第14話 空振り
ドルクの足取りについてバール帝国やケイリュウたちから有力な情報を得られなかったフルは、魔法学校に来ていた。
(もうこれ以上、時間を無駄にできない。僕が帰らなかったらリルがどんな目に遭うか……)
フルは追い詰められていく時間との闘いの中、極度の焦りを抱えて魔法学校の門をくぐった。焦ってはいても、デイン大陸の民であり元々温厚なフルは、もちろん脅しの手段などは用いないし、ましてや呪術などは扱ったこともなく、そんな手段は考えてもいなかった。
(ドルクが魔法学校に何の用事で来ていたのかは知らないけれど、何かの交渉とかだったら、その名前を出すだけで警戒されるかもしれない。でも、もうそんなことを気にしてはいられない……)
意を決して、フルは正面から尋ねることにし、受付で校長室への取り次ぎを頼んだ。
受付の係りの人からは訝し気な目で見られ、「ああ、デイン大陸の評判は良くないのか……」とフルは暗い気持ちになる。
しばらく時間がかかり、フルが「やはり取り次いではもらえないか……」と思い始めた頃、「校長室へご案内します」と言われ、驚きながらも案内されるままについて行く。
——コンコン——
「校長、お連れしました」
校長室に入ると、髭をクルクル巻きにした校長が紫色の椅子に腰かけており、フルに椅子に掛けるよう促す。緊張したフルが何か言おうとすると、先に校長が口を開いた。
「フル殿でしたかな。校長のテリウスと申す」
「は、はい。すみません、突然お訪ねして……」
「いいや、構わぬ。帝国からの使者と聞いて驚きましたがな。しかし、随分とお若い……いや、優秀な方なのだと思いましてな……」
「いいえ……」
フルは咄嗟に「本当に優秀なら、こんなことにはなっていないだろう……」と思わず自虐的なことを考えてしまう。フルの顔に陰りが見えて、校長は「ふむ」と何かを考える。
「ところで、フル殿は遠路はるばるこの大陸まで、何用ですかな?」
「はい、実は人を探しておりまして……もしかしたら、こちらを訪ねたのではないかと思ったもので……」
「その方のお名前をお聞かせ願えますかな?」
「はい。ドルクと言います……」
その途端、校長の髭がピクリと動く。
「ドルク……さて、残念ながら聞いたことはないですじゃ」
「そうですか……」
「もし、聞き及ぶことがあれば、フル殿に伝えましょうかな?」
「はい、数日内ならお願いします。それ以降はもう時間が無いので……」
悲壮感が漂う切羽詰まったフルの様子に、校長は何かを感じて更に質問をする。
「フル殿、話は変わって儂も聞きたいことがありますのじゃ」
「何でしょう?」
「最近、デイン大陸では、呪術なるものが流行っておると聞いておりましてな。以前は、祝福を得意とする平和な大陸であったと思うのじゃが……」
「デインは……デイン大陸の民は、祝福の民です。それは、これまでもこれからも変わりません!」
「そうか……では、呪術とは、何なのですかな?」
「それは…………祝福とは反対の……悪しき物です……」
「ふむ……。フル殿、儂の方でも先ほどのドルクについて当たってみるので、情報が得られるかは分からんが、明日また昼過ぎ頃に来てもらえるかな?」
「は、はい……お心遣い感謝します」
フルが去って行った後、校長室の壁際から白いマント姿のベージェルが姿を現した。
「テリウス殿、ご連絡感謝する」
「いえいえ、十中八九今回の騒動絡みと思いましてな」
「今のフルという少年、文様は刻まれていないところや時間がないという発言から、誰か大切な者を人質に取られていると思われるのぅ」
その後、対応について話し合ったベージェルとテリウスは、方向性が定まると明日に向けて迅速に動き出したのだった。
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その頃、デイン大陸国の城では、ゴウミが暇そうに欠伸をしながら、目の前で繰り広げられる『遊戯』を退屈そうに見ていた。
「もう呪術は出せないのか? それくらいでくたばってしまうようでは、取り立てるのは無理だな。おい、もうこいつらは息をしていない。次、もっと長く持つ奴を連れて来い。でないと、お前を遊戯に使うぞ」
「は、はいっ!」
毎日のように繰り広げられる『遊戯』という名の殺戮は、心優しいデイン大陸の民は見るだけで吐き、精神を病むため、遊戯の仕切りは異界人が行っていた。それは、予め弱い呪詛を込めた特殊な呪機を両者に持たせて、お互いに打ち合いをさせ、打たれることで出る負のエネルギーを呪機が吸い取り、呪術に変換してまた打つというものであった。どちらかが死ぬまで行われ、残った方も心身ともにボロボロで息をかすかにするだけになってしまうため、ゴウミが取り立てるような人間が出るはずもないのだった。
今日の遊戯が終わると、ゴウミがリルを呼んだ。
「リルか……フルは帰ってきたか?」
「いいえ、まだです」
「『まだ』なぁ? あっははは、お前は兄が帰って来ると思っているのだな? この大陸も頭のめでたい奴が沢山いる! 自分を犠牲にして助けに戻ると?」
「はい。兄はそういう人ですから」
「ははは! これはいい! あっはははははは! お前、なかなか面白いことを言う。いいか、兄も弟も他人も全部同じ、別々の生命体にすぎない。そこに愛だの情だのと幻想にすがるから、しなくても良い苦労をすることになる。しかし、そうだな、そんなに愛だの情だのが良いのなら、フルが戻ってきたらお前たち二人を遊戯に使ってやろう。同時にくたばれるのだから嬉しいだろう……ククククク!」
ゴウミはそう言うと、その様を想像して心底愉快そうに笑う。
(どうやったら、こんな非道な人間になるのだろう……)
リルは、最早人間とは別の生命体を見ているような気がして、嫌悪というのは通り越し、奇妙で不気味な感覚に襲われるのだった。




