第15話 お静かに
フルは翌日、予定通り昼過ぎに校長室を訪ねた。しかし、ノックをする前から何やら楽しそうな笑い声が、部屋の中から聞こえてきて、一瞬躊躇する。
(でも、外で聞き耳を立てているのも良くないし……)
そう思ったフルは、思い切ってノックをした。
「はーい、どうぞ! あっ、私が言っちゃった!」
そんな陽気な女の子の声が聞こえて来て、フルは驚きながらドアを開く。中には二人のシルエットが見えたが、逆光で良くは見えなかった。
次第に目が慣れて来ると、人の顔がはっきりしてくる——。
「えっ……オ、オドアイ様?!!」
「こんにちは、私はトアです。残念ながら、オドアイ様じゃないよ」
「あっ、失礼しました! 私はフルと言います」
「フル殿、よくおいでくださった。びっくりされたじゃろう。このトアはここの生徒なんじゃが、実はドルクについて知っているということで呼んだのだ」
「えっ、本当に?!」
「うん、本当だよ」
「今、ドルクはどこに?」
「その前に、一つ聞いてもいいですか?」
「はい」
「『ゴウミ』って人を知っていますか?」
「!!」
「あ、やっぱり知ってるんだね!」
「…………」
「貴方は制約の模様も入れられてないよね?」
「何でそれを……」
フルはあまりに驚きすぎて頭が回らなくなっていた。
「誰かが人質に取られているのかな?」
「君は、一体……」
「あっ、勘違いしないで。別に貴方を傷つけようとか、立場を悪くしたいわけじゃないから! ただ、私は私たちの国に酷いことをする人たちに怒っているの」
「酷いこと……」
「うん、勝手に人の国にやってきて、人質を取って脅したり、普通に一生懸命に生きている人の幸せを勝手な理由で壊す人たちのことだよ。貴方も同じ経験があるんじゃないかなって思ったんだ。貴方も怒っているんじゃない??」
「僕は…………僕も…………」
その後は言葉にはならず、フルは手が白くなるほど拳を握り締める。
その様子を見た校長テリウスは、フルに近づくとその大きな手でフルの手を包み込んだ。
「フル殿、儂らは味方じゃ。貴殿も含め、デイン大陸の民のことを案じておる」
「テリウス殿……貴方がたは一体どこまで……」
「そうじゃな、しかし、それを話す前にフル殿の不安を払拭して信頼してもらわねばいかん。トア、話していた通りに、フル殿を案内してもらえるかな?」
「はい! じゃあ、フルさん、一緒に行こう!」
そう言うと、トアはフルの手を掴んだ。
「え、どこに行くんで……う、うわぁああ——」
フルの絶叫は途中でプツリと途絶え、校長室には静寂が残る。
「うむ。後は若い者の力で、どうにかなるじゃろう」
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「——ぁあああ! むぐぅむほっほぅわはんむぅ……」
「しーっ! フルさん、静かに! 今、転移しました」
「ヘンイ?!」
トアに口を塞がれながらも、フルは負けじと口を動かす。
「はい、今、バール帝国の地下牢にいます」
「ヒハロウ??!」
「はい、気づかれると、処刑されるかもしれないので静かにしてください」
「……(コクコク)」
「じゃあ、そっと後ろを向いてください。くれぐれも静かに……」
そっと後ろを振り向き何があるのだろうと、目を凝らしたフルは、奥の暗がりから現れた人物を見て、驚きに目を見開く。
「!! あっ、貴方様は!! むぐっ!!」
「もう、やっぱりまた大声を出しましたね……」
「トア、ごめん苦労を掛けるね。やあ、フル……元気そうで良かった。でも、僕からもお願いだ。静かに驚いてくれると嬉しい」
今度こそ真剣に理解したらしいフルを確認すると、トアは当てていた手を離した。
フルは今度は静かな声で話す。
「ルオ様、ご無事ですか?! 地下牢に連れて行かれたと聞いて心配していたのです。バール帝国での待遇は良いものだと、向こうでは聞いていたのですが……」
「そうか、異界人たちはそのように伝えているんだね。帝国に連れて来られた人質は僕も含めてずっと地下室に閉じ込められていた。先日、僕だけこの地下牢に移されたんだ。他の子たちの環境もとても悪いから心配している。城はどうだ? フルは僕が大陸を離れた時は衣装係だっただろう? 君がデインの使者としてこちらの大陸に来たと伝え聞いて驚いていたんだ。何があった?」
「私は……大丈夫です。ルオ様がご無事であれば、それがデイン大陸の皆の総意ですから」
「いいんだ、ここでは有りのままを伝えてくれ。正しい情報が私に今一番必要なことなんだ」
「分かりました。それでは、私が見知ったことをお伝えさせていただきます」
そう言うと、フルは暗く悲痛な面持ちで語り始めた。
ルオから一緒に聞いてほしいと頼まれ、トアも共にその話を聞いていたのだが、途中何度も怒りで魔力が噴き出しそうになり、ついに二人に結界を張ってその話を聞いたのだった。
聞き終えると、ルオは怒りからしばらく沈黙し、感情を鎮めようと胸に手を当てていた。
「では……、側仕えがゴウミのその日の気分によって、何人も斬首や拷問に会い、余興でその家族も犠牲になった結果、衣装係のフルが今は側仕えとしてゴウミの世話をしていると? そしてここに来ている間、弟のリルが人質として側仕えをしている…………なんということを……」
「でも、心配しないでください。私が帰ればリルは助かります。それにリルはとても賢い子ですから、私が帰るまで無事にお勤めを果たすでしょう……」
「しかし……」
「ダメだよ!! 諦めちゃダメ!」
「トア……」
ルオはトアと目を合わせると頷いた。




