第17話 稼働する魔道具
テリウスには素早く結界が張られた為、何も感じていないが、ドルクや部下たちは一斉に膨大な魔力圧を感じてガクンと膝を突き、ビリビリするほどの圧力に慄く。
「こ、これは……あのお方と同じ……いや、それ以上の魔力圧……!? うぐぅ……」
凄まじい魔力圧に、ついに耐えられなくなったドルクがグシャッと床に張り付く。
トアは敵が皆動けなくなったのを見ると、そっとテリウスに近づき、殴られた傷を治癒魔法で治すと、「魔法訓練室に移動させます」と小声で伝え、テリウスを転移させた。
少し放出する魔力を抑えたトアは、「さあ、どうしようかな」と考えていた。敵は未だに立てないようで、四つん這いになっている。すると、背後から肩に手を置かれ、囁き声が聞こえてきた。
「トアよ、大丈夫かの?」
「あ、じいちゃん? 透明化してるんだ。あ、あの魔道具を使ってるんだね」
トアは先日ビームスが使用した魔法連合所有の魔道具のことを思い出す。
「そうじゃ。膨大な魔力を感じて来てみたんじゃよ。ここじゃったか」
「うん、敵が『忘却』と『記憶録』の魔道具を狙ってたから、天井の方に移動させたの。でも、校長先生に酷いことした上に、どこかに連れてこうとしたんだ。だから許せなくて……」
「そうじゃったか。一人にして悪かったのぅ。しかし、よく頑張った」
「えへへ。じいちゃんどこに行ってたの?」
「怪我人が多いようじゃから、魔連から応援を呼んでおったのじゃ。途中、出くわした敵も数名倒しておった」
「他にもいたんだ。ねぇ、じいちゃん、あの敵はどうしたらいいかなぁ?」
「そうじゃのぅ……おお、じゃあこんなのはどうじゃ? ゴニョゴニョ……」
「うん、それはいいね! やってみよう!」
トアはベージェルに「ちょっと待っててね」と言うと、天井近くまで浮遊で飛んで行く。そして、浮かんでいる魔道具の中から、忘却と記憶録の魔道具を見つけると、その二つに透明化を掛けて、床まで下ろしてきた。ベージェルのいる方へ向かって「取って来たよ」と囁く。二人とも透明のため少し不便だが、トアは人の魔力を見分けられるので問題はない。そして敵から見えないよう、かなり離れた位置まで行くと魔道具の透明化を解いた。トアはその魔道具に魔力を注いでいく——。不思議なことに、魔道具に触れて魔力を注ぎ始めると、使い方が魔道具に表示された。しかし、見えているのはトアだけのようでベージェルから反応はない。
「じいちゃん、魔力注いだよ。使い方も分かった。忘却は、この帽子みたいな部分を被せるんだって。被せてからの時間によって忘れる時間も変わるみたい。一分被せたら、今から遡って十分間くらいの出来事を忘れるって。記憶録も同じようにこの帽子みたいなのを被せるんだけど、一分被せたらそれ以前の十分間くらいの記憶を記録できるんだって」
「それは恐ろしい魔道具じゃのぅ。トアにはなるべく使って欲しくないから、じいちゃんがやってみるでの」
「でも、一人しかできないよ、どうする?」
「そうじゃのぅ。記憶録はこの中の親玉だけに使うので良いじゃろう。あの変な服のが親玉かの?」
「うん、そう、あの変なの」
「忘却の方は、ちぃと時間はかかるが、一人ずつやって、終わった者からトアに転移でどこかへ飛ばしてもらうかのぅ。下っ端はいらんからのぅ」
「分かった! じゃあ、前に地図で見たバール帝国の大きな森のあたりに飛ばしておこうかな……」
「ふはははは、それは愉快じゃ。これまでの敵もそこそこ戦える者たちじゃったから、死にはせんじゃろ。よし、ではトアは魔力圧をまず敵にかけておくれ」
「うん!」
トアが魔力の放出を強めると、途端に敵は床へと押しつぶされた。
「ぐふっ……ぐぁああ……う……な、にを……」
ベージェルはまずドルクの頭に記憶録の帽子を被せる。
「ふむ。こやつにはこれをしばらく被ってもらうとして……」
そして、ドルクの手下たちには忘却の魔道具の帽子を被せる。二分ほど被せては、トアが転移で飛ばしていく。ルカッドについては迷ったものの、魔力を覚えたトアならいつでも見つけ出せるということで、とりあえず今は飛ばすことにした。ただ、トアの要望で少し長めに忘却の魔道具を被せておく。そして、ドルク以外の全員を飛ばし終えたが、ドルクの頭にはまだ記憶録の帽子が乗せられている。なるべく長く記憶を探る必要があるということで、随分長くかかりそうだった。
途中、ドルクが床に押しつぶされながらも、呪文の詠唱をしようとしたため、トアはドルクの口に水を詰め込んだ。ドルクは吐き出しても吐き出しても湧いて来る水に目を白黒させ、疲労困憊で意識を失ってしまった。
「鼻から息できるから、大人しくしとけばいいのに……」
トアは勝手に自滅したドルクを見てそう呟く。
その後、ドルクは駆け付けた叡智のメンバーによって、起きても詠唱ができないよう口に強力なテープを貼られた上、魔力封じの枷をつけられ、記憶録が終了するまで交代で見張られることとなった。
トアは目立たない場所で透明化を解くと、テリウス校長の元へ飛んだ。テリウスはトアに先ほど掛けてもらった治癒魔法の礼を言う。
「トアよ、助かったぞ! まさか、生きておるうちに治癒魔法を掛けてもらえるとは! 長生きはするもんじゃて!」
すっかり元気になった校長に安心したトアは、「そうだった!」と思い出し、収納空間に入ってもらっていたカミド以外の面々を出した。皆、出て来ると「ここはどこ??」と同じ反応をする。トアは、リーニャ、ルミオン、ミードルの三人にこれまでの経緯を話して聞かせた。
「……だからピーコロ先生を医務室に戻してから、カミドさんも収納空間から出そうと思うんだ」
「……そうね、それがいいわね。まさかそんなことになっていたなんて……」
「そういえば、トアの空間にいた時に、ほんの一瞬、黒いものが見えた気がしてたんだけど、あれってそのドルクの手下たちだったのかな?」
そうルミオンが聞いた。
「あっ、多分そうだと思う。転移させる時にその空間を使ってるから」
「それにしても、広い空間だよね。すごく興味深くて、出たくないって思っちゃったよ」
「ミードル先輩、そんなこと思うのは先輩くらいね」
「リーニャ、それ褒めてる?」
リーニャがミードルに白い目を向け切りが良くなったところで、四人はピーコロの姿を探し始めた。




