第21話 ルオ
デイン大陸の帝ヌシ・ウヌ・デインの孫であるルオ・ウヌ・デインは、幼い頃より将来帝になるべく教育されており、それ故、この窮地にも関わらず落ち着いているものの、まだ十歳であり、どんどん悪くなっていく状況に内心では焦りと絶望が膨れ上がっていた。
(ここに連れて来られている者たちや、国で不自由を強いられ耐えている人々の為に僕が弱気を見せてはいけない。お祖父様は決してあの者たちに屈しはしなかった……)
ルオは床に臥せっている祖父のことを考え、唇を噛みしめた。日光浴の時間ということで、地上で日の光を浴びているが、その心は暗く、数日前まで閉じ込められていた地下室のように固く閉じていた。
ルオは幼い頃、自分の護衛として常に側にいた男を慕っていた。父のギオ・ウヌ・デインは帝であるヌシを支える為、常に忙しくほとんど会うことはできなかった。なので、幼いルオが常に側にいたその男を慕うのは自然なことだった。父のギオは、ルオがその男と一緒に居るのが嫌なようだと他の者から聞いたことがあったが、「ならば父上が会いに来てくれればいいのに」と幼いルオは拗ねるだけだった。今にして思うと、もうその頃には敵が周り中にいて、父も母も身動きが取れなかったのだと分かる。
ルオが五歳くらいになると、男はルオに頼み事をするようになった。最初は本当に些細な事で「今日はあそこの花を見に行きましょう」というような頼み事とも言えないような自然なことだった。しかし、段々とその内容は本格的なお願いになっていった。「重たいので、この袋を置かせておいてほしい」だとか、「〇〇にこれを渡しておいてほしい」といった要望だったが、ルオは幼く、その男の役に立って褒められるのが嬉しかった為、従ってしまった。そのお願いは、決まって誰もいない時にされるのだが、その男を信頼していたルオはそれをおかしいと思うこともなかったのだ。
それが、デイン大陸の象徴でもあった『祝福』の力をそぐものであったということを知るのは、事が起こってしまった後だった。
ルオがその男に言われるままに行動した結果、祝福に関する情報が洩れ、国を護っていた祝福の力が削がれてしまったのだ。
(僕のせいで、デイン大陸は最後の要とも言える守護の力を失ってしまった。どうにかしてまた復活させたいが、自分が身動きを取れない状況で何ができるのか……)
暗い思考に沈んでいくルオだったが、ふいに肩を叩かれて伏せていた顔を上げた。しかし——。
(あれっ? 肩を叩かれたと思ったけれど、誰もいない……気のせいだったのだろうか?)
そう思った時だった。間近で突然声が聞こえて、思わず身体がビクッと震える。
「こんにちは、ごめんね、見つかるといけないから姿を消してるんだけど、私、トアって言います。貴方は地下の部屋にいた子供たちのうちの一人だよね?」
「あ、ああ、ルオだ」
「あ、やっぱりそうだったんだ! いなくなったから心配してたんだ! 良かった~あ、このまま話してると貴方がおかしく思われるから、もう行くね! 夜、牢に行くから、じゃあまたね、ルオ!」
「あっ……」
ルオが何か言う間もなく、トアはいなくなったようだった。
(何だったんだ、今のは? 魔法か?? この国には未知の魔法が存在するのだろうか……僕が地下の部屋にいたことを知っていた……敵なのか味方なのかもよく分からない。でも、敵意はないようだった……)
ルオは混乱したが、夜に来ると言われたので、とりあえず待つことにしたのだった。
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その頃、ススリード王国を抜け、バール帝国を目指す一台の馬車があった。馬車の中では、ぐったりした様子の元側妃のカーラとガルマ・バルザンがいた。
「お兄様、ダストンはどうなったのかしら……」
「分からない。上手くやれば待ち合わせの場所に使いの者が現われるはずだったのだが……」
「途中で聞いた平民の話では、何か城で騒動が起こった様子だと言っていたでしょう? ダストンは立派にやったのだと思うわ」
