウも頷く。
「本当に、彼女の力は奇跡だ。絶望的だったリラの状態を回復してくれた。しかし、リラはルーラルに何と言ったんだ?」
ルーラルはリラが話したままを二人に通訳したが、二人とも首を捻るばかりだった。
「あちらの言語を流暢に話したことはよく分からないな……捕らわれていた時にあちらの言語に触れることがあったんだろうか? でも、あの身体の状態ではあまり外に連れ出されたとも考えづらいが……」
とりあえず、リラには静養が必要ということで、しばらくはそのままアラキス家で静養し、ガイルが通って経過観察をするということになった。
五人はその後、別の部屋に移り、今度はルーラルの話を聞くことになった。成り行きで付いて来たトアは異界の言葉は分からないが、ルーラルがトアやギンなど人の名前を口にすることで、何となくだが話している内容を推測することはできた。ただ、度々チェーリエ、カミウ、ガイルの三人が驚きの表情で自分に視線を向ける度に何だかそわそわしていた。
「……というわけで、今あちらの世界には呪術が持ち込まれ、大変な混乱が起きているんだ。呪術といえば、僕が居た頃はダーガ家が専門だったのだけど、今もそうなのかな?」
「ああ、今もダーガ家の専門で、呪術の仕組みなどは秘匿されている。しかし、今日捜査に入った屋敷には、ダーガ家の者は誰もいなかった」
「ゴウミというのもダーガ家で間違いないよね? ゴウミ・ダーガ・ブラザリアと呼ばれていたから、彼はダーガ家出身の皇子なんだろう?」
「ああ、そこが問題なんだ……実は現在、皇国の城にはゴウミ様が存在しているんだ」
「え?」
カミウの発言にルーラルは驚きを隠せない。それを見てガイルも頷く。
「ああ、確かに城にはゴウミ様が居る……実際に先日の城の行事にも出席されていた」
「そうなんだ……何がどうなっているのか分からないけど、ダーガ家がもぬけの殻だったのは、転移したからかもしれないね。転移には魔力が必要だから……」
「ああ、リラもそれらの計画に大量の魔力が必要で連れ去られた可能性が高いな。至急、皇帝陛下にお伝えしなければならないが、ルーラルとそれにトアも可能であれば一緒に来てもらえないだろうか? さすがに別の世界が絡んでくるとなると、陛下への説明に君たちの存在が必要だ。それに、リラは陛下にとっても大切な存在だから、治療してくれたトアには直接会うことを望まれるだろうと思う」
カミウがそう言うと、ルーラルは頷いた。
「僕は大丈夫だけど、トアにも聞いてみるよ」
ルーラルがトアに説明すると「いいよ! お城に行けるの?」とトアは即答で、それを聞いたカミウが微笑む。
「今代の陛下は気さくで効率的かつ柔軟な方だから、気楽に来てくれればいいよ」
カミウの言葉をルーラルがトアに再び通訳すると、トアは「分かった!」と言いニシシと笑った。




