第21話 遊戯?
ゴウミが強い口調で異界の言葉を発しているのを、トアはじーっと見ていた。
ひとしきりゴウミが言い終わると、トアだけに見えているらしい黒い靄人形は、再びトア目掛けて襲って来た。しかし、やはりトアが纏うフル型の結界には歯が立たず、しばらく攻撃をしたり纏わりついたりした後、今度はトアのそばで距離を保ちじっとトアを見つめ始めた。
(私を観察しているのかな……一体、これは何なんだろう?)
一方、リルは周りで起こっていることは理解できていなかったが、どうやらゴウミの機嫌を著しく損ねる事態になっているということは理解していた。
(どうしよう、ゴウミはすごく怒っているみたいだけど、何が起こっているのかも僕には全然分からない。ゴウミが何かしたと思ったんだけど、結局何も起こらなかった。トアは落ち着いているし、何が起こっているのか分かってるのかも……もしかして、ゴウミと渡り合えてる?? まさか、そんなことないよね……)
一向にフルが苦痛に呻く様子もなく、ゴウミの機嫌はどんどん悪くなっていく。
「おい、お前たち、こいつをやれ!」
ゴウミはそう男たちに命令した。
(まったく、こんな原始的な方法で痛めつけることになるとは……アガトとグドルの奴はいったいどうしたというんだ!? まぁ、いい。もうこいつにも飽きたし、早々に終わらせて片づけさせるか)
残りの男たち三人は台の上に上がると、トアに向かって拳で殴りかかってきた。
(さっき思いついた作戦でいこう)
トアは心の中でそうつぶやくと、まず一人目が振りかぶった拳が当たったふりをしてよろめいて見せる。
「ははっ! やはり簡単じゃないか! そのままやれ、早く終わらせろ!」
その後は三人が寄ってたかって攻撃をしてきた。トアはその全てを受けているフリをして、よろけたり、片膝を突いてみたり、果ては寝そべってみたりと色んなポーズを取った。それがしばらく続くと、傍からも奇妙さが目立つようになって来る。
「はぁっ……ふっ……ふはっ……」
「フーッ……ゴホッ……」
「ヒューッ……ハッハッ……」
三人の男たちの顔からは汗が滴り落ち、膝に手を着いて立っているのも辛くなっていた。しかし、ここで攻撃を止めようものなら、自分たちも先の二人と同じ運命を辿ることは目に見えており、息も絶え絶えに攻撃を続けていた。
一方、トアの方はと言うと、適度に寝転がったままで攻撃を受けるポーズを入れており、ちっとも疲れてはいなかった。
(あれっ、この人たち思ったより疲れるの早かったなぁ。あと、どれだけ持つかなぁ)
そう考えていると、ついに一人目の脱落者が出た。そして、ゴウミが口を開く。
「お前たち……何をしている?」
「ハッハッ……こ、こう……げ……ゲホッゲホッゲホッ……」
「もういい!!!」
ゴウミが大声で怒鳴った途端、男たちは何かの力を受けたかのように、ビターンと台の上に押し付けられた。凄まじい圧力を感じているようで、頬の肉が押しつぶされている。
トアは冷静に観察していた。
(ゴウミの魔力圧かな? でも、あの圧力、ここにはきてないし、ゴウミから伸びてあの男たちの周りにだけ発生してるみたい)
トアは魔力を感じ取り、そう考える。
その後少しすると、ゴウミは瀕死状態の男たちを処理するよう別の者を呼んだ。そして、場が綺麗になるとトアの方を向く。
「ふふふ、何が起こったか分からないだろう? 私が全部やったんだ。私の力だ……怖いか? 声も出ないか? まぁ、先ほどの攻撃を耐えたようだが、うまく攻撃を流していたのか? まぁいい。これは避けられまい!」
そう言うと、ゴウミは再び魔力圧を、今度はトアに向かって放った。
(魔力圧を掛けてるのかな……でも、結界があるから効かないし、それにあまり圧力強くなさそうなんだよなぁ……。でも、こういう風に魔力圧を操作して一定方向に出せるっていうのは知らなかった。せっかくだから、練習してみようかな……フーーーンッッ!)
——ボトン——
——ビタン——
——ドゴッ——
(あ、しまった……)
トアは魔力圧を上方向に飛ばしたのだが、天井裏にいたと思われる者たちが、上部の壁に打ち付けられ、反動で戻って来た結果、天井をぶち抜いてボトボトと落ちてきてしまった。
「なんだ、お前たち……何をしている?」
ゴウミは白くツルツルした血の気の無い頬をヒクつかせている。
(ゴウミは魔力も感じてはいないんだ)
トアはゴウミの発言から、トアが放った魔力圧には気付いていないことが分かる。
「方向を誤ったか?」
自身の魔力圧で三人が降って来たと、都合よく勘違いしたゴウミは今度こそとトアに狙いを定めたのだが、狙いを定めたのはトアも同じだった。二人は同時に互いの魔力圧を放出した。
——ビダーンッ——ゴロゴロゴロゴロ——
「グボッ……あがぁあ……」
トアの放った魔力圧はゴウミの軟弱な圧など一瞬で圧し潰し、座っていた豪奢な椅子の背に叩き落されたゴウミは、その勢いのまま反動で階段を転げ落ちたのだった。気が付けば、トアは台の上から、下に転がるゴウミを見下ろす格好となっていた。
(あー、これは予想外だったなぁ……もうちょっとくらい圧の抵抗があると思ったのに……)
ゴウミは転がって来た時にはまだ意識があったが、グボッと血を吐いてからは白目を向いて意識を手放したようだった。
「リル、何かごめん……」
「え? これ何? えっ? 新しい遊戯か何か??」
「そうだよね~混乱するよね……う~ん、とりあえず部屋に戻ろうか?」
倒れたゴウミの周りには例の黒い靄人形二体が集まっていたが、トアは無視して、リルと一緒に部屋を出たのだった。