「そうだな……騒動に乗じてお前を助け出せたのだし、きっと上手くやったのだろう。とにかく、魔法連合やルルドの奴らに見つかってもマズイ。今はバール帝国に無事につくことだけを考えよう。きっとルカッドもそこにいるはずだ」
ガルマは城の混乱に乗じて、雇ったゴロツキまがいの男たちと牢屋番を脅してカーラを救出したが、それ以降はカーラと二人で人目を忍んでしばらく潜伏していたため、ススリード王国の城で起こった顛末を知ることはなかった。
そして皮肉なことに、ダストンはカーラがいた牢と同じ敷地にある平民用の牢に捉えられていた。カーラが脱獄したことで、貴族用の牢は現在調査や点検が行われていることもあるのだが、選民意識の強いダストンには敢えて平民に混じらせるようダンデリアムが指示したからでもあった。
平民用の牢に入れられたダストンは、しかし、それを認識できるほどの体力はない状態であった。
「ぐぁあああ……あぐぅうううああ……」
絶え間なく襲ってくる身体中の痛みと、気持ち悪さにのたうち回り、ごつごつした石の床で擦れた柔肌は擦り傷だらけであるが、その痛みが可愛いと思えるほどの苦痛の中にダストンはいた。
反省や更生を促すような生易しい措置はそこにはない。皆が受けたであろう苦痛に比べればまだ軽い呪詛なのだが、これまで真綿でくるまれたような環境にいたダストンには、呼吸をするのも大変なほどの苦痛だった。何も考えられずたた痛みに耐え続ける中、しかし食事を取らなければ死ぬ。牢に入れられてから二日後、ダストンがやっと口にした平民の囚人向けのスープは冷たかった。
未だ痛みに慣れず唸り声を上げるダストンはひたすら一つの言葉を繰り返す。
「こん、な、はずで……は……あぐぁ! うぐっ……がぁあああ……」
『影』から密かに異母弟ダストンの様子について報告を聞いた王太子マルスミアは、「そうか」とだけ答え、一瞬だけ視線を落とした後、再び書類を片付け始めるのだった。
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そして、ガルマたちが頼ろうとしているルカッドは今、まだ森の中を彷徨っていた。
「一体、なんでこんなことになったんだ?! 俺は、魔法学校の訓練室に向かって、それで…………分からない……何も思い出せない!! しかし、何かがあってここに来たはずだ……ドルク様はどこに……そして、ここは一体、どこなんだ??!」
ルカッドたちが森へ飛ばされたことなど知る由もない帝国から救助が来るはずもなく、その後ルカッドが帝国の城まで辿り着くのは、まだ先のことだった。
一方、同様に忘却の魔道具を被せられたドルクも、魔法連合の一室に閉じ込められ混乱の最中にいた。
「ここはどこなんだ? 部屋にはドアがついているが、そこに辿り着く前に何か固い壁のようなものに阻まれる……食事を持ってくる者に聞いても何も話さない……魔法学校に向かおうとしたことは覚えているのだが、その後どうなったのだ……?!」
魔法連合は、ドルクに一切の情報を与えないよう、食事の配布をする者にはあえて魔法連合のマントは羽織らせずに普通の服を着るよう指示をしていた。そのため、ドルクはまさか自分が魔法連合に捕らわれているなど思いもしなかったのだ。
しかし、ドルクの捕獲は予想しない場所で、波紋を生むこととなる——。
早いもので、第五章が終わりました。
読んでいただき、リアクションにブックマーク、評価までいただき毎回感激しています。
また、誤字脱字報告も、毎回本当に有難く思っています!!w(_ _)w
途中、注目度や総合のランキングにも載せていただきました。
ランキングに載ると親切にお知らせが届くのです。
前作の際にはなかった仕様なので、「へ?(’0’)」となりました!!
明日から第六章に突入します!
そろそろ着地点が見えてくるのかな?と思いながら、トアたちが行動するままに書き連ねています(笑)
もうしばしお付き合いいただければ幸いです。
いつもお読みいただき、エールを送ってくださりありがとうございます
!(^0^)!




