第18話 リル
「フル結界を作ってて思ったんだけど、ルーラルはフルより背が高いから、身体を覆う結界もどうしても大きくなるんだよね。だから絶対に違和感が出るかなって。私はフルより少し小さいから、結界をちょっと伸ばしてフルの大きさにすることができたんだけど」
「そうか……でも心配だ……」
そう言いながら、ルオは無意識にトアの頬を撫でた。
(もし、こんなに綺麗なトアの素顔がゴウミにでも知られてしまったら……)
そこで、トアの顔が困惑しているのに気づき「あっ!」と手を離す。
「ご、ごめん……その、トアのことが心配だと思ったら思わず……」
「ん……大丈夫……撫でても減らないから……」
「プフーッ……トア、そんなこと言ったら、また撫でたくなるからやめて!」
ルオは吹き出しながらそう言うが、急に真面目な顔になる。
「トアを行かせたくない。でも、もし、どうしても行かなくてはいけないなら、問題は会話だ……弟リルにはすぐに状況を説明すればいいと思うんだけど、ゴウミについてや城で働いている人の名前などは分からないだろうから」
「そうだよね。それはフルに聞かないといけないし、最悪まずくなったら転移で帰って来てフルに聞くしかないよね」
「確かに、トアには転移があるから、いざとなればそれで逃げられるか……でも、呪術には気を付けて」
「うん」
こうして、ルーラルやベージェルたちと再度話した結果、最初は皆トアを行かせたくないと反対していたが、解決策も見出せず、いざとなったらすぐに転移するということと、トアの収納袋の中でフルやルーラル、それにベージェルも待機しており、いつでもトアに助言を与えられる環境を作るということで、皆、渋々納得したのだった。
ルーラルは製声機を完成させた。フル結界の内側にいるトアの口を製声機で覆い、落ちないように耳に掛けて使うと、トアの声が本当にフルのように聞こえた。そうして、デイン大陸国へ行くギリギリまでフルに、現地の様子を教えてもらいトアは出発の日を迎えた。
ベージェルの部屋にルーラルやフルも集まると、皆口々にトアに言葉を送る。
「トア、くれぐれも気を付けるのじゃぞ。危なくなったらすぐに袋に入るのじゃ」
「いざとなったら、僕を出してもいいからね」
「フルじゃなくて僕を出してもいいよ」
「うん、皆ありがとう。なるべくバレないように頑張るね。何かあったらすぐに袋に入って相談するから。あと、袋の中に食料や寝具も入ってるから、好きに使ってね。それじゃあ、皆にまず袋に入ってもらうね!」
そう言うとトアは、ベージェル、ルーラル、フルを収納袋の中に入れた。
リアやルオやリーニャたちには、既にベージェルやテリウスが手を回して連絡してくれており、トアがいない間のトーマスやウィズダブラへの食事の配布は収納袋から転移で自由に出入りできるルーラルが行ってくれることとなっていた。
「よしっ!」
ベージェルの部屋で一人になったトアは気合を入れると、皆で話し合った通り、まずはフルの弟のリルの部屋へと転移することにした。
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リルの部屋へ転移したトアは、そこが事前にフルから聞いて遠視でも確認していた場所だと分かり、とりあえず安心する。
(ふぅ~、無事に海の向こうの大陸へも転移できたみたい! ルーラルは距離は問題じゃないって言ってたけど、本当だった。いつもの移動と変わらなかったなぁ)
そんなことを思いながら部屋を見回す。フルとリルは城の中にある同じ部屋で生活していたとフルから聞いていた。そこには簡素な木製のベッドが二つあり、机は一つあるだけだった。リルのベッドには『叡智の化身オドアイ様』という本が置かれている。
(フルが話していた本はこれのことだ! あはは、ルーラルが見たらどんな顔をするかな……)
トアはフルが色々と話してくれた中にあった本を見つけてふふっと笑う。
そんなことに気を奪われていたせいか、トアは部屋の扉が少し開いていて、そこから困惑した様子で覗く少年がいることに気付かなかった。
「兄ちゃん!」
「うわっ!」
「やっぱり兄ちゃんだ!」
「あー……リル?」
「そうだよ、どうしたの? いつ戻ってきたの?」
「あのね、リル、落ち着いて聞いてほしいんだけど、実は私、フルじゃないんだ」
「えっ??」
リルは混乱しながらも、兄のフルはそんなに冗談は言わないので、怪訝な顔をしながらも次の言葉を待った。
「私の本当の名前はトア。海の向こうの国でお兄さんのフルに会って、色々協力することになって、ここに来たんだ。今、魔法を解いて元の姿に戻るね……」
そう言ってトアが結界を解き、製声機を外す。
「えっ……オ、オドアイ様だ……!!」
「あー……」
トアは「そうだった、デインの人たちは皆そういう反応をするんだった……」と思いながら、誤解を解きつつ説明をする。
リルは理解が早く、トアが言ったことも信用してくれた。全てを聞き終えたリルが、両手で頭を掴んでふーと鼻から息を出した。
「トアがルオ様と知り合いだったなんて……それにしてもルオ様やデインの皆がバール帝国でそんな目に遭っているのか……知らせてくれて有難う、トア。それに僕たちの仲間が強制的とはいえ、そんなことをしてごめんなさい。僕ももちろんトアたちに協力する」
「こっちこそ、すごく怪しい登場だったのに、信じてくれてありがとう!」
「うん、なんとなくトアはいい人だと思ったんだ。それに、否定しても、やっぱり僕にはトアもオドアイ様だって感じるしね」
リルはこれまで本で読んだオドアイ様は男性だったが、描かれている神秘的な美しさはトアからも感じることができ、心の中で「女性版のオドアイ様だ」と感動していたのだった。
「それで、兄ちゃんも無事なんだよね?」
「うん、実は、私の袋? の中に入ってもらってるんだ。こんな感じで……」
そう言うと、トアは収納袋からフルをイメージしてヒョイッと引っ張り出した。すると途端にフルが肩の辺りまで袋から飛び出す。
「うわっ!」
「うわっ! 兄ちゃん!!」
「リル! 良かった、無事だったか!」
「兄ちゃんも……良かったぁ」
そうして不思議な感動の対面を果たした二人は、トアが既に説明した状況を再び確認し合っていた。
「というわけで、トアに協力してほしい」
「うん、もちろんだよ、兄ちゃん」
「でも、くれぐれも気を付けるんだ」
「うん」
そうしてフルは、トアにも弟を頼むと言うと袋の中に戻って行ったのだった。




