第19話 記憶録
ドルクの記憶は丸一日かけ記録され、その量は十日分ほどになった。その後は忘却の魔道具にかけられた後、他の者たちとは違い魔法連合に連れて行かれ、トアが結界を張った部屋に監禁された。
因みに、他の敵については、トアがわざと全員色々な場所に飛ばしたため、敵は各々森を彷徨い、自力で帝国の城に戻るには、早い者で二週間、遅い者は二か月ほどかかると予想された。
記憶録に保管された記憶は、記憶録上で見ることができた。魔法学校が襲撃されたことで、魔法連合とも合同で調査がされており、両方の組織によって記憶の調査が行われたのだが、そこで大きな問題が起こる。
「これでは、意味が分からんな……」
校長テリウスもドルクの記憶が映し出された画面を見て唸る。そこには、ドルクが特殊な魔道具と思しき物で、誰かと会話している場面が映っていたのだが、ドルクが話している言語を理解できる者が誰もいなかったのだ。ベージェルも聞いたことがないと言い、言語学の専門家を呼んできたのだが、その専門家ですら聞いたことがなかった。
理解できた場面は、ドルクが皇帝ダルーガなど帝国の人間と話している場面で、そのほとんどは既に起きた今回の襲撃についてのことだった。
全ての調査を終え、ベージェルはトアの部屋に来て、その内容を共有していた。
「……そういうわけでのぅ、収穫としては、一連のルルドでの疫病、ススリードの呪詛、魔法学校の襲撃などが全て帝国により計画されたものだと分かったことなのじゃが、ドルクが誰と話していたのかは分からんかったのじゃ」
「誰かと話す魔道具……あ、もしかして、ドルクはあのルカッドって男と同じでゴウミ様っていう人の下で働いてるのかな……」
そう言うとトアは、ベージェルに先日見たルカッドの件を話す。
「なるほどのぅ……儂もゴウミという名は聞いたことがないのぅ。それにあの言葉……この大陸も含め近隣大陸の者ではないのかもしれん。帝国の皇帝ダルーガもあのような言葉は話さんじゃろうし、ルカッドもドルクも一見、皇帝ダルーガの命令で動いているようで、そうではないのかもしれんのぅ」
「うん、まだ分からないことが色々あるね。また牢屋に戻ったら調べてみる。あっ、それから、ビームスさんにお願いしてたことがあったんだけど、ビームスさんに会えるかなぁ?」
「今日は魔連に戻っているじゃろうから、来るように伝えておこう」
「あ、それじゃあ、牢屋で会いましょうって伝えておいて!」
「ふほほ、待ち合わせ場所としてはいささかロマンチックでない響きじゃ」
「あはは、いいのいいの。ろまんちっくって言うのは、食べられないから必要ないって聞いたし!」
「だ、誰が言ったのじゃ?!」
「アンドール兄ちゃん!」
「……ふむ、そうか……」
ベージェルは若干心配になったものの、ニコニコと笑うトアを見ていると「まぁ、うちのトアはそれでいいのかもしれんのぅ」と思うのだった。
ベージェルが出て行くと、トアはすぐにまずリアの牢屋へ転移した。リアは、布団の上で微睡んでいたが、トアが転移してくるとガバッと飛び起きた。
「トア、大丈夫だった? 遅かったから心配してたんだよ! 食事の配布はミラスだったから大丈夫だったけど、ミラスも心配してたよ」
「そっか、悪いことしたね」
「それで、どうしたの? 何かあったんでしょ?」
「うん、色々あった……」
そうして、トアがススリード王国のダストンによる襲撃事件のことや、魔法学校の魔道具を狙った事件のことを話すと、リアの顔は青くなった。
「そんな大変な目に遭ってたの??! もうそれって、国同士の戦いだよ! そんなことの中心にトアがいるなんて……」
「全然中心じゃないよ、途中参加だし」
「ううん、だってトアがいなかったら、どちらももっと犠牲者も出ていたし、帝国に攻め込まれていたはずよ!」
「そうなのかなぁ。でも、帝国の皇帝が親玉なのかも分からなくなってきたんだよね」
「そうね……ベージェル様もテリウス校長も聞いたことがない言語なんて……」
「うん。だからね、ここに居る方がその謎が解けると思ったんだ……あっ、ビームスさんが来た!」
「え、どこ?」
「もう近くまで来てるよ! 透明化してるから分からないよね」
「トアは分かるの?」
「うん、なんとなく魔力を感じるからね。ビームスさんの魔力の感じは覚えてるし。ほら、犬とかも離れてても匂いが分かるでしょ? そんな感じ。あ、ビームスさん、こっち!」
その感覚は分からないリアだったが、何もない場所から男性の声が聞こえて来てドキッとする。
「トア様、遅くなり申し訳ありません」
「ううん、全然遅くないよ。私もさっき戻って来たし。それで、ケイリュウさんたちのこと何か分かった?」
「彼らは城にいる時は、警戒しているようであまり話をしませんでしたが、城のある部屋を当てがわれているようで、そこに寝泊まりしています。しかし、その部屋以外にもある部屋に定期的に出入りしていました。毎回、決して長くはないのですが、必ず行っています。ただ、そこの入り口が狭くてすれ違うことができないのと、入り口に見張りの帝国兵が立っていて、合言葉を言わなければ出入りできないようになっているので、内部を見られていません」
「そうなんだ……有難う! 怪しい場所が分かっただけで助かったよ。夜に行ってみようかな」
「城の内部を書き写したものを持ってきました」
「すごい! 助かる~!!」
ビームスは透明化したままだが、トアの方に地図を投げると地図が現われた。地図の目印は、城の地下室につけられていた。
「他にも何か調べますか?」
「今のところ大丈夫。あ、その魔道具にまた魔力を込めておくね!」
そう言うとビームスはトアの方に握っていた魔道具の球体を渡した。魔道具を手放した途端、ビームスの姿が現われ、リアは感動する。
「すごい、こんな魔道具があるなんて!」
「便利だよね! 賢者さんの魔道具なんだって。賢者さんってすごいな~」
トアが魔道具に魔力を込めると、ビームスは再び透明化して去って行った。遠視で地下室への道を確認してみたが、細く長い道がずっと続いていた。特に通路に人はいなかったことから、現地で確認する方が早いと判断したトアはリアに声を掛ける。
「よしっ、じゃあちょっと行って来ようかな!」
「トア、お使いに行くんじゃないんだから」
リアは思わず苦笑してしまう。でも、不思議なことにトアが言うと本当にそれくらいのことなのだと思えてくる。
「気を付けてね!」
「うん、今度はもっと早く戻ってくるから」
そう言うとトアは、城の地下室へと転移して行った。




