第13話 胸騒ぎ
叡智と帝国兵との闘いは、叡智の圧勝であった。それもそのはず、叡智のメンバーは全員トアの結界が掛けられており、物理や魔法、呪術といった攻撃の全てが通らない。帝国兵は屈強であったが、叡智も普段から魔獣討伐などを行っている為、戦闘には慣れており魔法も得意なことから、有利であった。それに、負傷者で息のある者はトアの結界内にいる為、心置きなく戦えた。更に言うと、ダストンが呪いを返され倒れたことで、帝国兵に動揺が走ったことも要因だったと言える。
城の玄関ホールでの戦闘が終結すると、これまで呪機があるため近づけず、外で待機を余儀なくされていた兵士たちも一斉に集まってきた。
大方の浄化は終わり、人が増えて来たこともあり、再び透明化したトアは、ドリアムに「またね!」と言うと、叡智のメンバーと共に帰っていった。ホールの結界内で立ち上がったドリアムは、周りの悲惨な状況を見回す……。
(俺はまた助かった……助けられた……トアに……そしてガカランやランゾウに……)
兵士たちの亡骸を見て、ドリアムは拳を握り締め目を瞑る。血のつながりのある甥がしでかしたこの事態に、ドリアムは憤りと悲しみが溢れてくるのだった。
そして、ダストンの父であるダンデリアム王もまた、ドリアム以上に深い怒りと悲しみの中にいた。いつもであればすぐに思考を切り替えられるのだが、さすがに堪えていた。
(ダストン…………儂は、息子を失った。親として導けなかった……。こんなにも息子の心が変わってしまっていることに気付けなかったとは……。しかし、国は、民は無事だ……いや、守られたのだ。あの少女トアに——。凄いなどという言葉では表せぬ存在……そう、まるで古の賢者のようだ。ドリアムはその力を正しく認識しておった。だから自分の命の瀬戸際で彼女に助けを求めたのだ……)
ダンデリアムはそう思うと、その賢者のごとき力を行使して国の窮地を救ってくれたトアに深く感謝と畏敬の念を感じるのであった。
一方、魔法連合へ戻り、ベージェルに報告していたトアは、奇妙な胸騒ぎを覚えていた。その不安は次第に大きくなり、耐えきれなくなったトアがついにベージェルに伝えようと話し出す。
「じいちゃん、何かおかしい感じが……」
そこで、ドアをノックする音が響き、ビームス・トールが入って来た。
「ベージェル様、それにトア様も! 良かったです。魔法学校から緊急連絡が入りました。何者かに急襲されているとのことです」
「なんじゃと!?」」
「じいちゃん、何か嫌な予感がする……私、行かなきゃ」
「そうか、では今度はじいちゃんも一緒に行こう。ビームスも連れて行くぞ」
「承知しました」
「それから、まずは遠視で状況確認じゃ」
「うん…………え…………」
遠視で状況を確認しようと、魔法学校に意識を集中したトアは、煙しか見えて来ず混乱する。
「じいちゃん、何も見えない! 煙がすごい、どうしよう!」
「トア、落ち着くのじゃ。まずは三人で状況を確認しにいくぞ」
「うん。じゃあ皆に結界魔法かけるね」
「それから、決して無理をしてはいかん。手が足りない時はすぐに応援を呼びに戻るのじゃ」
「うん、分かった」
ベージェルは叡智のメンバーへ出動の準備をしておくよう伝えておく。
「まず、魔法学校の門のあたりに飛ぶね」
そうして魔法学校へ転移した三人は、学校の至る所から立ち上る煙を見て愕然とする。
「一体、何が起こっておるのじゃ……トア、儂は校長に会わねばならん」
「わかった。校長先生に会いに行って。私は、友達を探してみる」
「では、ビームスはトアについて行くのじゃ」
「はい、承知しました」
こうしてトアとベージェルは別れた。
トアが向かったのは寮だった。二日後には学校が新年度を迎えるため、ほとんどの生徒は学校に戻っていた。案の定、寮の建物からも煙が立ち昇っているのが見え、トアは心配で走るふりをしながら浮遊や風魔法を駆使して寮を目指した。ビームスも遅れて到着する。
「リーニャ! リーニャ! どこっ?!」
トアはリーニャの部屋へ行きドアを叩くが返事がないので転移で中に入る。しかし、リーニャも侍女のマルカの姿も見えない。
(リーニャ、どこにいるんだろう……リーニャだったら、どうする?)
そう考えたトアは、「あっ」と思いつくと、ドアの向こう側に戻り、ビームスに急いで話す。
「私、カミドさんの薬草専門店へ行ってきます! 多分、友達もいるかもしれないから! ビームスさんは、じいちゃんと合流してそのことを伝えてください。私もまた戻ってくるから!」
ビームスが頷いたのを見て、トアはカミドの店へ転移した。
店内へ転移したはずのトアだったが、店の棚が倒れていたり陳列してある商品も床にめちゃくちゃに散らばっているのを見て焦る。
(そうだ、慌ててて遠視を使ってなかった!)
そう思ったトアは遠視を使ってみる。
(リーニャ、ここに居ると思ったのに…………あれ……誰かの手だ……)
倒れた棚の下から誰かの手が出ているのが見えてトアは、その棚のある奥の部屋へと転移した。近付くと、髪の毛と制服のスカートが見えて、それがリーニャだと分かる。
「リーニャ! しっかり! 今、棚をどけるから!!」
トアは即座に風魔法で棚を浮かし、空いているスペースへ置くとリーニャに駆け寄る。
「リーニャ、リーニャ!!」
必死に呼ぶと、リーニャが少し反応した。頭から血が出ているのを見てすぐに治癒魔法を掛ける。
「リーニャ、聞こえる? トアだよ!」
「ト……ア……」
弱々しくそう言うリーニャの姿を見て心配になったトアは、全身に治癒魔法を掛け始めた。
「トア……ありがとう……楽になってきたわ」
「良かった……他の皆も店の中にいるの??」
何が起こったのかも聞きたかったが、まずは皆の安否が知りたくてそう尋ねた。
「皆は……ルミオンとミードル先輩は、魔法学校へ治癒や結界の魔道具を持って行ったわ。私とカミドさんが……大変、カミドさんはどこ? トア、カミドさんを見た?!!」
それを聞いたトアは遠視と風魔法を同時に使い、倒れている棚や商品を空中に浮かしながら、カミドを探す。しばらくそうしていたトアが叫んだ。
「カミドさんいた! ショーケースの下敷きになってた!」
「トア、行って!」
普段なら今いる奥の部屋から歩いてもすぐに店頭に辿り着けるのだが、物に埋まっているため普通には歩けない。
トアは転移すると、すぐにカミドの側に行き大量に出血している足に治癒魔法をかけた。傷は塞がったものの、カミドはまだ目覚めない。
(どうしよう、こんなところに寝かせておけないし、ベッドで安静にしないと……学校の医務室もめちゃくちゃになってるかな……遠視で見てみよう……あっ、医務室は無事だ! これなら、結界張れば大丈夫かも……けっこう広いし)
そう思ったトアは、リーニャを転移で連れて来た。
「リーニャ、カミドさんと一緒に学校の医務室で休んでて!」
「分かったわ」
そうして、トアは二人を連れて医務室へ飛んだ。




