第13話 負傷したアンドール
悲鳴を上げている七~八歳の女の子の周りを犬型の魔獣が狙いを定めながら近づいていた。
ガキーン!
アンドールが走り込みながら抜いた剣は、間一髪で女の子に飛び掛かった魔獣の牙に当たり阻止する。続いて素早く下方向から首に向かって剣を振り上げると、魔獣の首はバシュッという音を立てて転がり落ちた。
女の子を非難させて戻って来ると、デニスがネズミ型の小型魔獣数十匹に手こずっているのが見え、加勢に入る。
「くっ、こいつらちょこまかと!」
「ああ、厄介だよな。数匹ずつまとめて切っていくしかない!」
少し時間がかかったが、ネズミ型魔獣を全て駆逐した。こちらも無傷というわけにはいかない。隊服は丈夫に作られているが、ネズミに噛まれいくつも穴が開き、そのいくつかからは血が出ている。
「デニス、大丈夫か?」
「お陰でな。まだ動ける」
「よし」
二人でどうにか魔獣を切り殺しながら進んでいると、前方から隊服姿の騎士団員が数名走って来るのが見えた。近づいてくるにつれ、その顔ぶれが分かる。
「あれは、サイラウス達か?」
「そうみたいだ。だが、あれはまずいな……アンドールあの背後から来てる魔獣……」
「熊型か。しかも複数体……。しかし、ここで食い止めないと被害は広がるばかりだ。サイラウス達と協力すれば、なんとか時間稼ぎはできるか」
サイラウス達は目前まで来ている。このまま協力すれば……と考えていたアンドールだったが、サイラウス達の走る勢いは衰えない。
「……おい、サイラウス! 協力して魔獣を倒す…………は?」
自分達のところまで辿り着いたサイラウスとその取り巻き達は、すれ違い様にアンドールとデニスの背中を魔獣の方に勢いよく押した。
アンドールとデニスは咄嗟のことに反応できず、無防備な二人に複数体の熊型の魔獣が迫って来る。アンドールは体勢を崩しながらも咄嗟に剣を抜き、デニスの前に出て魔獣が振り下ろした腕を止めた。
腕を切られたことで魔獣が怒りの咆哮を上げると、他の個体も二人に狙いを定める。
「デニス、このままじゃ二人ともやられる。隙を見て逃げ出せ!」
「んなことできるか! 一人より二人だろ?」
そんな会話も許さないとでも言うかのように、二本足で立ちあがった熊型魔獣が腕を振りかざしてくる。なんとかお互い死角を補い合って数度は防いだが、デニスの右側面に鋭い爪が迫り——。
「うぐっ! ぐはっ!」
「アンドール! くそっ!」
咄嗟に身を挺してデニスを庇ったアンドールは、肩口から胸の辺りまで鋭い爪で裂かれ大量の血が出ている。
ダメか——二人に襲い掛かる魔獣の姿に最悪の想像しかできなくなったその時。
「うおーっ!」
「このやろう!」
「こっちは任せろ、あっちへ行け!」
「「「「はっ!」」」」
間一髪で騎士団メンバーの応援が駆け付け、その声に安堵したアンドールは一気に意識を手放したのだった。
騎士団メンバーは緊急時の連絡先を登録しておく決まりとなっており、アンドールの緊急連絡先は孤児院となっている。
町での異変が起こるより前に異変に気付いたのは、森から一番近くにある孤児院にいたトアだった。森からの地鳴りを察知したトアは、探索魔法を展開して大量の魔獣が孤児院のすぐ側まで来ているのを知ると、先日覚えたばかりの結界魔法を展開した。自分一人ならともかく、孤児院や教会を覆うほどとなると、まだ慣れていないこともあり全神経を集中させなければならず、誰かに見つからないように裏庭で必死に結界に集中した。
魔獣は最初のうち結界にぶつかってきていたが、入れないと分かると町の中心を目指して走り去って行った。
「今、皆は守れない。大丈夫……アンドール兄ちゃん達騎士団がなんとかしてくれるはず」
そう半ば祈るような気持ちでしばらく耐え続けた。それからどれくらい経ったか分からない。トアには随分長く感じた頃、孤児院に来訪者が来た。魔獣の気配が無くなったことで結界を解除したトアは、教会内の応接間に意識を集中させる。すると焦った神父様の声が聞こえてきた。
「そ、それで、アンドールの命は助かるんですか?!」
「まだ何とも言えません。騎士団のピオット医師がついています」
「ああ、どうか彼をお救いください」
「彼は勇敢に町の人達を守り続けました。騎士団の誇りです。引き続き全力を尽くします」
「……お金があれば、魔法でどうにかなるのですか?」
「いえ、残念ながら。治癒ができる魔術師は、現代では存在しません」
「そうですか……」
会話を聞き終えたトアは緊張で冷たくなった手をぎゅっと握りしめる。
「そ、んな……アンドール兄ちゃんが、死ぬ……な、んで? そんなわけない! そんなわけ……!!」
ツーッと目尻から流れた涙に、縁起でもないと涙を拭う。
「アンドール兄ちゃんは死なない。いや、死なせない! 治癒魔法……うん、そうだ。治癒魔法なら使える。人間には使ったことないけれど、でも大丈夫。熊も大きいけれど治せたから……」
そう決心すると、トアは一目散に騎士団へと走り出した——。




