第14話 ピーコロ
当初、突然攻撃を受けた魔法学校では、教師たちが走り回って生徒の安全確保に努めていた。攻撃されたと分かった直後から、リーニャ、ルミオン、ミードルはすぐにカミドの店に向かった。それぞれが別々に行動していたのだが、カミドの店で顔を合わせた三人は、「やっぱり考えることは同じだよね」とお互い頷き合ったのだった。とりあえず、ルミオンとミードルが魔道具を持って魔法学校へ向かい、リーニャはカミドの店で魔道具作製の準備を始めていた。まだ沢山必要になることを予想しての行動だった。
しかし、今回襲撃してきた敵は、カミドの店の情報も得ていたようで、その後間もなく店も襲撃された。外からの風魔法や物理攻撃で店はめちゃくちゃになり、リーニャもカミドも倒れた家具の下敷きになってしまったのだった。
先に店を離れていたルミオンとミードルは魔道具を持って魔法学校へ引き返した。そのまま校長室へ持って行くと、校長のテリウスにとても感謝された。一番魔道具が必要になるであろう医務室に持って行き待機することとなったのだが——。
「ピ、ピーコロ先生、もういいですか?」
「いえいえ、ミードル君、こんなに素晴らしいものを大量に持って来るなんて、君はこの魔道具について、絶対に詳しいはず!!」
「ですから、僕はルルドの町でこれを手に入れただけで……ね、ねぇ、ルミオン、そうだよね?」
「う、うん、ルルドの町に売ってました……」
「それは、何というお店ですか?」
「薬草専門店です」
「ここから近いルルドの薬草専門店……カミドさんの所ですね?」
「はい……」
「でも、おかしいですね。そのお店は薬草専門店です。このような魔道具は…………ひゃあっ!!」
「「え……?!」」
三人は突然そこにトア、リーニャ、カミドの姿が現われ驚いたが、ルミオンとミードルは嬉しそうに駆け寄る。
「トアじゃないか! やっぱり無事だったんだね!」
ミードルがそう言うと、ルミオンも「絶対にトアは無事だと思ったよ」と微笑む。
しかし、カミドとリーニャの異変にすぐ気が付いた。
「二人ともどうしたの?!」
ルミオンが心配そうに聞く。
「あの後ね……お店が攻撃を受けたの。中もめちゃくちゃで、トアが来てくれなかったら私たちダメだったかも……トアが傷は治してくれたんだけど、結構血が出ていたみたいでカミドさんの意識がまだ戻らないの」
「そんな……父さん! 父さん! 聞こえる?!」
反応のないカミドにルミオンは唇を噛む。トアは、目を見開いたままのピーコロに声をかけた。
「医務室の先生ですよね? カミドさんをここで寝かせてもらってもいいですか?」
「あ、ああ! ちょっと待って!」
やっと反応したピーコロは、カミドに焦点を合わせると途端にキビキビと行動し始めた。
カミドをベッドに寝かせると、ピーコロはリーニャにも寝るように勧める。
「君も出血したと聞いたよ。安静にしていてね」
「はい」
そして、ピーコロの診察の結果、カミドは貧血ではあるものの他は心配ないとのことだった。
「それにしても……ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
そう言って微笑むピーコロに、ルミオンとミードルは「うわっ、始まった!」と警戒するが、トアは笑顔で元気よく「はい!」と答えている。
「まず、君の名前だけど……」
「あ、トアです!」
「トア……やってきた三人の中で君が一番元気だから聞くけれど、ベッドで寝ている二人がどんな状況だったか教えてくれる?」
「はい。二人とも家具の下敷きになって血が流れていました」
「血が流れていた……その傷はどこにあるんだい? 見たところ外傷はなく、血糊だけがあるんだけど?」
「あ……」
「それに、彼らは君が運んできたの? 随分力持ちだよね? 急に現れたように見えたのは気のせいかい??」
「あー……」
トアがルミオンとミードルの方を向くと、二人とも首を横にブンブン振っている。
「それでね、僕もあの素晴らしい魔道具について色々調べていたんだ。それで、ルルド国王から褒美をもらった生徒の話に行きついたよ。それが君と同じ名前……トアだ! これは果たして偶然だろうか? うふふふふふふ」
ピーコロが嬉しそうにそう笑うと、リーニャがベッドから起き上がり「はぁー」とため息をつく。
「ピーコロ先生、先生はお医者様なので守秘義務がありますよね?」
そうリーニャが言うと、ピーコロはもちろんだと頷く。
「でしたら、トアのことも秘密にしてください」
「うん、秘密にするつもりだよ。でも、それにはトアが患者にならなければならない!」
リーニャはなんとなくピーコロが言いそうなことを予想して、げんなりした顔をトアに向けた。トアはよく意味が分かっておらず、きょとんとしている。
「つまり、先生はトアを患者にするために診察を行いたいと?」
「うんうんうん、あ、もちろん簡単な診察だよ? 痛いことはしないし、問診と軽い検査くらいだよ!」
「先生、それはもちろん外の騒ぎが収束してからですよね?」
「あ、うん、もちろんさ! とりあえず持って来てもらった魔道具を怪我人に使わせてもらえるかい?」
「はい。トア、ということだけど、大丈夫?」
「うん、検査してくれるんでしょ? これまであんまり病気もしてないから、お医者さんにもかかってないし、やってもらえるなら有難いよ」
それを聞くと、ピーコロは大満足な様子でキビキビと働き出した。キビキビしている時のピーコロはとても手際がよく、そのギャップに皆驚く。それを見ながら、トアがふと疑問を口にする。
「ところで、学校の建物から煙が出ていたのは見たけど、あまり負傷している人がいないのかな? ここの医務室にもそんなに運ばれて来ていないし……」
「あ、トアは途中で来たし知らないよね。魔法学校が攻撃されてすぐに、全校生徒は魔法訓練室に集まるように指示があったんだ。あそこは内側からも外側からも対物理と対魔法の結界が張ってあるからかなり安全だと思う」
「そうなんだ、ルミオンよく知ってるね!」
「入学式の説明の時に賢者時代の魔道具で結界が張られたって、先生が言ってたんだよ。トアは途中から来たから知らないよね」
「うん、編入したからね。対物理と対魔法結界か……あれっ、じゃあ呪術はどうなんだろう?」
「んんんんん? 呪術だって??!」
キビキビと働きながらもトアの言ったことを聞き漏らさなかったピーコロが、話しに入って来る。
「うん、これがもし帝国の攻撃だとすると、呪術を使ってくると思うから……」
「帝国……呪術は僕も何度かしか扱ったことはないけれど、そもそも魔法とも違うものだと思う。だから、魔法訓練室の結界が効くかどうかは分からないな……」
「もしかして、あまり怪我人が医務室に来ないのは、来られないからとか……」
「「「「!!」」」」
トアの言葉に、その場にいた四人は固まる。
「それ……は……あり得るかもしれない……」
四人が最悪の可能性に目を見開いたその時だった。突如、医務室のドアが『ドォーン』という音とともに壊された——。




