第16話 魔道具を守れ
ドルクたちが向かった場所は魔法訓練室だった。扉は開いており、中へ入ったトアはあまりのことに思わず声を出しそうになる。
広いドーム状の魔法訓練室内全体が黒い靄に覆われているように、トアには見えていた。
(これ、全部呪い……? なんて量なんだろう……)
その魔法訓練室の中心では一人の男が笑い声を上げていた。
「あはははははは! 素晴らしい! やはり呪術とは偉大だ!」
「おい、ルカッド、肝心のじじいはやって来たか?」
「あっ、これはドルク様。はい、ドルク様の予想通りに、生徒を痛めつけておりましたら、ノコノコとやって来ました」
「生かしてあるだろうな?」
「はい、大丈夫です。おいぼれのくせに前線で生徒を守ろうとするので当てないようにするのに苦労しましたが、なんとか弱めの一発で押さえていますので大丈夫です」
「そうか。あの手前にいるのがそうか?」
「はい」
後ろから付いて行くトアは、黒い靄で視界が塞がれよく見えなかったが、近づくにつれ、それが校長テリウス・アーベンハーだと分かる。
テリウスは、座ってゼイゼイ息をしているが意識はしっかりしているようで、ルカッドとドルクが近づくと、ギッと睨んだ。
「まったく、おいぼれのくせになぜ無理をするのだろうな? 俺たちが興味があるのはここにある魔道具だけだ。『忘却の魔道具』と『記憶録の魔道具』を出せ。でないと、生徒たちももう持たないぞ? 何人か死にかけのもいるようだしな」
そう言ってドルクは床に寝たまま動かない生徒たち数名の方に顔を向ける。
(この人が探しているのは、二つの魔道具なんだ……校長先生が場所を言わなかったら皆が殺されちゃうし、この敵が魔道具を手に入れるのもマズそうだし……)
そう考えたトアは、校長の近くまで近づくと耳元で囁いた。
「校長先生、トアです。そのまま聞いてください。魔道具は結界を張って守るので、場所を教えてください。敵に教えても大丈夫なようにしておきます」
校長テリウスは初めこそビクッとなったが、ゼイゼイしながらも平静を取り戻すと髭をクルクル指に巻き付け始めた。敵に唇の動きを見られないよう鼻を掻くふりをして、トアに小声で話す。
「こ、この学校の一番高い尖塔がある建物の地下じゃ……特殊な鍵がいる」
「大丈夫。転移します」
「うむ。トア、気をつけよ」
「はい」
それを聞いたトアは、遠視で場所を確認し、確かにそこに部屋があると分かるとすぐに転移したのだった——。
トアが辿り着いた学校の地下室は真っ暗で何も見えない場所だった。
「うわぁ、真っ暗だ! すごく音が反響してる……」
遠視で見た時もそういえば、面積は広かったと思いながら、トアは指先に火魔法を出現させる。
その空間は想像した通りかなり広かった。トアは火魔法の威力を強めて遠くの方を見てみた。
「何か端の方に置いてある……」
トアが部屋の端に歩いて行くと、魔道具らしき物が陳列してあるのが目に入ってきた。
「これ全部魔道具なのかな……」
全ての魔道具は展示品のようにガラスケースに入っており、それぞれに名前が書いてある。その数は二十ほどで、小さいものもあるが割と大きな物も多く、それぞれが間隔を空けて並んでいる。
「ええと、『忘却の魔道具』と『記憶録の魔道具』だったよね……」
トアが確認していくと、それらの魔道具は隣同士に並んでいた。いずれも、トアが両手で抱えてやっと持てるくらいの大きさだが、金属でできているようで重量はかなりありそうだった。とりあえず、置いてある全ての魔道具に結界と反射を付与したトアは、「そうだ!」と手を叩くと、ケースの台が固定してあるネジを変形させて外し、全てに浮遊魔法をかけた。広い空間の天井はかなりの高さで、その天井より少し下あたりで全ての魔道具を円形に浮遊させる。
「うん、なかなかいいね! これで誰も手が届かない!」
トアが喜びの声を上げると、入り口の扉の鍵がガチャガチャと鳴る音がし始めた。
(校長先生、時間を稼いでくれたんだ。大丈夫だったかな……)
鍵が開くのに少し時間がかかったようだったが、校長を先頭に集団が地下室に入って来た。火魔法を消した為、暗くて何も見えなかったが、遠視で確認したトアはテリウスの顔を見て驚く。
(先生、殴られたんだ! 瞼から血が出てるし、腫れてるみたい……)
トアはすぐに治してあげたい気持ちに駆られたが、今はまずいと思い留まる。
一方、部屋へ入りテリウスが明かりのスイッチを押すと、部屋を見回したドルクが怒鳴り声を上げた。
「おいっ! 魔道具がないぞ!! やはり時間稼ぎをしていたのか!」
しかし、そこでふと上を見たルカッドが声を上げる。
「ド、ドルク様! あれでは??!」
ルカッドが指さした上方を見上げた一同は、あんぐりと口を開けた。テリウスまで口をぽかんと開けている。
「な、な、なんだ?! おい! あれはどうやって取るんだ??!」
テリウスも動揺していたが、すぐにトアがやったのだと理解すると、咄嗟に頭を回転させ始める。
「それが……私たちも困っておるのじゃ。なにせ賢者様が作られた貴重な魔道具故、保管方法もあのようにされたようなのだが、下すことができぬのじゃ。一度、移動式階段などを用いて下そうと試みたのじゃが、テコでも動かぬ。結界が張られておるようでな……」
「な、なんだと?! じゃあ、お前たち魔法学校は所持しているが使ったことはないと??!」
「それは当たり前じゃ。あそこから取れたとしても、賢者様と同質の魔力でないと動かぬであろうなぁ……」
「くそっ! ここまで来て、なんと報告すれば良いのだ!!」
ドルクの取り乱した様子に部下も困惑気味となる。しばらく何か一人でブツブツつぶやいていたドルクは、目を細めて舌打ちをした。
「私からの報告だけでは足りないかもしれないな……おい、校長、お前を連れて行くぞ。お前たち、逃げないようにそいつを縛って連れて来い」
ドルクのその言葉に、トアの怒りが膨れ上がった——。




