第9話 驚愕
突然、歴史上で最も偉大な魔導士とされるルーラル・アラキス本人が目の前に現れたら、人はどんな反応をするのか……その答えが今、目の前にあった。
一言で言えば「ポカ~ン」である。あまりの事態が何の予告も無しに起こると、人は何を考えればいいのかも分からず、とりあえず思考を停止する。
ベージェルのモコモコ頭が揺れることも無い。たまたまベージェルの部屋を訪れていたビームスが開いた口を閉じることも無い。
魔導士であれば、何度も見たことのあるルーラル・アラキスの顔は、トアに似て神秘的で中世的な美しさがある。そんなそっくりさんはそうそういないだろうが、今の二人はトアが「そっくりさん連れて来たよ!」と言ってくれた方が、まだ受け入れられた。しかし、トアはそんな二人の虚空が広がる思考に、ぎゅうぎゅうと新情報を詰め込んでいく。
「なんかね、ススリードの森にいるギンが、賢者さんの所に案内してくれてね。すっごく固い結界の中で、これまで見た事ないくらいの呪いに囲まれて眠ってたんだけど、やっと浄化できたんだ! あっ、呪いは別の異空間を作って投げ込んでおいたから大丈夫だよ! この前、魔力欠乏になっちゃったのは、その浄化をしてたからなんだ。ごめんね、心配かけて!」
「ねえ、トア」
「何、賢者さん?」
「だから、賢者さんじゃなくって、ルーラルって呼んでよー」
「えへへ、そうだったね、ルーラル。ね、じいちゃんたちもそう呼んでいい?」
「うん、もちろんさ! 賢者って慣れないし、僕は単に魔法の研究が好きだった魔法バカでしかないからね」
「ルーラルは、異界人なのにこの国の言葉上手だよね? ルオが言ってた語学の習得が早くなる魔道具を使ったの?」
「ううん、この世界に来た時にすごく勉強したんだ。それに、家族もできたから、それで上達したんだよ。トアは双子だったっけ? 他の家族は?」
「私とお姉ちゃんは孤児だから他の家族は分からないんだ。あ、お姉ちゃんのリアは、さっき話した通り牢屋にいるんだけど、今度会わせるね!」
「うん、楽しみにしてるよ」
「そういえば、じいちゃん、デイン大陸にいる異界人はルーラルの世界の人みたい。それで、ルーラルも協力してくれることになったんだけど、いいよね? あれっ? じいちゃん? それに、ビームスさんも、どうしたの??」
ルーラルとの会話が弾んでしまったトアは、二人の異変に今頃気が付く。隣にいるギンは初めからジロ~っとトアとルーラルを見ていたのだが、気付かず会話を続けてしまっていた。
「大変だ、二人とも息もしてない!! 大丈夫!? じいちゃん、ビームスさん、しっかりして!!」
トアが二人の肩を叩くと、「ズビッ」と息を吸った二人が「「大変だ……」」と同時に呟いた。
それからのべージェルとビームスの興奮ぶりはすごかった。興奮しすぎて、今度はルーラルとトアを逆に圧倒するほどの質問を浴びせ、それが収まると、二人で頬をつねり合い始めた。
「やはり、夢ではないのぅ……」
「そのようですね……」
見かねたトアが二人に注意する。
「二人とも、そんなにつねったら頬が腫れちゃうよ! とにかく良かったね、ルーラルが復活して! これで、分からなかった異界の敵のことも調べ易くなるよね!」
「そ、そうじゃのぅ……しかし、これは一大事じゃな……魔法連合だけで秘匿しておいてよい情報でもない。ルーラルはどう思うかのぅ?」
「僕は、未だに僕のいた世界が関わってきて、この世界に悪影響を与えていることを聞いて反省したんだ。僕のやり方ではダメだったんだって。だから、これからは悪い行いには毅然と対応していこうと思う。それで考えたんだけど、色んな影響を考えると、僕の存在は仲間内だけで共有しておいて、敵には伏せておくのがいいと思うんだ。トアと僕は転移もできるし、救出作戦や情報を探ったり、敵が予想できない動きができると思うしね」
「儂も、それが良いと思いますじゃ」
こうしてルーラルの存在は、先日集合したメンバーにのみ共有されることとなった。それから間もなくメンバーたちが再び集まることとなったのだが、案の定、その場は混乱やら狂喜やらが入り混じり、大騒ぎとなるのだった。
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古の賢者ルーラル・アラキス復活については、敢えて事前には伝えられずに、メンバーたちは集合していた。今回はススリード王国とルルド王国の国境付近にあるススリード王家所有の古城が会合場所だった。
そこへ、トア、ベージェル、ビームスとルーラルが転移で現れた。因みに、ギンは大きくて皆が警戒するといけないので、ひとまずベージェルの部屋で待機することとなった。
「初めまして! 僕はルーラル・アラキスです。皆さんの仲間に加えてください。よろしくお願いします!」
ルーラルが、ニコニコと挨拶をすると、ススリード及びルルドの王族は、目を見開いたまま固まった。ピーコロやミードルは「「う、う、う、う、うわぁああああ!」」と絶叫しながら涙を流し始め、魔法学校校長のテリウスは、髭を指でピーンと伸ばしたまま硬直しており、他の面々は手に持っていたペンを落としたり、言われたことが理解できずに怪訝な表情をした後、徐々に驚愕の表情になる者など様々であった。




