第6話 故郷へ
魔法連合のベージェルの部屋では、トアがベージェルとルーラルにウィズダブラの牢で見た新たな黒い人型の靄について話していた。
「……すごく濃くて前の二体よりも大きかったんだよ!」
「それは厄介だね……それも僕の元いた世界から来ている可能性が高いね」
「異界の……ブラザリア皇国の情報が足りておらんのぅ」
「そうだよね、そもそも皇国がまだ存続しているのかも分からないし、存続していたとして、この世界に侵入して来ているのがダーガ家のような一部の者の独断なのか、皇国として動いているのかも分からない。一度……行ってみるかな……」
「えっ、ブラザリアに?!」
「うん。状況が分からないからね。この世界に来ている者たちの処遇にも関係すると思うんだ」
「そうじゃのぅ。場合によっては、ブラザリア皇国と協力できるかもしれんからのぅ」
「大きな人型靄のことも気になるし、すぐにでもあちらへ飛んで情報を集めて来るよ! ああ、でもなんだかちょっとドキドキするなぁ……」
「そういうの里帰りって言うんでしょ?」
「ははは、何百年も経ってるだろうからアラキス家があるかどうかも分からないけどね
「お城じゃなくて元の家に行くんだ?」
「うん、城は殺されそうになった記憶が強いから、なんとなくね……」
「気を付けるのじゃぞ」
「うん、では、行ってきます!」
そう言うとルーラルはシュンッと転移で消えて行った。
「まさか、もう行くとはのぅ……」
「お土産も持たずに行っちゃったね」
「ルーラル自身が大きすぎるほどの土産じゃろう」
「あはは、そっか!」
「どれ、茶でも入れてクッキーでも食べて行くかの?」
「え、いいの?! じいちゃんの焼くクッキー美味しいからね~嬉しいなぁ」
こうしてトアとベージェルは久々に二人でのんびりとお茶の時間を楽しむのだった。
**
一方、異界へ転移したルーラルは、自身の生家であるアラキス家の門の前に立ち感激していた。
「記憶にある門のままだ……」
しばらくそうして感慨に耽っていると、門の内側からひょこっと頭が覗いた。
「貴方だれ? よそ者?」
背の高いルーラルは、突然視界の外から声がして驚いたが、声のした下の方を見て、やっと声の主である幼い男児を見つけた。
「こんにちは。僕は……ルーラル・アラキスです」
「……嘘?」
「本当」
「本当?」
「うん……」
「大変だぁああああああああああ!」
「うわっ!」
突然、大きな目を更に大きくして叫んだ男児に、思わずルーラルも驚く。男児はそのまま屋敷の方へ全速力で駆けて行ったのだが、なにせ足が短いためその歩みは遅い。
途中二、三回転びながら、なんとか屋敷のドアを叩き入って行ったのを確認し、ルーラルは胸を撫で下ろす。
(誰か大人を呼んで来てくれるといいな……)
——ガシャーーンゴゴゴーーーン——
屋敷の中ですごい音がしたと思ったら、屋敷の窓中のカーテンがバッと開く。その後、またすごい音がして、ようやく屋敷のドアが開いたのだが——。
「「「「「ル、ルーラル様ぁあああ!」」」」」
「あ、ほら、貴方たちダメだって、ゆっくりもっと優雅にお出迎えして!!」
「お母様、無理よ! だってだって、憧れのルーラル様の帰還よ!!」
「もうっ、父上はこんな時にいないんだから!」
「ああ、ほら、そんなに上品に歩いてると俺が先にご挨拶しちゃうぞ?」
「お兄様、では私はルーラル様に最初に研究をお見せします!」
「あっ、ずるいぞ!」
「わぁあああん、僕も連れて行って!」
「ティーディーはもうお話したんだろ? もう、しょうがないなぁ」
大人数が興奮しながら近づいて来る様を、ルーラルはあっけにとられて見ていた。そして、ついに門まで来た集団は一斉に「うわぁーーー!!」と歓声を上げる。ひとしきり叫んだ後で、一番年上の女性が門を開けながら挨拶をした。
「初めまして、ルーラル様。私は当主カミウ・アラキスの妻、チェーリエです」
「は、初めまして! ルーラル・アラキスです」
ルーラルがそう言うと、また歓声が上がる。
「ちょっと、貴方たち静かに! 驚いていらっしゃるでしょう? 煩くしたらお話の順番は最後にしますからね!」
チェーリエがそう言うと、一瞬で静かになった。
その後、すんなりと屋敷に通され応接室のソファに腰かけたルーラルは、早速、不思議に思っていることを聞いてみる。
「あの、どうして皆さんは、僕がルーラル・アラキスだって信じてくれたんですか?」
「その一、ルーラル・アラキスですって名乗る人なんて本人しかいないでしょう! あ、僕ミヤド、十六歳!」
「その二、オドアイだから! 僕はフィーリー、十三歳!」
「その三、魔力量すごすぎますわ! 私はレイラ、十四歳です」
「その四、絵姿のまんまですもの! 私はティナ、十歳です」
「あー……その五! だって、戻って来るって僕、信じてたから! 四歳、ティーディーだよ!」
元気な五人兄弟たちがそう言うと、とっくに緊張が解けたルーラルは「ふふふ」と笑う。
(あはは、どうやら本当に僕の親戚なんだな……何百年も経っていて会ったこともないのに、親しみを感じる)
兄弟の自己紹介を兼ねた返答が終わると、こんどはチェーリエがルーラルに質問をする。
「ルーラル様は今日、戻られたのですか?」
「うん、本当にさっき門の前に転移して来たんだよ。あっ、それから皆、僕のことは気軽にルーラルって呼んで! あっちの世界でもそう呼んでもらってるから」
「あっちの世界ってどこ?」
「ティーディだっけ? あっちの世界は遠くにあるんだ。でも、魔法……あ、こっちでは魔道だね……魔道もあるし人も良い人たちが沢山いるよ」
「じゃあ何で戻って来たの?」
「ティーディー、それはお父様が戻ってからにしましょう。ルーラル、それでいいかしら?」
「うん、その方がいいと思う。僕は今のこの世界についてほとんど何も知らないから、良かったら待っている間に、本などを読ませてもらってもいいかな?」
「あっ、じゃあ私が図書室まで案内するわ!」
「ああっ! ずるいぞ、レイラ!」
「レイラもフィーリーもやめなさい、皆で行けばいいでしょう。但し、案内したら戻って来なさい」
「「「「「はーい」」」」」
こうして予想外にあっけなく、そして温かく迎え入れられたルーラルは、居心地の良い雰囲気の中で安心して読書に耽るのだった。




