第5話 突入
異界のブラザリア皇国では、ダーガ家への捜査の日を迎えていた。極秘に作戦を立てる必要があった為、今回の捜査ではアラキス家とセド家のみで作られたチームが、皇帝の直下で動いている。実行部隊の指揮はカミウ・アラキスが取っており、補佐としてセド家当主の弟であるガイル・セドが側についている。そして、今まさにダーガ家に突入する所であった。
「ガイル、こちらの魔道具では特に門の周辺から魔力反応はないが、どうだ?」
「ああ、毒などの類もなさそうだ」
セド家は代々治癒魔法に優れており、そこから派生して薬なども含め医学全般を専門にしている。
「では、これより突入する。屋敷内部にはこれまで長らく調査が入っていない。どんな物が仕掛けられているかも不明だ。即死はしないよう渡した魔道具を常に携帯しておくように。不審なものを見かけたら、すぐに報告せよ」
こうしてカミウたちは、内部が明らかにされていないダーガ家の中へ足を踏み入れたのだった。しかし——。
「おかしいな……」
不思議なことに、敷地内へ足を踏み入れても誰も咎めに来ない。それどころか、誰にも遭遇することもなく、カミウたちは眉を顰める。
「なぜ誰もいない?」
カミウの呟きにガイルも頷く。
ダーガ家の敷地内には建物がいくつかあり、正面の大きな屋敷は生活空間のようで、各居室や寝室、応接室など、他家と変わりない様相だった。しばらくすると、他の建物を捜索していた班から報告が上がる。
「北側の古い建物内部ですが、様々な研究や実験が行われている場所のようです……しかし、様子が普通ではありません……」
そう伝えに来た者は顔が青ざめており、カミウは「無理はするな」と声をかける。ガイルと共に街灯の建物へとすぐに向かったカミウは、その内部を見て言葉を失った。
「……」
「これは……?」
ガイルもそれ以上は言葉が出て来ないでいた。
その部屋には壁一面にガラス瓶があり、人体や動物らしきものの様々な部位が入れられていた。中には様々な色に変色したり、ブクブクと皮膚が泡立っているようなものもある。そのうちの一つを手に取って見ていたカミウの耳に、突如静寂を切り裂き絶叫が聞こえてきた。カミウたちがいる部屋からそう遠くない場所だと分かり、すぐにそちらへ向かう。
その部屋は壁の色が一面赤く、壁に取り付けられた棚には岩石のようなものが並べられていた。そして、その壁際で一人の捜査員がビクビクと痙攣しているのが目に入り、カミウたちが駆け寄る。
「何が起こった?」
「その棚の石のような物に触れた途端、こうなりました」
一緒にいた捜査員がそう答えた。男の唾液などを採取し、特殊な試薬で調べたガイルがカミウの方を見る。
「毒ではなさそうだ」
「そうか……こちらも試してみる」
カミウは懐から筒状の物を取り出すと、痙攣している男の鼻先に持って行き、カチッと突起を押した。すると筒状の先端から何かが噴き出す。目には見えない何かを吸い込んだ男の身体は徐々に痙攣が収まって行く。その後、状態を確認したガイルが「命の危機は脱したようだ」と言った。
「これは、ご先祖様が残した研究を元に疑似的に作られた浄化魔法のようなものなんだ」
「それはすごい……ルーラル・アラキス様のものだろう?」
「ああ……本当にすごい方だ。しかし、これが効いたとなると、やはり呪詛絡みか……持たせた魔道具で即死は免れたんだろう。しかし、凄まじく強い呪詛だ。仮にこの岩石が全てそれ級の呪詛を内包しているとすると……」
「一体、何に使うのか……考えるだけでも悍ましい」
そこへ他の班からの報告も上がって来る。
「閉じ込められている者たちを発見しました! 使用人と思われる者たちもいます」
「そうか! すぐに向かう」
カミウは今回の捜索対象となっている行方不明者の可能性を考え、急ぎ現場へと向かった。
現場は西にある棟の地下室だった。全員、拘束され口は塞がれており檻の中に入れられていた。檻の鍵は地下室の入り口にあり、カミウは率先して異臭が漂う檻の中へと足を踏み入れ、皆の拘束を解いていく。
「あ、ああ……助かりました……有難うございます」
皆、口々にカミウたちに礼を言う。
「この中にタイル・トーチはいるか?」
「は、はい、私です」
使用人服姿の青年が手を上げた。
「ご両親が心配されていたぞ。無事で良かった」
「助けていただき、有難うございます……もう両親にも会えないかと思っていました」
涙を流すタイルにカミウは状況を聞く。
「一体、何があった?」
「少し前に急に、牢に入れられました。理由は分かりません。このお屋敷では、使用人の入れ替わりが激しかったんです。不気味な所も多いですから、使用人の間ではいつも怖い噂が絶えませんでした。でも、所詮は噂だろうと思っていたんです。まさか、使用人が辞めているのではなくて地下に捕らわれているとは思ってもいませんでした」
「何の目的で捕らえられていたのか分かるか?」
「恐らく、拷問か何かの実験かもしれません……この檻から誰かが連れ出されると、その後に叫び声が聞こえてきて、もう戻っては来ませんでしたから……」
「それは、ここに捕らわれてから聞こえるようになったのか?」
「はい。普段、この建物は近づいてはいけないことになっていましたから。でも、少し前から誰も連れ出されることもなくなりました。食事もそれまでは届けられていたのですが、誰も運んで来なくなりました」
それを聞いたカミウは、捜査班に建物内を念入りに調査するよう伝える。そして、更に地下に部屋があるという報告が入ったのは、それから間もなくのことだった。




