第7話 互いの能力
ルーラルがそう問いかけると、なぜか一早くギンが反応した。
「ワオオオオオン!」
「ははは、そうなのか、トアが特別なんだね。多分、浄化の力なんかは僕より優れているんじゃないかな……」
そう言ってルーラルとトアは互いの魔法能力について、簡単な検証をしてみた。
その結果、治癒や結界の力もトアの方が強い威力を持っているようだった。一般的な五大魔法やその他の独自の魔法に関しては、ルーラルの方が知識があり幅広く使えており、魔力量も大人のルーラルの方が多かった。それを確認したルーラルが言う。
「トアは全体的に守りに関する力が強いようだね。魔法は育った環境に影響される面もあるから、トアは誰かを守りたいって思いが強かったのかもね」
「守りたい……うん、そうかも。私、双子のお姉ちゃんがいて、リアって言うんだけど、元々孤児だったから教会で暮らしてて……でも、ある日リアに魔法能力が開花したら、嫌な貴族様に連れて行かれたの。その後、私も魔法が使えるようになって、それからリアが酷い目に遭ってるのを知って、守りたいって思ったんだ。だからかな」
「うん、その影響は大きいだろうね。仲がいいんだね……今もリアは貴族の所にいるの?」
「ううん、今は牢屋にいる」
「えっ?!」
「あ、でも大丈夫。ちょこちょこ確認もしてるし……」
そうして、驚くルーラルに、トアはこれまでの経緯を語って聞かせた。
長い話だったが、その随所に「呪い」という言葉が出て来て、最終的に「異界」に話が繋がると、ルーラルの瞳には怒りと後悔の複雑な感情が入り混じる。
「異界……なんということだ……トア、少し確認させてほしい。その記憶録に映ったドルクという男が話した言語を聞きたいんだ。君の記憶を見させてもらってもいいかい?」
「えっ、そんなことできるの??!」
「うん、僕があの記憶録の魔道具も作ったからね。トアにも多分使えると思うよ、多分似たようなことは既にやっていると思うんだけど……ええっと、どう説明したらいいかな。ああ、遠視を人の脳に向けて掛ける感じかな……より奥の奥まで、細かい物を見ようと集中して魔力を練るんだ。最初はその人に触れた方がやりやすいかもしれない」
「分かった、今度練習してみる」
「うん、僕の頭を使っていいから! 練習に付き合うよ。じゃあ、ちょっと見せてもらうね」
「うん!」
そう言うとルーラルはトアに触れずに、目を瞑ってトアに意識を集中する。トアが説明したドルクの「黒地に赤い模様の入った服」という特徴を意識してトアの記憶からその部分の映像を見た。
「……ゴウミ・ダーガ・ブラザリア……」
ルーラルがそう呟くのを聞いた途端、ギンが「ガルルルル」と唸った。しばらくして目を開けたルーラルが悲しそうにギンを見る。
「残念だ……何百年経っても、兄の執念は続いていたらしい。僕が甘かったのかなぁ……」
「クゥーン……」
「争うのが嫌で逃げた結果がこれだ……ああ、ごめんトア、説明するね」
ルーラルは心配そうな顔をするトアに説明を始める。
ルーラルは異界にあるブラザリア皇国の第四皇子だったとトアに言う。ブラザリア皇国は皇帝が治める国だが、皇子たちは五大公爵家から一人ずつ選ばれ、最年長の皇子が皇帝になるということだった。
「そんなに都合良く同じくらいの年齢の皇子が揃うの?」
「トアの疑問ももっともだよ。ブラザリア皇国には変なしきたりがあってね。五大公爵家の中で婚姻適齢期の直系男子は同じ日に婚姻を結ぶんだ。ああ、ちょっと難しいよね、公爵家の成人男性は同じ日に結婚するってことだよ。それ以降、それぞれの家で初めに生まれた男児が皇子として城に預けられる。そして、最年長の子が皇帝になるんだ。ずっとそうやって続いてきたのだけど、僕が皇子だった時の皇帝バゼロア・カラス・ブラザリアが、魔道に一番優れている者を皇帝にしようとしたんだ」
「魔道?」
「ああ、こっちで言うと魔法みたいなものかな。でも、魔道には治癒や呪術もあるんだ。僕の世界では五大魔法以外も存在していたからね。中でも僕の魔法は特別だった……創造魔法とか想像魔法とか呼ばれるもので、新たな魔法を作り出せるものなんだ。因みに、トアも創造魔法を使っているんだと思うよ」
「えっ、そうなの??」
「うん、僕と同じだね。因みに、トアや僕が使う火魔法は……こっちだと主に王族が使うんだっけ? その王族の火魔法とは違っているんだ。王族が使う火魔法は、あくまで火を何かの道具で発生させて、それを魔力で操るでしょう?」
トアは、授業でそう習ったと思い出しながらウンウンと頷いて聞いている。
「でも、僕たちの火魔法は、火そのものを出しているんだ」
「あっ、うん、そうだよね!」
「でも、実際には作り出しているんじゃなくて、どこかから持って来ているものなんだよ」
「えっ、どういうこと?」
「この世界か、もしくは別の世界から持って来た火なんだ。僕の仮説だと、僕たちは時空間に干渉する魔法を使えるから……あ、トアの収納袋の魔法もそれだよ……無意識に開いた時空間をどこかの世界につなげて、望みの物を引き寄せているんだと思う」
「え、じゃあ、どこかの誰かが使おうとしていた火が無くなったりしているってこと??」
「あはは、まあそうなるね。でも、そんなに大きな火でなければ、きっと『火がついたと思ったけどすぐ消えちゃった』って思われる程度で済んでいると思う。ただ、言ったように一瞬とはいえどこかの世界と繋げているんだ。だから、使う際には注意しないといけない。特に大きな威力の魔法を使う時にはね」
「そっかぁ、前にじいちゃん……あ、魔法連合の統括のベージェル・シュピーレじいちゃんね……に言われたことある。空間系の魔法を使う時は注意するようにって」
「さすが、魔法連合のトップだね。魔法連合も正しく機能していることが分かって、嬉しいよ。あの組織も、兄がこの世界に来ることを想定して作ったものだったから。でも、まさか何百年も来なかったとはね……」
ルーラルは不思議に思うが、それは自分の魔法能力が規格外であることを正しく理解していなかった自身の責任とも言えた。兄との交流もほとんどなく、権力にも興味のなかったルーラルは、兄の能力を過大評価しており、自身が事も無げに行った異界への移動が何百年もの研究の末にやっと成し遂げられるものだとは考えが及んでいなかったのだった。




