第19話 対面
フルを見送ると、トアはリルに気になっていることを聞いた。
「リル、最近ゴウミの様子はどんな感じ?」
「トア、ここでは大丈夫かもしれないけれど、もっと城の中心や人が多い場所では『ゴウミ様』って呼んだ方がいいよ。どこで誰が聞いているかも分からないから。最近、影でゴウミ様の悪口を言った人が病気になったりすることも起こってて、皆気味が悪いって言ってるんだ……」
「えーっ、何それ……それも呪術?? うん、でも分かった、気を付ける! あ、そうだ、危険なことがあるといけないから、リルにも結界張っておこう……これで、呪術も効かないっと!」
「えっ、何かしたの? トアは魔法が使えるの??」
「うん。リルは?」
「僕は使えないよ。デイン大陸の民は、以前は主に祝福を使っていたんだ。でも、魔法が使える人もいるよ。でも、そういう人でもそこまで魔力は多くないから、元々あまり魔法は使われていなかったんだって。今は、魔法も祝福も皆使わない。禁止されているからね」
「そうなんだ……魔法や祝福を使うとどうなるの?」
「使ったことが分かると、家族や親戚まで酷い目に遭う。殺された人も沢山いる。だから皆恐れて使わなくなったんだ」
「呪術の邪魔になるからだよね?」
「うん、そうだと思う。だから、トアも気づかれないように注意した方がいいよ」
「うん、分かった。ところで、ゴウミ……様は最近どんなことをしてるの?」
「最近は『遊戯』をすることが増えているよ……」
トアはフルからその内容を聞いており、『遊戯』という言葉が出た途端に嫌悪感を露わにする。
「トア、分かっていると思うけど、ゴウミ様が『遊戯』と口にしても、そんな顔を見せてはいけないよ。あの人のことだ、最悪、処刑されかねないんだから……」
「できるなら、してみるといいよ」
「だ、ダメだよ! ただでさえ遊戯の駒にするとか脅されてるんだから」
「リル、大丈夫だよ……」
そう言ってニッコリ笑ったトアの顔に凄みを感じて、リルはそれ以上何も言えなくなってしまうのだった。
それから間もなく、リルがゴウミの側に戻る時間がやってきた。つまりそれは、本日の遊戯が終わったことを意味していたのだが、これ以上トアに知らせてもトアを不快な気分にさせるだけだと感じてリルは何も言わなかった。
リルについて行き、ゴウミに帰還の報告をすることにしたトアは、製声機を着けて
フル結界を纏う。
いくつかの建物を通り、ひと際大きな木造の建築物の中にある長い廊下を歩いて行く。
(デイン大陸のお城は主に木材で作られてるんだ~何か雰囲気が違ってて面白いなぁ)
トアがそんな呑気なことを考えていると、ひと際大きな扉の前でリルが止まった。両脇には衛兵が立っていて、ジロリとリルたちを睨む。
「ゴウミ様お側仕えのリル、只今参上いたしました!」
「ゴウミ……様お側仕えのフル、タダイマサンジョウイタシマシタ……」
トアも覚えた通りになんとか言い終えると、衛兵が扉を開け、二人は中へと入って行く。
トアは広い部屋へ入ると、フルに教えてもらっていた通り視線は上げずにリルについて行った。リルが止まり片膝を突いたのでトアも隣に並び同じく膝を突く。
「只今、参上いたしました。何なりとお申し付けください」
「タダイマ、キカンいたしました。何なりとお申し付けください」
「……おおっ、お前、戻ったのか? ははははははは、これはいい! まさか本当に戻ってくるとは!! なんて馬鹿な奴なんだ!」
「……」
顔を上げたトアは、階段の上にある椅子に座るゴウミの顔やその周りをじっと観察していた。やたらと白くツルツルした細い顔は、眉や鼻、目といった全てのパーツまで細い。笑っている表情はまるで人間ではないように見えて、嫌悪感しか感じられない。ゴウミはフル結界を纏ったトアを本物のフルだと思っているようだった。
(えっ、何言ってるの、この人? 自分で戻って来いって言ったんだよね? そう聞いてるけど??)
トアは心の中で疑問しか出て来ずに沈黙していた。
「で? ドルクについての情報は得て来たんだろうな?」
「はい。ドルク……様は、どうやらバール帝国の森のどこかにいるようです」
トアは予めベージェルたちと話して決めた通りに回答した。
「なんだと? なぜ森にいる?」
「分かりません」
「誰から聞いたんだ?」
「バール帝国です」
「他には何を聞いたんだ!?」
「……ドルク様と一緒に魔法学校へ向かった者たちも森にいたようです」
「なぜドルクから報告がないんだ?」
「森で見つかった者たちは記憶が曖昧で、状況がよく分かりません。ドルク様も多分森にいるだろうということですが、帝国の城にも連絡は来ていないようです」
「……なんだそれは? それで結局、ドルクに会うこともなくお前は一人で戻ってきたのか?」
「……はい(なんか、めんどくさいな)」
「それで俺が納得すると思ったのか?」
「分かりません(んー、この人がどう思うのかなんて分からないし)」
「お前、死にたいようだな」
「え?(本当に意味不明だよ……)」
隣でやりとりを聞いているリルの顔はみるみる青くなっていく。
「ゴ、ゴウミ様! 申し訳ございません! 兄は旅の疲れで頭が働いていないようです!」
リルが焦る様子を見て、ゴウミはニヤリと笑った。
「ははは! そうだ、その反応だ! ふふふ、そうだな……こいつには言っておいたんだが、『遊戯』にお前たちを使ってやろうと思ってな。ははははは! 弟は理解しているようだぞ? 弟の方が賢いな!」
(何を言ってるんだろうこの人……何で笑ってるんだろう……すごくイライラする……)
「お、やっとお前も事態が分かってきたか?」
トアの表情が暗くなってきたのを見たゴウミが、愉快そうに言うのを聞いて、トアの心は一層冷め、表情は抜け落ちて行くのだった。




